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エネルギー枯渇の警報と、甘露拠点の同時暗殺プラン

※本作には残酷な描写や虫の生態に関する描写が含まれます。

ダンゴムシの肉をピストン輸送したことで、コロニーのタンパク質(建材)の枯渇という最悪のシステムダウンは免れた。

だが、コロニーからの出撃前。情報生物学者としての俺の計算は、現在のエネルギー収支に致命的な赤字バグを弾き出していた。


新たに稼働を始めた三匹の第一世代の、俺のサイズすら凌駕する巨大な装甲と筋力は、ただアイドリング状態を維持するだけでも莫大な糖分(燃料)を消費する。現在稼働している十二匹の幼虫が精製するアミノ酸スープでは、第一世代の要求カロリーに全く追いついていない。

大排気量の『重機』を小型の家庭用発電機で無理やり動かしているような状態だ。このままでは数日以内にコロニーの燃料プールは完全に枯渇し、巨大な兵器から順に活動を停止する。


絶対的な糖分不足。外部から高純度のエネルギーを直接調達するしか、システムを維持する道はない。

だからこそ俺は、防衛網をギリギリまで削って第一世代三匹と通常兵六匹を引き連れ、再び危険な森の探索へと這い出した。


強化された複眼と嗅覚をフル稼働させ、巨大な腐葉土の断層を慎重に進む。

目指すのは、他の捕食者の血生臭い肉の匂いではなく、もっと甘く、高純度なエネルギーの匂いだ。


ピクッ、と。俺の右の触角が、湿った微風に乗って運ばれてきたかすかな甘い匂いを捉えた。


植物の汁を吸ったアブラムシが分泌する、極上の甘露の匂いだ。


俺は背後の小隊に待機を命じ、単独で前方の偵察に出た。

俺たち巨大生物の視点では、ただのシダ植物すら見上げるほどの『超高層タワー』だ。俺はそのうちの一本の、太く緑色に脈打つ茎へと張り付き、葉の裏側から匂いの源を見下ろせる位置に陣取った。


顔面の透明な器官レンズが、眼下の太い茎の表面に群がるアブラムシの姿を鮮明に捉え、瞬時にその数を弾き出した。


三十七匹。前世の感覚で言えば『子豚』ほどの質量を持った丸々とした肉袋が、隙間なく緑の茎にへばりついている。


だが、そこは無防備な資源の天国ではなかった。

俺はシダの葉に爪を立て、息を殺した。


アブラムシの群れの下、緑色の太い茎の足場には、彼らを外敵から守り、甘露を独占している管理者の姿があった。

分厚く無骨な黒褐色の装甲。間違いない。俺からすべてを奪ったあの巨大な群れ――【アーキミルメス(始祖の単一巣)】の正規兵たちだ。


だが、俺の冷徹な脳髄は絶望するどころか、正確な計算を弾き出していた。

巨大な茎の足場にいる旧正規兵の数は、わずか5匹。


これほどの高純度な糖分拠点に対する防衛戦力としては、明らかに少なすぎる。

情報生物学者の思考が、夜の森で遭遇したあのはぐれ兵士のデータをフラッシュバックさせる。


あの夜、旧コロニーの正規兵が単独でパニックを起こしていた事実は、この辺り一帯が奴らのフェロモン網が届きにくい辺境領域であることを物理的に証明している。

ここが本拠地から遠く離れた小規模なエリアであるからこそ、たった5匹という少数の先遣隊しか存在していない事実と完全に合致した。


俺が引き連れているのは、俺よりもさらに巨大で強力な3匹の第一世代と、6匹の通常兵。正面からぶつかれば、今の俺たちなら確実にこの5匹をすり潰せる。

極上の糖分(燃料)と、第一世代の増産用パーツ(建材)が同時に手に入る盤面。


俺は逸るシステムへの探求心を極寒の理性で押さえ込み、眼下の5匹を冷徹に観察し続けた。

こいつらは少人数とはいえ、明確に本国と繋がった正規の小隊だ。


安全を期すなら、暗闇に紛れる夜まで待ってから奇襲をかけるのが定石だが、強化された嗅覚と視覚で茎の周囲の環境をさらに細かくスキャンし、一つの決定的な事実に気がつく。


奴らの本隊と行き来するための強烈な化学物質の道(道しるべフェロモン)が、地面から茎へと全く引かれていない。


つまりこの5匹は、広大な森を彷徨った末に、たった今このアブラムシの群れを新規発見したばかりの偵察部隊だ。

そして俺のレンズが、最も恐ろしい致死のトリガー(タイムリミット)を捉えた。


5匹のうちの1匹が、アブラムシから極上の甘露を限界まで吸い上げ、半透明の腹をパンパンに膨らませた。そして、巣のあるであろう方角へと向き直った。


甘露のサンプルを持ち帰り、本隊へ続く道しるべフェロモンを引く行動シーケンスに入ったのだ。


あの一匹がこの茎から地面へと最初の一歩を踏み降ろしてしまえば、完全にエラーを吐く。数十分後には、その匂いを辿って絶望的な数の増援部隊が押し寄せてくる。数え切れないほどの重装甲の顎がこの茎を完全に埋め尽くし、俺たちを液状にすり潰すだろう。


だが、俺の冷徹な脳髄は目前の地形から最適解を組み上げていた。


地形は俺たちに味方している。アブラムシが群生しているのは隣り合う二本の花の茎だけであり、敵の5匹も、右の茎に3匹、左の茎に2匹と分かれて駐留している。


夜を待つ猶予はない。敵に通信フェロモンを放つラグすら与えず、あいつが茎を降りる前に、二本の茎で完全同時殲滅を実行する。

俺はシダの葉の陰から静かに後退し、待機させていた3匹の第一世代の元へと戻った。


俺は3匹の巨大な頭部を引き寄せ、極めて濃度を絞った微弱なコマンドフェロモンを直接擦り付ける。

こちらで確実に一撃必殺の暗殺ができるハードウェア(大顎)を持つのは、第一世代3匹と俺の、計4匹。

しかし俺の左胸には致命的な亀裂が残っており、無理な軌道を描けば自重と衝撃で装甲が砕け散る深刻なデバフを抱えている。


狙うのは頭部と胸部の接続部(首)だ。一撃で神経を切断し、絶対に警報フェロモンを出させるな。部隊を二手に分ける。


俺の放つタスク配分のシグナルに従い、小隊が音もなく二つに割れる。


左の茎には、第一世代2匹と通常兵3匹が向かう。巨大な2匹で、敵2匹の首をコンマのズレもなく同時に切断しろ。


俺と、残りの第一世代1匹は、通常兵3匹を連れて右の茎(敵3匹)を登る。対象2匹を俺と第一世代で同時に仕留め、残る1匹は通常兵3匹がかりで顎と触角を数秒だけ力任せに押さえ込んで拘束し、その間に俺が首を刈る。


数の多い主戦場は、俺自身がコントロールする。

残りの通常兵には、事後のアブラムシの回収と、血の匂いを消すための植物の汁の散布(偽装工作)のタスクも割り振った。

第一世代たちが、命令を完璧に理解したようにカチリと音を立てず大顎を閉じた。


茎の裏側(死角)を登り、奴らが地面に降りる前に処理プロセスを完了させる。


音もなく、静かに。俺たちゼノミルメスの暗殺部隊は二手に分かれ、緑色の太い丸太のような茎の裏側へと、鋭い爪を立てた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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