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第5話 聖リリウム学院、七不思議事件(1)

 ミラード邸の賊が侵入した事件から三日後のこと──。


 リュミエットはダイニングのテーブルについて朝食をとっていた。

 昔から小さな鉢植えがよく見える窓際の席がお気に入りだった。

 その鉢植えをじっと見ながら、リュミエットは微笑んだ。


「本日もご覧になっているのですか?」


 オレンジジュースを注ぎながら、リュミエットの専属執事であるギルバートは声をかけた。


「だって。このお花、お気に入りなんだもん」

「それは……お恥ずかしいです」


 ギルバートは長めの黒髪からその蒼い瞳を覗かせて言った。


「ふふ、ギルバードったら。リリウムを女の子に贈る意味をわかってなくて……ふふ……」

「あーお嬢様、そろそろ学院に遅刻してしまうお時間かと

「えっ! うそっ! もう、早く言いなさいよ!」


 リュミエットは急いで残りのパンを食べると、ジュースを飲み干した。

 すっかり具合もよくなって復帰した料理長に「今日も美味しかったわ!」とリュミエットが声をかけると、料理長は一つ頷いて笑いながら彼女を見送った。



 馬車に揺られること数十分、リュミエットは聖リリウム学院に到着した。

 教室に向かうまでの廊下では、今日もたくさんの令嬢たちが世間話をしている。

 そんな彼女たちは、リュミエットの姿を見ると恍惚とした表情で見つめた。


「麗しの『白百合の君』だわ~」

「今日も美しい黄金の髪。それに、同じ制服とは思えない着こなしね~」


 令嬢たちはうっとりとリュミエットを見つめ、そして授業に向かう途中の男性教師も見惚れていた。


(やっぱりみんなにじっと見られてる、でも……)


「はあ……」

「どうされました?」


 リュミエットのため息に、ギルバートが声をかけた。


「みんな、またヒソヒソ話してるの」

「お嬢様がお綺麗だからですよ」


 その言葉を聞いてリュミエットは立ち止まり、ギルバートを見上げて言った。


「……あなた、ほんとにキザよね」

「お褒め頂けて光栄です」

「いや、褒めてないからっ!」


 そんな会話をしていると、リュミエットの授業を受けるAクラスの教室にたどり着いた。

 席につくと、なにやらひそひそと令嬢たちが噂話をしているではないか。


(なんか、今日は騒がしいわね)


 リュミエットはこっそりと耳を澄ませて聞いてみる。

 ……彼女に、話しかけにいく勇気はない──。


「ねえ、聞いた? フィリア様のこと」


(フィリア嬢? それって、私の前の席の子よね)


「ええ、階段から誰かに突き落とされたらしいわよ」


(え……)


 思わずリュミエットはギルバートの方を見ると、彼も険しい表情でその声を聞いていた。


 彼女らの噂話に耳を向けていると、隣の子が立ち上がってよろめいた。


「あっ!」


 その令嬢は床の小さなへこみに躓いたらしく、バランスを崩して倒れそうになった。


(いけないっ! 転んじゃう!)


 リュミエットが手を差し伸べようとした時、ギルバートが咄嗟に令嬢を抱き留めた。

 令嬢は顔を赤くして、俯きながら、お礼を述べる。


「す、すみませんっ! ありがとうございます!!」


(よかった……ん……?)


 すると、ギルバートの背中側から手を差し出した令嬢は、リュミエットに手紙を渡した。


(手紙……?)


 ギルバートが令嬢と会話をしている隙に、そっと開いて中を見た。


(え……)


 そこにはこう書かれていた。




『フィリア嬢を突き落としたのは、ギルバート様』

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