風邪
オレと琴音は、別々の高校に通っている。
琴音は、看護学校。
女子しかいない学校だから、彼氏ができる心配なんてない。
…はずだった。
でもさ、どこからでもアプローチってできちゃうもんなんですよねー…。
駅で声をかけられたりとか、友達からのいきなりの紹介とかねー。
琴音ってかわいいからさー…。
そんでもって頭もいいし…
どうしたらいいんよーって風呂で長風呂して悩んでいたら…オレは風邪をひいた。
ほんと…オレってどうしようもないくらいのおバカです。
そんなおバカなオレは、部屋でじっと風邪を治すのです。
すると…
琴音が静かな声で、ドアの向こうから
「寝てる?かな…」
ってオレに気を遣いながら声をかけてきてくれた。
「あ、起きてるけど…オレ今風邪ひいてるから…来ない方がいいかも。」
「うん、知ってる。すぐ帰るから…あけるね?」
琴音は、そっとドアをあけた。
いつもは、元気よく入ってくるけど…こういう時は、やっぱり看護プロを目指しているだけあって、気遣いが半端ない。
「寝て…た?起こしちゃったかな…?ごめんね」
と、めっちゃ気を遣ってくれているのがよくわかる。
ってか…
「なんか、大荷物やん…。どうした?」
「あ、風邪にいいかと思って…雑炊とか果物とかスープ…差し入れにと思って。あと、水分補給大事だから…これとあれと…」
と、たくさん持ってきてくれた。
「琴音は、いい奥さんになるなぁ」
「え、それは…プロポーズ?」
「え…と、そんなわけ…ないけど…まぁでも、そうとってもらってもいい…かな…ぁなんてさ…」
「あ、これ?」
琴音は、近くにあったスプーンをオレに渡してきた。
それとって…とは、言ってないんだよねー。
プロポーズと思ってもらってもいいって意味だったけど、まさかそうとってもらっても…と、それとってもらってもを勘違いするとかさ…
まぁ…琴音ってそんなやつなんですよ。
勉強は、できるんだけどねー…
そういうところだよね…。
でも、いつかオレはきちんと琴音にプロポーズしたいとは、思っている。
だから、さっきのは…聞き間違いで流されたんならそれでいいかなって思った。
あんまりグダグダ言って、琴音がながいしていると…琴音にも風邪うつっちゃうからね。
「今日は、ありがとうな。風邪うつっちゃうから、もう帰りな。また、お医者さんごっこしような。」
「今日は、リアル風邪シリーズだったね。じゃあ、寝てるところ邪魔しちゃってごめんね。ゆっくり休んでね」
「うん、ありがとう」
琴音は、優しく微笑んで手を振って帰った。
かわよ♡
あんなかわいい顔で手振られたらだれでもおちるだろうなー。
琴音は、そもそもオレのことどう思ってんのかな…?
琴音が作ってくれた優しい味の雑炊を食べながら、オレはボーッと考えていた。
そしたら、琴音から
(風邪治ったら、ミヤトには注射を打ちます‼︎)
ってメッセージが届いた。
こわ…
さっきのゆっくり休んでね♡って思い出が一瞬で崩れ落ちたんだが…
オレなにされるんだろうって、少し怯えたよね。
(痛いのヤダ)
って返信すると、
(大丈夫だよ、ちょーっとチクってするだけですからね〜笑)
ってきたんです。
笑ってる場合じゃないだろうに…。
たぶん琴音は、すでにお注射グッズを用意しているのだろう。
偽物だけどね。
(わかったよ。琴音の雑炊食べて、栄養つけた血をぱんぱんに用意しとく。)
って送信した。
腕まくって、なんなら写真も添付してやった。
琴音は、すぐさま
(わぁ、たくましい腕じゃない。これは採血が楽しみだよー。ジュルリ、ペロン)
ってきたよね…。
(血…吸ってるやん。バンパイヤやん…笑。オレのたくましい腕は、琴音を腕枕するために鍛えたんよ。早く腕枕したいなぁ。)
(なんたらずきんのオオカミお婆さんみたいだね。あなたとおしゃべりするために大きなお口なんだよ…てきな。そんな腕に抱かれたら首へし折れる。)
(そしたら、オレが介抱してやるよ。優しく優〜しくさ♡グフフ)
(え、キモい。早く寝て採血に備えなさい。おやすみー)
自分から振っておいて…キモいとは…。
まぁ、でもオレってキモいんですけどね♡
風邪が治ったら、どうやらまた…とんでもないことに巻き込まれそうな予感です。
…
続く。