骨折
オレの名前は、上城ミヤト。
小学四年生だ。
「ミーっくん、あーそーぼ」
元気よくオレの部屋にひょっこりやってきたのは、幼馴染の湯音野琴音だ。
「あー…ごめん、ことちゃん。オレ今からバスケの体験行くんだ。ことちゃんも一緒にバスケしようよ」
…
ことちゃんは、少しむくれた顔で
「みっくんと、アレしたかったー」
と、ゴネた。
「じゃあ、それは明日しよ?ね?」
「えー…うん、わかった」
ことちゃんは、仕方ないなぁって感じでオレの部屋をあとにした。
アレとは、おままごとだ。
ことちゃんは、とにかくお世話が大好きで、将来は看護師になりたいからって、よくオレは病院ごっこに付き合わされている。
そして…
高校生になった現在…
実は、いまだにおままごとごっこは…現在進行形だ。
お互い呼び名は変わったんだけど…
変わったのは、それくらいかもしれない。
「ほら、いつまで寝てるのミヤト‼︎朝ごはん食べてきなさい。その間にベッドメイキングしておくからっ」
バサっと布団を剥がされた。
「琴音…母ちゃんみてーだなー…」
「そんな寝ぼけたこと言ってないで、ほらサッサと動くの。今日は、リハビリステーションのまきなんだから」
…
リハビリステーションのまきとは、看護師になりたい琴音が、独自に考えたリアルおままごとみたいなものだ。
朝ごはんを食べて部屋に戻ると、部屋はきちんと片付けられていて、ベッドも整えられていた。
そして…
部屋の隅に変なグッズが置かれていた。
「え、なにこれ?」
「あ、今からミヤトには、足を骨折してもらいます」
「は?な、なに言ってんだよ…こえーよ」
「いや、フリね。」
「あー」
オレはいつのまにかベッドに座らされて、あしを包帯でぐるぐるにされた。
しかも、なんか固定されてるっぽい。
めっちゃ本格的…。
「それじゃあ、ゆっくり立ち上がってみてくださいね。」
…
「無理…かたあしでいきなりとか無理」
「あー、そうなんです…ね。じゃあ、わたしにつかまって」
言われるまま、琴音につかまると…
「キャっ」
て、琴音がオレにのしかかってきた。
「おぅ…大丈夫か?」
オレはベッドで琴音の下敷きになった。
てか、これは…もはや…イチャイチャ。
琴音の髪からとてもいい匂いがする。
「琴音ちゃ〜ん、シャンプーなに使ってんのぉ?」
オレは琴音の髪をサワサワしながらクンクンした。
「ちょっと‼︎真面目にやってよー…。」
「ん?オレは真面目だよ?琴音がオレに乗っかってきたんでしょ?リハビリステーション最高〜」
ペシっ
軽く頭をペシされました。
「あ、ちょっと待ってて」
琴音は、床をお掃除する棒をオレに差し出した。
「これにつかまればいいのよ」
たしかに松葉杖的な感じだ。
お掃除棒のおかげで立ち上がれやすくなったけど…
「おい、琴音…なんで脇の下に手入れてくんだよ…。くすぐったいし」
「だって…こういうサポートすると立ち上がりやすいって…抑えるところ違うのかな?ここ?え?そこ?」
「…や、そんなあっちこっち触んなってー」
「あ、ごめん。ならさ、わたし一回患者さんになってもいい?」
ってなわけで、交代してみた。
「じゃ、立ち上がるよ?」
「おう、オレは…どこおさえたらいい?」
「えと、この辺…かな?」
「こう?」
「う、うん…たぶん」
…
なんか…なんか、ベッドで琴音を軽く抱きしめている感…半端ない。
でさ、なんで琴音は立ち上がらんの?
「こ、琴音?」
「あ、ごめん。つい…」
ついって…なんだよ?
「じゃあ、立ち上がるね」
「おう」
琴音に合わせて、オレも優しく上に琴音を抱きしめて、無事立ち上がることができた…んだけど、固定してたあしが意外と立つのに難しかったみたいで、琴音はオレを引っ張りながら、ベッドに倒れ込んだ。
「フギャッ」
とっさにオレは琴音を抱きしめようとして…
これから襲いかかるかのような体制になったよ?
「このままキスシーンできますけど?しとく?」
「いや、しないから。それより早くどきなさいよ。変態」
変態って…
まったく…せっかく幼馴染の未来のためにお手伝いしているというのに…変態って…
まぁ、変態なんですけどね!
続く。