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生ごみの中の涙

午後、使用人達は、王族の部屋の掃除を任されていた。

パルコの声が、開始を合図すると、使用人達は一斉にルイ王子の部屋へと消えていった。

あまりの一瞬の事に、しばらくヴァレリーは呆気にとられていたが、残った箒を取ると、三姉妹の部屋のドアを開けた。


(これは・・・・・・なかなかのモノね)

一体誰がここで暴れまわったのかと思うほどに、服はあれ散らかっている。

使用人は山ほどいるはずだ。なのに毎日がこうなってしまう理由がなんだろうと考えながらもヴァレリーはちら借り放題の服を手にとっていく。


部屋の中には、大きなルマニの肖像画が描いてある。

こんなに部屋が汚くては、きっと絵だって泣いているような気がした。


(もしかして、私の部屋もこんなに散らかっているのかしら?)

正直そうは思わなかったけれど、今自分は使用人の立場になって、発見できることが沢山ある気がしているのも事実だった。散乱されたドレスをとっては、クローゼットのなかへとしまっていく。

ばらまかれた宝石をとっては宝石箱の中にしまって、くちゃくちゃなベットを、ゆっくりと整えていく。

慣れない手つきに時間がかかってしまったけれど、ヴァレリーはなんとかルマニの部屋からでる事ができた。



「あら、貴方」


ヴァレリーが出た所に現れたのはルマニ。

けれど、何やら急いでいるようで、さっさと部屋の中へと消えていってしまう。



やれやれと頭を振りながらも、隣の部屋にいくと、その部屋は確かに片付いていたけれど、さっきの部屋よりもさらに、ゴージャスだった。頭の中で浮かんできたのは、あのアリア王女の顔が浮かんできた。

なんとなく、部屋に入るのも躊躇していたヴァレリーの前に、隣の部屋から、形相をかえたルマニが出てきた。


ルマニは、ヴァレリ-に掴みかかると、ぶんぶんと体をゆらした。

「あなたが取ったのね!」

いったいなんの事だか分からないヴァレリーは、必死に、ルマニをおさめようとする。

「お、落ち着いてください! 」

「落ち着いてなんかいられないわ! あなたが取ったんでしょ?!」

「何をですかっ!?」

「指輪よ! 私のお気に入りの!」


まったく身に覚えもないけれど、あのぐちゃぐちゃな部屋を掃除していて、思いがけず、何かと一緒に捨ててしまったんではないかとヴァレリーは頭をよぎってしまった。

それを余計に勘違いしたルマニ王女は、得意の癇癪を目の前で爆発させた。

「クビよ! この城から出てきなさい!」

「ちょっ、待ってください!」

なんとか落ち着いてもらおうとするけれど、ルマニの耳には全く聞き入れてもらえない。

「探します! 探しますから、落ち着いてください!」

ルマニの癇癪をとめるために、ヴァレリーまでもが息をきらしていた。

乱れた髪を整えながら、ゆっくりとルマニは口を開いた。

「いいわ、夕刻まで待ってあげる。でも見つけれなければ、すぐにこの城から出て行ってもらうわ」

ルマニ王女は、大きくドレスをふって、歩いていってしまった。


身に覚えもない。でも絶対捨ててないかと言われれば、分からない。

「どうしよう・・・・・・」



ヴァレリーは、城の外にある、ゴミ集客所の前にといた。

ここは、城中のゴミが一斉に集められている場所だと聞いたけれど、ヴァレリーはこんな山のゴミを見たことがなく、さっきから、その場につっ立っている。

気が遠くなりそうだとは、きっとこういうことを言うんだと。


ひとつも触っていないのにメゲそうな自分の思考をぶんぶんと打ち切り、ひとつ、ひとつと袋をあけていく。

ついさっき捨てたばかりだけれど、いったいどこに置かれたなんて検討もつかない。目の前にあるのは、同じ色した袋の山。ヴァレリーは腕をまくって、息をはいた。


ヴァレリーはもちろんこんな事をしたこともなく、額にはポツポツと汗が滲みだしたかとおもいながら、それを拭う。

でも探しても探してもなくて、どんどんと体は疲れていった。

(もう・・・・・・やだ・・・・・・)

汚いし、臭いし、でも自分の責任かどうかも分からない。

だからどうしたら正解かもわからなくて、メガネなんて放りなげて、夢中で探した。



ルマニの言っていた夕刻がきたころ、ゴミの山の中で、ヴァレリーは座り込んでいた。

手をきゅっと握り締め、下をむき、必死で何かを耐えているようだったけれど、まだ耐えた事のない出来事に、心は、くしゃりと折れそうになっていた。誰もいないのは分かっているけれど、泣くことを許されていない立場のヴァレリーの手の甲に、ポタリと涙が落ちた。


ヴァレリーはゆっくりと、立ち、暗がりの中、ひとり歩いていた。

このまま王女の指輪がなくなったとすれば、城から出て行くだけじゃない、きっとそれだけじゃすまないこともわかっている。

(・・・・・・どうしよう)


思うヴァレリーの前に、前から歩いてくる男の影が見えた。

咄嗟、逃げようとするヴァレリーの背中に声がかかった。

「待て」

この声を知っている。

まるで影でも踏まれたように、動けないヴァレリーのすぐ後ろで、ピタリと足音が止まった。


こんな暗闇の中でも、自分がいまボロボロの格好になっているくらい分かる。なのにこんな場所で出会ってしまったのはルイ王子だ。

「申し訳ございません!」

勢いよく振り向いて、深く頭をさげたけれどあげられない。

でも、今のヴァレリーの姿を確認するには、十分だった。

「何かあったのか?」

「いいえ、何も」


言ってしまおうだなんて微塵も思わなかった。

「申しわけありません」

朝の出来事、この国の使用人の態度、どれを今思い出しても、ただひたすら謝るほかに、道があるとは思えなかった。

ゴミの中でまみれ、何を言ったって、惨めなのも変わらない。

「クシュン」

寒さを忘れてしまうほど必死になったのも、初めての様な気がした。


頭をさげたままあげないヴァレリーの手を、ルイ王子は掴んだ。

「あっ、あのっ」

ヴァレリーの手はとても冷え切っていた。

「ルイ王子っ」

体にはゴミのにおいが染み付いている。その手を掴んだルイ王子の手は、そんな事が気にならないほど、温かかった。


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