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王女様は使用人

↓↓↓

「本当に行っちゃうの?」

真っ白のドレスを惜しげもなく脱ぎ捨てたばかりのヴァレリーに、使用人の服を不安げに渡すのは、テレジア。

「きっと大丈夫、私がなんとかするわ」



ホコリかぶった鏡に全身を映し出しながら、さらさらのキャラメルブロンドをぼさぼさにする。そしてテレジアから受け取った真っ黒いゴムでひとつしばりにした。


そして足元にある小さな木箱の中から、黒縁のメガネを手にとった。

「ね? これで分からないでしょ?」

自信満々に胸をはったヴァレリーは、確かにどこをどう見てもこの国の使用人に思えた。


「いい、くれぐれもバレる様な素振りを見せちゃだめよ?」

不安げなテレジアの手を、ヴァレリーはきゅっと掴むと、その身をきゅっと抱きしめた。

「大丈夫、かならず成功してみせるわ」

そういうと、二人して、薬指にあるグリーン色に光り輝く指輪と、ブルー色にひかり輝く指輪を交換した。

二人はそっと指輪に口づけをする。


「あなたに、幸運がありますように・・・・・・」


アルバンタ王国には、二人の王女様、そして王様がいる。

二人の娘は、双子であり、しっかりモノの王女は、テレジア・モレッツ。彼女はとても頭脳淡麗。ゆるやかなブロンドヘアは、彼女のお気に入り。

とても社交的の王女はヴァレリー・モレッツ。二人の顔は、とてもそっくりだけれど、その髪の色と質。性格が違いすぎて、誰も見間違うことはない。



彼女達は、今日、二十の誕生日を迎える。

そして、隣接する国にメーリング王国がある。

これら左右に別れた王国は、三対七の割合で、土地を二分していた。


そしてその国には一人息子がいた。ルイ・コラルド。

双子の王女様は、この王子の存在は知っているけれど、会った事もなければ、見たこともなかった。


彼に会うために、ヴァレリーは、今日、アルバンタ王国を抜け出した。



メーリング王国へと向かう馬車の中は、アルバンタ王国からの使用人でいっぱい。

ギュウギュウ詰めになった事のないヴァレリーは、体のあちこが痛むのを、必死でこらえていた。

本当ならば、そろそろ使用人の一人がきて、夜ふかしはだめだと小言をいいに来る時間だった。有無をいわず電気をけして、長い廊下へ消えてく。


そっと隣の部屋のテレジアを覗くと、彼女はいつも枕元の電気をつけて書物にふけっている。

そんな彼女のベットに潜り込んでは、二人で話すことが、この姉妹の楽しみだった。


ガタガタと馬車に揺られるうちに、いつのまにか意識が飛んでいたヴァレリーが、眠い目をこすりながらそっと馬車の外をみると、もうそこは、メーリング王国だった。

もう夜おそくのはずなのに、街の灯りはまだまだ鮮やかで、ヴァレリーの瞳を魅了してしまう。


(すごいわ・・・・・・)

見たことのない様なこの景色に魅了される人がいても責められない。

ヴァレリーが街の景色に魅了されている間に、馬の足はキュッととまり、気がつけばもうそこは、メーリング城の前だった。


馬車が開けられると、ぞろぞろと使用人が降りていくのが見えて、ヴァレリーは何も言わずにその列に続いた。

けっしてアルバンタ王国が小さいとは思っていなかったけれど、その門構えからして、異なる規模に、思わず息を飲み込んだ。

(これが、メーリング王国)

テレジアからの情報によると、メーリング王国は、自分たちの国の二倍はあると言っていた。

それに、人口だって、比べにならない。

自分の国とは違う光景に呆気にとられながらも、ヴァレリーは行列にならって進んでいく。

長い列は城の中へと続いている。ヴァレリーはこの為に、自国を抜け出してきたのだ。


息を大きく吸い、そして吐いた。


いっぽいっぽと、進んでいくヴァレリーの体は、とうとう城の中へと入った。

派手なガラスの照明が、そこら辺りに飾られていて、まるで昼間のように感じられた。


スカートをきゅっと掴んだまま、ヴァレリーは進んでいく。

すると、一斉に周りの使用人が、頭をさげたのに、あわててそれに合わすように、同じことをした。


顔をあげたヴァレリーの瞳に、まっさきに飛び込んできたのは、プラチナブロンドの男。

さらさらヘアなんかじゃない所が、まさしく男を見せていて、その透き通ったグリーンアイに思わず見惚れてしまう。その気品から、彼がすぐにルイ王子だという事は分かった。


(いけないっ)

ほんの一瞬だけれど、目があった気がしたヴァレリーは視線を伏せる。

目立ってはいけない。あくまで今の自分は使用人だ。テレジアに言われた言葉が何度だって胸に今も残っている。


使用人の前には、ルイ王子、そして見たこともなかったけれど、この国の王女が三人居た。


テレジアや、自分の成りとは違ったきらびやかなドレスに思わず圧倒されていると、先の方から順番にこの国でつくであろう使用人の配置が告げられていく。


一人、また一人と呼ばれては、配置へとついていく。だんだんと迫ってくるヴァレリーの順番に、思わず緊張が走った。



「ここまでだ」

ヴァレリーの前の順番まできたところで、手をあげ、その次の言葉を遮ったのは、他のだれでもないルイ王子だった。

(うそっ)

ヴァレリーの瞳は、動揺を隠せず揺れた。


わざわざ城を抜け出してまでこんな所に来たけれど、どうやら使用人の数は毎回決まっているらしい。、

ヴァレリーをそのままに、整列は乱れ、使用人の過半数はもとの馬車へ戻っていく。

(うそっ・・・・・・うそっ)

きょろきょろと、辺りを見渡すけれど、あっという間に使用人は散り散りになってしまい、王子の姿さえもいつのまにか消えていた。


ヴァレリーは想像していなかった出来事に不安を隠せない。

けれど、今更同じ馬車に乗って帰るわけになんていかない。


自分がなんのために、この国へと来たのか・・・・・・。

それを、ちゃんと果たすまでは・・・・・・。


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