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第18話 ヤミーの愚痴

《ヤミー視点》

 一緒にクビになった奴らに、『こんな領地、こっちから捨ててやればいい、俺たちでやり直そうぜ』と声をかけたが、放心したり睨んできたりするばかりだった。


 こいつらは、昔からつるんできた仲間だ。

 一度裏切ったが俺は寛大だから許してやるさ。だが、次はないからな! 関門の前で待ってろよ! ……と言い、俺は家に戻って荷造りをした。


 そして、最後にいつもの居酒屋で呑んだ。

 俺は気楽な独り身だからな。

 他の連中は結婚していたが、今回のことで離婚するだろ。

 俺はさんざん独り身の楽しさを説いていて、奴らも同意していたのに結婚して、しかもそれを後悔して俺に愚痴っていた。

 別れる理由ができてよかったじゃねぇか。


 ……居酒屋に、奴らの一人でも現れるかと思ったが、誰一人現れなかった。


 翌日。

 気持ちよく寝ていたところを、乱暴に扉を叩く音で起こされた。今日から早起きしなくていいんだし、今日中に出て行きゃいいんだから寝かせろよ……そう思って無視していたが、さらに扉を叩く音が激しくなる。


 頭にきて、怒鳴りつけようと扉を開けたら……メタの女房だった。

 なんの用だよ、って思ったら、怒ったような声で言った。


「メタが、死にました」


 …………俺は、言ってる意味が分からなかった。

 呆けてたら、メタの女房は続けた。

「辺境伯夫人に失礼を働いてしまい、クビになって辺境伯領を追い出されることになった、私や息子が自分の行いのせいで白い目で見られるのは耐えられない、……だから死んでわびるそうです」

「は? バカじゃねぇの?」

 せっかく自由になれんのに、なんで死ぬんだよ?


 俺が呆れてつぶやいたら、メタの女房は目をつり上げた。

「……元はアンタのせいじゃないの!」

 と、怒鳴ってきた。


「メタはもともと気の弱い人で、粗暴なアンタに付き従っていただけよ! もし逆らったら仕事場で嫌がらせを受ける、そう言ってたわ! 第一、あの人が辺境伯夫人に不満を持つわけないじゃない! 私と一緒にご成婚を喜んでいたのよ! お二人のお子様を早く見たいわね、って! アンタみたいな結婚出来ない男はご当主様の再婚をひがむんでしょうけど、メタは違うのよ!」


 あまりの言いぐさにムカついて怒鳴り返した。

「メタが勝手に死んだのに、俺のせいみたいに言うんじゃねえ! 第一、俺は好きで独身なんだよ! お前みたいな女につかまったら最悪だからな! メタもお前と結婚してから『優しさの欠片もねぇ女をつかんじまった』っていっつも嘆いていたよ! 俺が慰めてやってたんだぜ? アイツが死んだのは、どうせお前が責め立てたせいなんじゃねーか!? 俺は一緒にここを出ようって声をかけてたんだからな!」


 メタの女房は怒りで真っ赤になった。

「よくも……! この嫌われ者の勘違い男! 何が好きで独身よ!? モテないヒガミじゃないの! お優しいご当主様もアンタにはとうとう我慢の限界がきて、ここを追い出されていい気味よ! ここから出てって、野垂れ死ねばいいわ! どうせどこに行ったって嫌われるんだから!」


 メタの女房のあまりの言い草にカッとなった俺はひっぱたいてやった。

 誰に向かって怒鳴ってやがるんだ、思い知れ! って思い切りやったら、倒れやがった。

 悲鳴をあげ、その後うめいている。


 わざとらしい演技だろうと思ったが、怒鳴り合ってたもんだから周りに人が集まってきてる。

「おい、どうした」

「ちょっと、まずいんじゃないの?」

「誰か憲兵呼んでこいよ」

 って声が聞こえてきたんで、俺は慌てて中に入ると荷物をつかみ、家を出て集まってきた人混みを怒鳴り蹴散らしながら急いで関門に向かった。

 途中、追ってきそうなので必死に走り、関門を通り抜けて、さらに走る。


 ……俺は、そんなふうに生まれ育った町と別れることになった。


 メタの奥さんは無事です。怒り心頭に発したメタの奥さんによりヤミーは訴えられ、この後、ヤミーの手配書が回ります。

 書くところがなかったので後書きに添えておきます。


 メタは気弱すぎて恐妻にもガキ大将にも追従口を使っていました。

 でも、奥さんも息子も愛していましたし、ヤミーのことも嫌っていません。ゆえに、病みました。


 次回は本編、11時に投稿します。

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― 新着の感想 ―
代々の辺境伯が変に無礼講精神だったせいで下手な貴族より俺様偉い!思考になってる平民だらけの土地…辺境とはいえ今まで貴族が訪れなかったんだろうか… 普通に秒で無礼打ちされる態度の連中だらけなんだが。代々…
自殺する位なら家族で別の領地に行ったりすれば良かったのにね……
 ヤミーみたいな登場人物は主要人物の前から姿を消したら、その後不始末を起こし二、三行で忘れ去られるものだとばかり。あまり描かれる事のない部分だと思います。なるほど、貴族の前でああいう発言をする人物なん…
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