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第14話

 さて。

 城塞の中をくまなく案内してもらいある程度把握したところで、使用人の紹介を受けることになった。


 旦那様が直接お話しするような使用人はすでに紹介をしてもらっていたんだけど、他の雑用をやっている下級使用人さんたちは挨拶していなかったのだ。

 いっぺんに挨拶すると混乱するからって。


 混乱しないよって思ったけど、恐らくきっとジョセフの指導が入ったのかもしれない――と彼らの顔を見て思った。


 とっても不満そうな顔をしている人がチラホラいるから。


 ……やっぱり辺境伯領まで私の噂はとどろいていたのかもしれない。

 旦那様やジョセフは優しさを発動して知らなかったことにしていたのかも、って考えた。


 ジョセフは、彼らと私を交互に見た後、私に向かって深々~と頭を下げた。

「私の指導が手ぬるかったようで、奥さまにご不快な思いをさせ申し訳ございません」

「いえ、たぶん指導うんぬんの話じゃないと思いますけど……。やっぱり私の噂が流れてきていたんじゃありませんか?」

 そう尋ねたら、ジョセフが顔を上げて首を横に振った。

「違います。単にこの者たちは、自分の立場をわきまえていない、というだけです」


 ジョセフの発言を聞いて、顔色を悪くした人や不満爆発寸前みたいな顔をする人が出た。

「……俺たちの今までの仕事っぷりを知ってて、そんなことを言うのかよ!?」

 とうとう爆発したらしい下級使用人の一人が叫んだ。


 ジョセフは、叫んだ下級使用人に向かってニッコリと笑った。

「ええ、下級使用人の仕事をよくやっていましたね。自慢されるほどの働きではないですが。……もしかして、よく仕事をこなしていると褒めたことで、この城塞の女主人よりも偉くなったと勘違いしましたか?」


 ぐっ、っと下級使用人が詰まった。


「…………そうじゃねぇ。俺は、そのお嬢ちゃんが女主人だって認めねぇ、っつってんだよ! まだガキじゃねーか!」

「そうですか。では奥さま、解雇しましょう」

「はっ? えっ?」

 ジョセフが「お茶にしましょう」くらいの気軽さで聞いてきたので変な声を出してしまった。


「辺境伯当主であるレオン・ゴーティエ様の妻、ロゼ・ゴーティエ辺境伯夫人を認めないなどと言う者をこの城塞内に入れておくことはできません。人事の雇用は私は進言できますが承認は当主もしくは当主夫人になりますので、許可をいただけますか?」


 はい、確かにそう聞いておりますとも。


「えー……と、クビにして仕事は大丈夫なんですか?」

 と、恐る恐る聞いたら、その下級使用人が高笑いしだしたんですけど。


「そらみろ! 俺がいなくなったら困るだろう! 頭を下げて『どうか働いてください』って頼めば考え直してやるさ! そこにひざまずいて許しを乞えよ、お嬢ちゃん!」

 オゥ……私に言ってるよ。

 確かに私が使用人の採用権限を持ってるとのことなので、私に言うのが妥当と言えばその通りですね。

 では。


「うん、クビにしてください。彼が抜けて大変かもしれませんが、私、今後も彼にいばりちらされて、()()蔑まれて嫌がらせされるのは勘弁、って思ってるので。ここにいられるの、無理です!」


 キッパリ言ったら、高笑いしていた下級使用人、笑いを止めてフリーズした。

 ジョセフは私に向かって一礼すると、ガラリと表情を変えて下級使用人に通告した。

「だそうだ。お前はクビだ。今すぐ城塞から出て行け。もちろん、紹介状はない。何しろ、紹介状を出す辺境伯夫人に『ひざまずけ』などと言ったのだからな」


 下級使用人はうろたえていたけれど、私を見て焦った顔で言った。

「お、俺が抜けたら仕事が回らないぞ! 訂正するなら今のうちだ!」

「クビになった後のことまで心配してもらわなくてもけっこうですとも。すぐ新しい者を雇いますから」

 間髪入れずジョセフが言ったので、私はホッとして笑顔で言った。

「そっか。なら安心ですね! はい、クビです!」


 啞然とした下級使用人は、周りに同意を求めた。

「お、お前らだって言ってたよな! お前らも辞めたら、ここは絶対に回らないぞ! ホラ、言ってやれよ!」


 他の使用人は、彼と目を合わせようとしない。

 ……あんなに不満そうだったのになんでだろ。


 私はジョセフに尋ねた。

「辞めても他の人を補充してもらえるんですよね?」

「えぇ。私が何とかいたします。奥さまに不満を持つ者がいるほうが、この城塞にとっても旦那様にとっても問題ですから。雇用するまで多少手が回らなくなることなど、些事です」

 ジョセフがキッパリ言った。


「なら、バンバン解雇しましょう!」

 私が朗らかに言った途端に、下級使用人たち数名が頭を下げる。


「私はもともと不満など持っておりません」

「もちろん私もです」

「私もです」

「俺もです」


 最初から特に何も思ってませんよー的な下級使用人たちは口々にそう言ってきた。

 それを見た不満顔だった数名は、慌てて頭を下げた。


 私に頭を下げて許しを乞えと言った使用人がめっちゃ慌てている。

「……おい! ジャン! お前、裏切るのかよ!?」

「……そこまで不満に思っていたわけじゃない。お前と違って、俺が抜けたら困るだろうなんて自惚れてもいないし、軽口の範囲だよ。だって俺、奥さまのこと知らなかったし」

「…………俺は、女房が妊娠中だ。ここをクビになったら困るんだよ」


 とか言ってる。

 うーん、まぁ、不満顔と陰口くらいならいいけどさぁ。

 ホントに言うことを聞くのかなー?


「私に不満を持っていますよね? 私の命令を聞けるんですか?」

 不満顔だった下級使用人たちに尋ねたら、

「「「はい」」」

 と、全員キッパリと返事した。

 ……なら、いいけど……。


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― 新着の感想 ―
え?この子どうしてそうなった??? 貴族夫人にその発言?頭大丈夫か???
この身分絶対社会でなんで「子供だから」っていう理由がまかり通ると思ったんだ…残念脳みそすぎる(笑)
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