09:スカウト
昨日と同じで今日も放課後に四人でダンジョンに来ていた。
「よーし、ユニークスキル目指して頑張るぞ!」
「おー」
ユニークスキル発現に張り切っているのは月下さんと黒宮さん。榊さんはよく分からない。
「榊さんはユニークスキルにしようとは思わないんですか?」
「思ってる思ってる。ただ顔に出てないだけ」
そうなのか。ホントに思っていないのかと思った。
「今日はどういう組み合わせにする? あたしは昨日と一緒でいいと思うんだけど」
「どうせ僕は天星と一緒にならないからどっちでも構わない」
つまり黒宮さん次第で俺は月下さんか黒宮さんと組むということか。
「……まあ、今日は返済とか考えなくていいからユーくんとで」
別に悪気はないんだろうがこの言い方では俺と組みたくないと言っている感じがする。ぐさり。でも気にしない、月下さんと組んだ方がちゃんとできるし。
「じゃ、あたしは最強の天星くんと行く!」
「はい!」
お昼休みのことがあったのに同じように接してくれる月下さん、最高だ!
俺と月下さんペア、榊さんと黒宮さんペアに分かれダンジョンに入る。今日は昨日換金した分が冒険者カードに入っているからキャッシュレスで初めて入ることができた。
こんなにも簡単に入ることができるのかと感動しつつ月下さんと並んでダンジョンを歩く。
「ユニークスキルってさ、どんな感じなん?」
「どんな感じとは?」
「ほら、普通のスキルと何か違う?」
「うーん……」
そう問われて軽く違いを考えてみると意外にすぐに答えが出てきた。
「普通のスキルはできる範囲が限られている感じがしますけど、それが広がります。後は出力が上がっていますね」
「へー。じゃあユニークスキルになったタイミングってどんな感じだった?」
月下さんは何か糸口を探しているみたいだ。
俺も月下さんのために何か有益な情報を伝えたいとは思っているんだが……。
「たぶん、やりたいようにやるのがいいんだと思います」
「やりたいように?」
「俺は習得しているスキルを使いたいように使っていました。数多くあるスキルの中でも直感で使っていてユニークスキルになったので考えない方がいいかもしれませんね」
まあ俺の場合は例外なユニークスキルはあるけど。
「そっちの方が……難しくない?」
昨日の件もあるから月下さんがこういう抽象的なことを想像するのが苦手なんだろうなぁとは思っていた。
必死になればそういう考えをせずに本能で戦えるのではないか? と思ってしまったがそれでできる確信はない。
「何となくで戦ってみてください。俺がいるので大丈夫です」
「うーん……それで行こっか」
少しかっこよく言ったのに全く相手にされなかったことに少し恥ずかしくなったが気を取り直して出てきたスフィアたちに集中する月下さんに集中する。
昨日と同じように七環万象の杖を出現させて月下さんのサポートを完璧にこなす。
今日も月下さんはスカートの下は無防備におパンツ様を晒しており、今日は赤のおパンツ様を御履かれていた。
これを見るだけでも今日来た甲斐があったものだ。昨日はこれをオカズにいっぱいできたし。
ただ今の月下さんは色々と隙がありすぎる。さっき俺が提案したことを考え過ぎて逆に分からなくなっているのか?
「あー! こんなのじゃ無理じゃん!」
三十分だけなのに月下さんに限界が来た。
「まだ三十分しかやってないですよ」
「こんなの続けたってできるわけないって!」
何も分からないのになんでできないと言い切るのか、という言葉は飲み込んでおく。
「まあ、スキルを使っていくしかないですよ。まだスキルを覚えてダンジョンに入るのが二日目なんですから。焦らないでください」
焦ることなんてないだろうに。それとも焦る理由が……お金の話か? それなら迂闊に聞けないぞ。
「だって……ユニークスキルが手に入るって思ったら早く手に入れたいじゃんか……」
「そう、なんですね……」
センシティブな話題かもしれないからそこはつっこめないんだよなぁ。でもユニークスキルなら昨日話していた人気配信者になれるかもしれないって話か?
できないこともないんだが……あのスキルは使いたくないんだよなぁ。恥ずいし。
「俺もできる限り手伝うのでユニークスキルが手に入るまで頑張りましょう」
月並みなことしか言えないのが俺だ。
「……うん」
これで向こうのペアがユニークスキルを手に入れていたら月下さんはかなり焦るだろうなぁ。
☆
俺の懸念は全く当たらず黒宮さんと榊さんもユニークスキルの欠片すらヒントが得られていなかった。
「属性じゃない魔法むず過ぎなんだけど」
そしてスキルを使うという段階でつまずいている黒宮さんは俺に文句を言ってくる。が、それは事前に言っていたはずだ。
「むずいですよ。俺でも使いこなせないんですから場数を踏まないといけませんね」
「……私ならできると思ったのに」
この自信はどこから来るんだ。そのくらいの自信があった方がいいのかもしれないけど。
「あっ、ちょっと待って」
今日は賭け事みたいになっていないからこれで解散みたいな感じになっていると榊さんから待ったがかかる。
「今日もマックに行かない? 僕が奢るから」
「行くー!」
「さんせー」
榊さんの謎の提案に月下さんと黒宮さんは速攻で同意した。ホント仲がいいな、この三人。
「じゃあ、俺はこれで」
ここで俺が誘われていると勘違いしない。だからここはさっさと帰った方がダメージを負うことはない。
今日手に入ったお金でどのゲームソフトを買おうかと思いながら月下さんたちに背を向けて歩き始めるが服を引っ張られて無理やり止められた。
「天星、キミも来るんだよ」
「お、俺もですか?」
どうやら榊さんは俺も誘っていたみたいだ。……なぜ?
「そうだよ。今日の反省点とかユニークスキルについてとか話すことがあるじゃないか。いいかな?」
「まあ……はい」
特に断る理由もないが一人でいたい気持ちが出てきた。でも断る理由が思いつかずにマクドに一緒に行くことになった。
昨日と同じマクドに入り、俺は昨日と同じだが三人は昨日と別の注文をする。そしてお盆は俺が持ち榊さん先導の元、榊さんは一直線にとある席に向かった。
「遅かったわね、悠」
「そんなことない。昨日と同じくらいの時間を伝えたじゃん」
「私が遅かったと言えば遅くなるのよ。知らなかった?」
「知ってる」
こ、この声は……き、聞き覚えがあるぞ……!?
聞こえるほどにドキドキしている心臓の音と共にその声の主を見る。
長い黒髪をウェービーヘアにしている女性はつばの広い帽子にサングラスと顔があまり見えない。だが俺には分かる! あのおっぱいはいつも俺のせい活を豊かにしてくれていたおっぱいだ!
ま、まさか……?
「ここに座りなさい。私が許可するわ」
俺たちは女性の言われるがままに座ろうとする。
「天星陽守はここよ」
ここと指さされたのは女性の隣だった。
「あっ、はい……」
ダメだ、何も考えれずに素直に従って女性の隣に座ってしまった。
そして俺を挟むように榊さんが座り、俺と榊さんの正面に月下さんと黒宮さんが座る。
「そっちの二人と会うのはこれで二回目ね。久しぶり」
「三回目だけどはい!」
「えっ、三回も会ったっけ……?」
「私と会ったのを忘れるとはいい度胸ね」
こ、この理不尽感は間違いない……! つか黒宮さん、さすがに三回くらいは覚えておいた方がいいのでは。
「そして初めまして、天星陽守。妹から話は聞いているわ」
い……妹……? この場でそれを言われるのは……榊さんしかいないよな……? と榊さんを見る。
「どーも、そこの妹だよー」
ま、マジかよ……マジのマジ……?
「私は虹の王冠のリーダー、かおり。天星陽守をスカウトしに来た女王よ」
え……?
虹の王冠のリーダー、かおりさんからスカウトという言葉を聞き、まず最初に思い浮かんだのがドッキリだと思った。
そして次にドッキリじゃなくて虹の王冠で活動してキャーキャー言われる俺の姿。さらに次にそんな俺の姿があり得ないと一蹴して騙されていると思考が一周してきた。
「な、何かの間違いでは……?」
虹の王冠として活動する姿を妄想していたがそれが現実に来るとは一切思っていないからな。
「私が間違えるとでも思っているのかしら?」
「いや……そう言われましても」
まあそうだけどさ! 間違えていることも正しいことにするという暴論を持ち合わせていますよね!
「は、はぁ!? な、なんで陰キャがスカウトされてんの!? こんな冴えなくて友達も彼女もいない普通な陰キャが!」
うんうん、黒宮さん。事実を並べることは時に大切だ。俺も冷静になれた、ただし致命傷を受けたがな。死にかけだから冷静になれたんじゃなくて幻覚を見ているのかと錯覚してしまう。ここまで言われる筋合いはないよな……これは俺の被害妄想か?
「私に意見するってこと?」
「ッ! で、でもこんな不純物が混ざったら虹の王冠も汚くなるでしょ! 間接キスをしたくらいで気持ち悪い顔になる陰キャなんだから!」
おーっと、ダメージがえげつなく入るー。もーダメだー。まだ心の中とか陰口までなら気にせずにいられたけど直接言われたら無理―。
「みーゆ、それは言い過ぎ。天星くんがスカウトされたからって天星くんに当たるのは違うっしょ」
黒宮さんに鋭い視線と冷たい声色で注意したのは月下さんだった。
「……でも、なんで……!」
……あー、察してしまった。ユニークスキルの件で聞いたあれは虹の王冠だったのか。あんなに気合が入っていたからさぞ俺がスカウトされたことが腹が立つのだろう。
「いいじゃない、陰キャ。ウチのメンツはどいつもこいつもキラキラしてるからちょうどいいわ」
そして陰キャが肯定されてしまった。どういうこと? どの辺がちょうどなんだ? 絶対に陰過ぎて目立たないだけだろ。
「お姉、理由を言わないの?」
「ハァ……まあいいわ。一番の理由は彼にユニークスキルがあるから。それは私よりも分かっているでしょ」
「そうだね。絶空二刃しか見たことがないけどそれだけでもすごかった」
「あとの理由は面白そうだから。それだけよ。スカウトに一々壮大な理由なんか考えない。ピンと来ればスカウトするだけ。それだけでしょ」
おぉー……随分とすごい感性の持ち主だ。俺のことを聞いてピンと来たんだろ? でもそれで人気グループになってるんだよな……オワコンが近づいているのかもしれない。
「それで、スカウトを受けてくれるわよね?」
確定事項かのように聞いてくるかおりさん。確かめるとかでもない、聞いてくるんだ。
だが……ダメだ。何回も想像したけど俺が配信者として活動する姿が全くしっくりこない。
あっ、もしかしたら画面に映るキャストのスカウトじゃないのかもしれない。裏方とか強い冒険者を求めているだけかもしれない。そうしたら全然受ける。だって近くでお胸さまやらおパンツ様が拝めるかもしれないんだろ? 捗る。
「あの、そのスカウトって俺は何をするんですか……?」
「なにって、出演者以外にある?」
「あー、そうですか……」
「他に何か質問はある? ないなら答えを聞かせてくれるかしら?」
「あー、はい、分かりました……」
「そう言うでしょうね、これは確定事項なのだから」
ヤバい……俺受けちゃった……? だ、大丈夫か……? 断れずに流されてないか……?
「そこの二人はスキルを習得したのよね?」
「ユーくん言ったんだ」
「言った。いいでしょ?」
「うん、大丈夫!」
……今さらだが、この榊悠という女はベラベラと喋る女なのだろうか。それとも姉だから言っているのか。幸い月下さんは大丈夫みたいだし黒宮さんも文句を言っていない。
「ユニークスキルは?」
「二日目なんだからまだに決まってるじゃんか」
「大事なのは時間じゃない、タイミングよ。今ここでユニークスキルを持っていれば、一緒にスカウトしてたってこと」
かおりさんの言葉に月下さんと黒宮さんは驚いていた。
「ほ、ホント!?」
「マジ!?」
「ユニークスキルを持っていればの話よ。それを抜きにしても、陽守と出会った運命力はすごいものね。私よりも先に出会ったのだから」
俺がキーマンみたいな言い方をしてくるな。そんな重要人物だったのか?
「ゆ、ユニークスキルがあれば、私も虹の王冠に入れるんですか……?」
黒宮さんはかおりさんに縋るように聞く。
今思ったんだが、どうしてこんなにも入りたいと思うのだろうか。憧れとかか? でも同じように有名になりたいのであれば自分で配信者になればいいのにとは思うけど……よく分からん。入りたいと思ったことがないからな。
「そうね……私は待つのが嫌いよ。だから一週間でユニークスキルを獲得できれば、許可してあげる」
「絶対ですよ! よし頑張るぞ! ね! みーゆ!」
「当たり前でしょ! 絶対明日にでもユニークスキルゲット!」
月下さんと黒宮さんはかなりテンションを爆上げして周りのお客さんの注目を浴びている。ここが公共の場所だということを分かってほしい。
「じゃあ追って連絡を送るわ。その力を私のために振るいなさい」
なんだか……軽率に場違いなことになっていないか?