08:焼きそばパン
あけましておめでとうございます!
今年の抱負は書き続けることです! どうぞよろしくお願いします!
「魔法ってこれだけあるんだ……」
お昼休みになり、俺とトップカーストの三人は屋上に来ていた。
そこで取引が成立した黒宮さんに魔法のスキルボールを全種類出してベンチの上に置いていた。それを見た月下さんが圧巻されているようだ。
「効果が一部重複している魔法もありますけど、全部ですよね?」
「全部」
全部と言われたら取引したのだから全部渡すしかない。
「黒宮さんが持っているスキルを除けば、三十一個ですね」
「最低でも陰キャに二年以上いないといけないわけだ」
「やめますか?」
「嫌とは言ってないし。じゃ貰う」
黒宮さんはベンチにあるスキルボールを習得していく。
「ねー、天星」
「はい」
「天星はあの杖のユニークスキルを発現させた時はすべての魔法を使ってた?」
「……いや、使ってないですね」
こんないっぱいの魔法スキルを使いこなせるわけがないんだから。
「それでも七環万象の杖を発現できたんだね。すべての魔法がくっついた?」
「くっつきました」
「へー。それならみーゆも使いこなせなくてもいけるかもね」
「使いこなすし」
すべて使いこなせる人がいないと思っているからそう言い切る黒宮さんを心配してしまう。無理するかもしれない。まあそこら辺はまだ知り合ったばかりだから分かんないけど。
「早くお昼食べよー」
ちゃんと前もってお弁当を持ってきてと月下さんに先回りされていたため俺もこの場でお昼ご飯を食べることになった。
俺の隣には朝コンビニで買った唐揚げ弁当と焼きそばパンが入ったレジ袋があった。
それぞれが自身の昼食を取り出してコンビニで買ったセットを見た月下さんに聞かれた。
「天星くんはお母さんが作ってくれないの?」
「両親は朝早いので自分で買ってます」
「そうなんだ。あたしのとこと一緒だ!」
「月下さんは、作っているんですか?」
「そー! じゃーん!」
月下さんの手元にはお弁当箱がありそれが開け放たれた。
「つ、作った……?」
月下さんのお弁当は日の丸弁当であった。
「しかも今日はふりかけがある豪華仕様! どう?」
「ど、どう……?」
へ? な、なんだこれは……? 俺は何を見せられているんだ……? だ、ダメだ。処理しきれない……。
「い……いいですね……」
「でしょ!」
ニコニコと言い放つ月下さんを見て胸がキュッとなる。こんなお弁当をこの時代で食べる人がいるのか……!?
「みーこはいつもこれだから」
「しかも白ごはんでも美味しそうに食べるし」
榊さんと黒宮さんから得られる情報はさらに衝撃を与えてくる。
「つ、月下さん。俺のから揚げいりますか……?」
「えっ、くれんの!?」
「はい……どうぞ」
「マジありがとー!」
俺のコンビニ弁当からから揚げを一つ取る月下さん。もうお弁当を交換してもいいレベルなんだが。
「僕からも生姜焼きをあげるよ」
「二種類もお肉がある! さいこー!」
あぁ、これが現代人が忘れた食のありがたみというものか。こんなにも喜んでいる人がいるとは俺の食への感謝も改めなければならない。
「なら私は食後のデザートを分け与えよー」
「今日はマジさいこー! ありがとみーゆ!」
黒宮さんの手元を見れば俺と同じくレジ袋を持っていた。でもお弁当ではなくコンビニデザートが詰まっていた。
「なに?」
俺の視線に気が付いた黒宮さん。
「いや……ご飯は食べないんですか?」
「これがご飯だけど?」
「ご飯……そ、そうですか……」
まあ人ぞれぞれだしデザートで腹いっぱいにする人もいるだろう。
「みみは特殊だから気にしなくていいよ」
榊さんはとても美味しそうな手作りお弁当を持ってきていた。
「榊さんが作ったんですか?」
「そ。意外?」
「意外と言うか……女子力高いと言うか」
「ふふん。そうでしょ」
何だかお昼ご飯を見るだけでもこう違う一面を見ることができた。少し楽しい。
「おい、陰キャ」
「はい」
「その美味しそうなから揚げよこせ」
「まあ、どうぞ」
カツアゲされてしまったが俺には焼きそばパンがあるからから揚げなど些細なものだ。
俺のお弁当からから揚げを一つひょいっとつかんで食べる黒宮さん。そしてつまんだ指をペロリと俺に見せつけてくる。
他人のから揚げを食べるのが好きなのかから揚げが食べたかったのかは分からないけど、後者ならお弁当も買ってくればいいのにと思った。
「もう一個くれ。代わりにこれあげる」
「どうぞ」
黒宮さんからもう一つから揚げを要求され、代わりにエクレアを貰った。完全にこっちが得をしているように見える。
「みーゆはどうしていつも僕たちのお弁当の主菜を狙ってくるのかな? 買えばいいのに」
あぁ、いつもこういうことをしていたんだ。
「だってその時はその気分じゃなかったんだもん。お昼時になったらその気分になってて食べてるから交換してるだけ」
「気分じゃなくても買えばいいのに……」
榊さんの尤もな意見に心の中で頷きながらご飯をたくあんと梅干だけで食べる。
そして一番楽しみにしていたメインディッシュである焼きそばパンを手に取れば、黒宮さんが手を差し出していた。
「くれ」
ま、まさかこの俺の超絶好きな焼きそばパンも食べようというのか!?
「え、えぇ……」
「なに? それ好きなわけ?」
「まあ、控えめに言って大好物ですけど……」
「私食べたいんだけど」
大好物だと言っているのにそれでもよこせと言ってくるのかこの女ぁ!
「無理!」
「食べたい!」
「こっちは一日一回は食べないと抑えらないんですよ!」
「一日くらい食べなくてもいいじゃん!」
「いいわけないですよ! こちとら焼きそばパンのために生きてるんですから!」
「少しは焼きそばパン離れしろし!」
こ、こいつ俺のものなのに一向に引かないぞ!?
「半分! 半分食べさせろ!」
「無理です」
「私がかじった唾液付きだぞ!」
「うっ……」
焼きそばパンを食べたい気持ちはある。でも黒宮さんがかじった焼きそばパンは一本丸ごと食べるよりも魅力的か……?
「ほーら、こんなに唾液たっぷりでかじる」
黒宮さんが口を開けば今にも唾液が垂れそうになっている甘美な口があった。
俺は唾液をのみこみ、震える手で焼きそばパンを黒宮さんに渡した。
「みーこ、これが欲望に身を任せて大好物を失った哀れな男だ」
「大好物なのに性欲に負けてる」
榊さんと月下さんからは哀れみの目や冷たい眼差しを受けた。でも俺はこの選択に後悔はしていない!
「見てなよ」
黒宮さんは俺に見せつけるかのように大きく口を開け、焼きそばパンを口の中に入れた。
そしてしばらく俺の目を見つめつつ焼きそばパンを口の中に入れたままだったが、押し込んで半分以上口の中に入れたかと思ったら少し口から出してかじりついた黒宮さん。
「ふぁい」
無言で黒宮さんから半分になった焼きそばパンを受け取る。
このかじりつかれた半分になった焼きそばパンは少しだけは黒宮さんの口の中にあった。つまりは間接キスどころの話ではないのではないか……?
半分になった焼きそばパンをジッと見て心臓が高まるのが分かる。
きっと今の俺は気持ち悪い顔をしているに違いない。でもこんな機会今までに一切なかったのだから変な顔にならない方がおかしい。
震える手で俺は焼きそばパンを食べた。
「……最高」
今までに食べたどの焼きそばパンよりも格別な気がするなぁ……月下さんの好感度が下がった気がするけど気のせいだと思いたい。