06:成果
「今でも納得いってないんだけど……」
マクドにて四人分を支払った黒宮さんが俺の斜め前の席に座って愚痴りながらポテトをつまんで食べた。
「なに? 悔しい?」
「悔しいに決まってるじゃん」
隣に座っている月下さんが黒宮さんを煽る。
「負けを認めていないわけではないけど、僕たちが先に始めたのに負けるのは謎だよね」
俺の正面に座っている榊さんがコーラを飲んで不思議そうにしていた。
「そこの陰キャが何かズルをしたとしか考えらんない」
「えっ」
トップカーストの女子たちに囲まれているこの状況にドキドキしないわけがなかった。しかも俺は壁際で三人に包囲されている状態だ。どうしてここなんだ。
「な、何もしてないですよ?」
「あやしー。やってるっしょ」
何もやっていないけどドキドキでどもってしまい怪しい感じになった。
「こっちは一万円でそっちは三万円って、やってる」
「まー、同じ一時間で三倍は怪しいよねー」
黒宮さん榊さんチームは約一万円。俺月下さんチームは約三万円の結果になった。そのため黒宮さんのおごりでマクドに来ているわけだ。
「ふふん。そこはあたしと天星くんが凄かっただけだから」
「うーん、そうなのかな? でもそれ以外に思い当たることはないか」
まあホントはあるんだけどね。たぶん俺は人よりも多くスフィアが前に現れる。
それを証明したことはないけどネットで調べていたらそんな感じかなと自分で決めつけた。まあそれはこの結果を見ればそうだと結論付けれそうだけど。
「じゃあ次は私と陰キャで組んでいけば分かるっしょ」
「えー、この組み合わせでもいいじゃーん。天星くんとなら戦いやすかったし」
「もしかしたらユーくんの方が上手かもしんないでしょ」
「それは、そうかも……」
「何だかハードルを上げられてない? いいけど」
俺が口出しできるはずもなく流されるまま話を聞いていたが……待て、月下さんとじゃないとおパンツ様が拝めないのではないのか……?
でも月下さんと一緒に組みたいとか言えるはずがないんだよなぁ……ハァ、仕方がないか。
「あっ! 今日は特売セールがあるんだった!」
思い出したかのように立ち上がった月下さん。勢いよく立ち上がったからすごく近くでお胸さまが揺れるさまを拝めた。
「あー、何か言ってた。でももう間に合わないでしょ」
「そ、そうだよねー……」
諦めたかのように座る月下さんだが俺にはそれを解決する術がある。
「まだ間に合うようでしたら俺が道を繋げますよ?」
「つなげる?」
「はい。俺のスキルの一つに空間を断ち切るスキルがあるんですよ。それで目的の位置までの空間を断ち切るんです」
「どういうこと?」
「ワープってことかな?」
「簡単に言えばそうですね」
月下さんはよく分かっていない様子だが榊さんはすぐに分かったようだ。
「よく分かんないけどやってくれるなら行く!」
「了解です」
俺は残っているポテトとジュースをすぐに口に頬張って飲み込み、同様に月下さんも食べ終わる。
「行きますか」
「うん!」
「あっ、少し待ち」
食べ終わっている俺と月下さんであったが黒宮さんに待ったがかかった。
「よし、私も行く。てか気になるし」
「僕も行くよ。みーこも人手があった方が多く買えるんじゃない?」
「そー! ありがと!」
結局四人で行くことになり、俺たちは人目のつかない場所に入った。
そして俺は予め見せてもらった位置を確認し、二本の剣、『絶空二刃』を取り出す。
二本の剣は刀身の内側が空洞になっている黒い剣であり、俺がよくスフィア相手に使う剣である。
「わぁ……カッコいいねぇ」
「ありがとうございます」
これに反応したのは榊さんであった。
後ろから三人の視線を受けて少し居心地が悪くなりながらも二本の剣で空間を切り裂いた。
すると空間の先には目的のスーパーが存在していた。
「行きますよ」
俺は先に入りスーパーの敷地内の端に来た。
「うわっ、ホントに瞬間移動した!? すごぉ!」
「これは……マジヤバいっしょ」
「へー……いいね」
テレテレ。こんなにもすごいと言われるなんてキャバクラかよ。今日初めて普通のスキルを持っていて良かったと思った日はない。
「そ、そんなことよりも早く行きましょう」
「あっ! そうだね! 売り切れる前に行こう!」
スーパーに行けば無事に四人で個数制限があるお買い得商品を買うことができた。
早速アイテムボックスを活用して買ったものを入れる月下さん。
「今日はホントにありがと! すごく助かった!」
「いえ、これくらいならいつでも大丈夫です」
「ホント!? それならいつでもお願いしようかなー。あのスキルもすごいし!」
それは実質デートでは? 一緒に買い物に行くんだから。
「ねぇ、天星」
「はい」
榊さんに呼ばれたから返事をする。
「さっきのスキルの名前は?」
「絶空二刃です」
「もしかして今日それを使ってスフィアを呼び寄せた?」
「天星くんはそれを使ってないよ。杖使ってた」
「杖?」
「七環万象の杖です」
気分が良くなっているから七環万象の杖も取り出して榊さんに見せる。
「そんな名前だったんだ……それはどんなスキル?」
「大体の状況なら解決してくれる杖です。俺が意図していなくてもこうしたいと思えば適切な魔法を放ってくれるんですよ」
「すごっ! 剣も杖も強くて最強すぎ!」
俺のスキルを知ってケラケラと笑ってくれる月下さん。
「あ、ありがとうございます」
でもね月下さん。杖はともかく、剣は能力に振り回されているんですよ。何も凄くない。
「他のスキルもあんの?」
「まあ売っているスキルは覚えていますね」
「えっ、それなら剣とか杖のスキルも売ってるってこと?」
黒宮さんからの質問にどう答えたらいいのか詰まる。
「いや……その、このスキルは覚えたわけじゃなくて……」
「それなら最初から覚えてたのかな?」
「まあそれはそうか」
「あー、まあ……」
榊さんと黒宮さんの解釈に同意しておけば良かったのに言い淀んでしまった。
「何かあるみたい」
「ウソへたくそすぎっしょ」
「でも聞いてほしいという線もありうるね」
三人から詰め寄られてしまい俺は話すしかなくなった。
「絶空二刃や七環万象の杖は色々なスキルが合わさってできたスキルなんです。だから覚えたわけではなく昇華したというのが正しいと思います」
「そ、そんなことあるんだ!? 二人は知ってた!?」
「知るわけないでしょ」
「そもそも多くスキルを持っている人しかできないから発見されていなかったんだろうね。……天星、それは何か特殊なことをやったのかな?」
「特殊……?」
そんなことを聞かれても特殊なことはしていないと思う。スキルを使っていればいつの間にかこうなっていた。
「特に思い当たることは……」
「ならスキルを使っていてそうなったんだね。……みみ、もしかしたらスキルを使っているとユニークスキルになるかもしれない」
「マジっ!?」
「ガチっ!?」
榊さんの言葉に月下さんと黒宮さんがかなり食いついている。
なんだ、ユニークスキルが手に入れば特典でもあるのか? よく分からないけど。
「これは……使っていくしかないっしょ」
「ガゼンやる気出たー!」
黒宮さんと月下さんはやる気に満ち溢れている。
「ユニークスキルになったら何かあるんですか?」
「ユニークスキルを持っていれば人気配信者になれるかもしれないってことだよ」
えっ、それなら俺はめっちゃ人気配信者になれるよ?
「天星くん、これからダンジョンに付き合ってよ!」
「えっ、はい」
それは願ってもないことだ。月下さんから言われると断る理由がないしおパンツ様がまた拝めるわけだ。
「陰キャ、連絡先交換」
「あっ、僕も」
お、おぉ……! 俺の連絡先に新たにトップカースト二人の連絡先が増えたぁ!?
俺、死ぬんじゃないか……?