05:トップカーストと陰キャのダンジョン攻略02
俺と月下さんが駆け足で二人の元に向かえばスフィアと戦闘をしていた。
榊さんがスフィアにデバフをかけ足を遅くしてから黒宮さんが火で焼くというフォーメーションが組まれていた。
「前衛いらないじゃん!」
それを見た月下さんがケラケラと笑いながらそう言った。
「レベルが低いスフィアですからこれで大丈夫なんだと思いますよ」
むしろ俺の方がいらないまである。
俺は今の榊さんがやっているような足止めをしようとしていたのだが榊さんが完璧にこなしているのなら俺の役割はないに等しい。
「もう来たんだ。まだ来なくても良かったのに」
スフィアを焼いて楽しんでいるように見える黒宮さんが俺たちを見るなりそう口にした。
「そっちは上手くやってるねー。ユーくんもうそんなに使いこなしてんの? すごくない?」
「そー? 意外とスキルが思い通り動いてくれるから何でもできる感じがするね」
「これはいい買い物をしたし。一個三百万円はやす」
榊さんと黒宮さんからはスキル絶賛の声が届いた。
「その様子だとあたしは別のところの方が効率が良さそー」
「ん。そうした方がいい」
「僕とみーゆは大丈夫だからみーこと天星で分かれよっか。一時間後にダンジョンの入り口集合ね」
「さんせー! じゃ、天星くん行こっ!」
「はい」
俺としても分かれてくれた方がやることができるからな。
俺と月下さんは二人と離れたところ、すぐにスフィアが三体現れた。
「天星くんは何ができんの?」
「大体なんでもできますよ。月下さんに合わせます」
「そっか。それなら突っ込むよ!」
「どうぞ」
月下さんがどれくらい戦えるのか分からないからとりあえず絶対にカバーできる『七環万象の杖』を出現させる。
出現させた杖は身の丈ほどあり天を向いてる方は七つの輪が連なってる円があり、地を向いている方は鋭く尖っていた。
地面に尖っている方を突けば三体のスフィアの動きが止まる。
月下さんはスフィアの一体に向け硬化した拳で殴りかかった。すると一撃でスフィアは砕け散り魔石だけが残った。
続いて止まっている二体のスフィアも同様に殴って倒した月下さん。
「問題ありませんね」
「天星くんもユーくんみたいにできたんだ! って、その杖どこから出した!?」
「これはスキルで出したんですよ」
「そんなこともできるんだ! すご!」
「そ、そうですか」
テレテレ。月下さんはなんでもすごいって言ってくれるから気分がいいな。これがキャバクラか?
「それよりも、こんな感じで行きますか?」
「うーん、こんなにガッチリと止めなくても大丈夫! 危なそうになったら止めるってのでどう?」
「分かりました」
俺としては誰かとパーティを組むのは初めてだからどうやればいいのかは手探りの状態だ。今は月下さんに言われた通りのことをしよう。
「次来た!」
「はい。いつでもどうぞ」
月下さんは出てくるスフィアに遠慮なく立ち向かっていく。
今度は四体のスフィアがおり一体のスフィアに殴りかかる月下さん。他のスフィアは月下さんに向けタックルを仕向けるから俺は月下さんに近い二体のスフィアを止めた。
一体のスフィアを殴り消した月下さんは続いて俺が止めていない迫りくるスフィアを殴り、そのタイミングで俺は二体のスフィアの動きを再開させ月下さんのハイキッおパンツ!
えぇ……しゅ、しゅごい……ピンクのおパンツが生で見れてる……生女子高生のおパンツ……す、スパッツとか履いてないんだ……しゅ、しゅごく……イイッ!
えっ、月下さんと一緒にダンジョンに行くだけでこんな素晴らしい光景が見れるとかスキルボールタダでいいんだけどぉ!?
「今のすごく良かった! 天星くん上手だね!」
「そうですか。それからありがとうございます!」
「それから? どういうこと?」
「気にしないでください。早く行きましょう!」
「気合入ってるぅ。でも時間は有限! 行こ!」
そうだ、時間は有限だ。決して月下さんのおパンツ様をもっと見たいとかそういう邪な理由ではない。そうだ。
でもあれだな……桃源郷がここにあったのかもしれない……。
☆
「せいっ!」
「おぉ……」
「てやっ!」
「うおっ……」
「はぁ!」
「うっ……」
俺に支援の才能があるのか七環万象の杖が優秀なのかは分からないが俺の思い通りに月下さんのおパンツ様が見えるようにスフィアとの戦いをコントロールしていた。
あのムッチリとしたお尻を見ているとすごく滾る。おパンツ様からはみ出ているお尻のお肉もとてもエッチだ。
もう……ダンジョン最高かよ……!
「ふぅ、かなり溜まったよね?」
「はい、かなり溜まりましたね」
すごく溜まった。色々と。
「でもどこに魔石があるの? 持ってくれてる……?」
俺が魔石持ちを引き受けたのは月下さんの動きが邪魔にならないようにするためだ。
「持ってますよ。アイテムボックスというスキルがあるのでそこに入ってます」
「アイテムボックスって?」
「ゲームとかに出てくるアイテムボックスと同じような物ですね」
「あっ、ごめん。あたしゲームとかしないんだよねー」
「まー、手持ちじゃない手持ちにアイテムを持っておける異次元のポケットと思っておけば大丈夫です」
「へー、すごい便利! えっ、いっぱい買い物しても手ぶらってこと?」
「しかもこのアイテムボックスはテンプレ通りに時間が止まっているので冷たい状態でいれたらずっと冷たいまま。温かい状態でいれたらずっと温かいままです」
「ほっ……うーんっ……」
俺の説明に欲しいと言いかけるがすぐに口を閉じた月下さん。
こういう時に一番最初に買い物と出てくる辺り、一番に考えていることが家庭なんだろうな。
「いっぱいあるので今なら一万円で売りますよ?」
「それはダメ! 安く売るのはその価値を下げるんだから! 最低でも三百万円!」
「そ、そうですか」
そこを妥協すればいいものを月下さんは頑なだ。黒宮さんに一万円で売ると言えばいいよと言ってきそうなのに。
いや待て。黒宮さんに売れば月下さんも一万円で買いやすくなるのではないか? ……いや黒宮さんが何をしでかすか分からないからやめておこう。
「か……うっ……買う! アイテムボックスのスキル買う!」
「はい、分かりました」
アイテムボックスのスキルは日常生活でも便利だからな。それに魔石を人以上に持てるというのは換金の時に便利だ。
一瞬だけ俺がアイテムボックスの代わりになってずっと月下さんとダンジョン攻略できると思ってしまった。そんな気持ち悪い考えはすぐに消し去る。
「こ、これで一千二百万円……」
「あの、生活がひっ迫するほどの状態になってまで払わなくていいですからね? 生活が苦しくない程度で大丈夫ですから」
「それだといつまで経っても借金は減らないって知ってる?」
「借金じゃないですから。俺、人が苦しんでいるところを見るのは苦手なのでそこは……その、お願いします」
「……かなり待つことになるよ?」
「大丈夫です。払ってくれると約束してれるのなら」
てか俺は別に月下さんから三百万円受け取れば問題ないんだよ。最後まで支払ってくれる必要もないし少しずつなら丁度いい時に三百万円になるだろう。
「うん、約束する。絶対に払うから」
「はい、それで十分です」
「ありがと。それじゃみーゆとユーくんのところに行こっか」
「はい」
一時間ほど経ったため二人と合流するためにダンジョンの入り口に向かう。道中で月下さんのアイテムボックスに半分の魔石を入れて目的の場所が見えてきた。
「おっ、来た」
「無事みたいだ」
すでに黒宮さんと榊さんがいた。
「ごめん、待った?」
「今さっき来たところだね」
おー、榊さんが言うとイケメンが待ち合わせ時間に早く来た感じになるなぁ。
「魔石の換金なんだけどさ、どうせだから勝負しない?」
「勝負って?」
「どっちのチームの換金額が多いかで勝負。負けた方が帰り道のマックおごりね」
黒宮さんが陽キャっぽい勝負事を仕掛けて来た。
「望むところ! 天星くんもいい?」
「構いませんよ」
トップカーストの人たちと一緒にマクドに行けて同席できるのか。それを逃す手はない。
「そう言えば二人は魔石を持ってる? 見えないけど」
俺と月下さんの様子を見た榊さんが尋ねてきた。
「見えないでしょ? でも持ってる! ほら!」
月下さんは何もないところに手を入れ手が消えたように見えるがすぐに手が現れて魔石を手にしていた。
「みーこ、新しいスキルを買ったんだ」
「そ! アイテムボックスってスキル」
「さっき陰キャがスキルボールを出していたスキルがこれ?」
「そうですよ」
「ふぅん……ま、今はいいや」
てっきり黒宮さんが買いたいと言い出すかと思ったが気のせいだった。
「みーこ、四つ目を買って大丈夫? 四つ買ってる僕が言うのもあれだけど」
「悩んだんだけどねー。でも絶対に買った方が便利だと思って買っちゃった!」
「アイテムボックスも三百万円?」
「そー」
「……僕も今はいいかな」
黒宮さんも榊さんも買おうとは思っているみたいだ。払い終わった後に買うのかな?
「それじゃ換金しに行こっか!」
「私とユーくんは先にやってたから有利かもしんないけど、ハンデあった方がいい?」
「そんな必要ないし。あたしと天星くんは相性良かったから」
「ふぅん。ならお金ないって泣きついても知んないからね」
「上等!」
月下さんと黒宮さんだけが盛り上がっている。俺と榊さんは特に盛り上がっていない。
「二人ともこんな感じだから慣れた方がいいよ」
「あー、まあ大丈夫です」
それはトップカーストだから嫌でも目について知っていた。
……でも、榊さんの言い方はこれから長いこと付き合うって感じだよな。……俺もトップカースト入りか!?