04:トップカーストと陰キャによるダンジョン攻略。
SHRが始まる前に月下さんからのダンジョンのお誘いを即答してしまい放課後までずっとドキドキしていた。
お近づきになれるとか仲良くなれるんじゃないかとかラッキースケベがあるんじゃないかとか思っていて授業に集中できなかった。
そして放課後、ソワソワとしてしまっていた。
もしかしたら今までのは俺の妄想で声をかけられないかもしれない。やっぱり陰キャとはないよねーで陽キャたちと行くかもしれない。そういうことがよぎっていた。
まあ俺から声をかけるのはリスキーだから声はかけない。
声をかけて「ハァ? なに意味分かんないこと言ってんの?」とか言われた日にはもう立ち直れない気がする。
あっ、そうだ。もしかしたらダンジョンで待ち合わせかもしれない。だから先に行っておこう。それで来なければ俺だけでダンジョンに潜ろう。うん。それがいい。
荷物を持って教室から出ようとした時、肩をつかまれてビックリしてしまった。
「もう! さっきから呼んでるのにどうして反応してくんないの? てかどこ行くし」
怒った顔の月下さんだった。
あー、良かった。俺の妄想がとんでもないものを見せているわけではなかったのだ。
「あー、ダンジョンに集合かなと思いまして……」
「同じ学校なんだから一緒に行けばいいじゃん。変なのー」
「そうですよね……」
ヤバイ、陰キャの俺ではこのノリについていけないかもしれない……。
「そんなに急ぐ必要なくない?」
「いやいや、みーゆ。僕たちは借金をしているんだから頑張らないと」
気だるげな黒宮さんとやる気がある榊さんもこちらに来る。
「装備は大丈夫ですか?」
俺は必要としていないけど月下さんたちがどうかは分からない。
「ない!」
「ダンジョン用の装備高すぎー」
「それを買うよりもスキルボールを買おうとするよ」
月下さんたちは装備がないらしい。俺もないけど。
「あー、そうですか。それならこのまま行きますか」
「天星くんは?」
「俺は必要ありませんから」
「おー! それは強いからってこと!?」
「そんなことはないですよ。俺のスキルが守ってくれるだけです」
「最初から持ってなかったの?」
「装備って高いですよねー」
「ぼったくってるでしょ、あれ……」
やっぱり学生だとダンジョン用装備は買えないという結論に至ってしまうわけだ。
☆
月下さんに会話を振られながら俺たちはダンジョンにたどり着いた。
ダンジョンに入るための入場料をそれぞれ支払ってダンジョンに入る。俺は現金、他三人は冒険者カードによる支払いだ。
「なんで現金? 現金で支払っているの初心者以外に見たことないよ」
俺が現金で支払ったことに疑問を抱いた榊さんに問われる。
「それはまあ……深い事情があるんですよ」
普通の人はスフィアを倒せば魔石が落ちる。そしてたまにスキルボールが代わりに落ちる。
だが俺はすべてがスキルボールで落ちる。だから魔石を換金したことがないし換金したお金が入る冒険者カードに一切のお金が入っていないのだ。
「もしかしてスキルボールと関係してるとか?」
えっ、ええええええええっ!? なんでそんな核心的なところを突けるんですか!?
「ど、どうですかね……」
「あー、これ以上は聞かないでおく」
ふぅぅぅぅ……他の人とダンジョン談議とかしたことがないからこんな罠が仕掛けられているのか……気を付けないと。
「そう言えばさ、スキルってどう使うわけ?」
張り切って前に出ていた月下さんが根本的なことを聞いてきた。
「スキルは使おうとすれば使うことができます」
「使おうと……てかあたしが買ったスキルってどんな効果?」
「説明してませんでしたね。『超打撃』は打撃の際に数倍、クリティカルで十数倍の威力を出す。『硬化』は集中した場所を硬くする。『超再生』は魔力を消費することで自己再生能力を上げる。というものになってます。スキルを使う練習として硬化を使えば分かりやすいと思います」
「使おうと……」
月下さんは握り拳を作ってジッとそれを見つめているが一向に硬化できる様子がない。
「……で、できないんだけど!? あ、あたしの三百万円が無駄になっちゃった!?」
「いや、無駄じゃないですよ。……でもどうしてできないんだ……?」
俺はすぐにできたのにどうして月下さんはできないんだ。
「私もためそーと。火」
月下さんが険しい顔で頑張っている中、黒宮さんもスキルを使おうとした。
だが何も起こらなかった。
「どういうこと?」
「どういうことと言われましても……」
「粗悪品なら容赦しないけど」
「いやいやいや! スキルを思い浮かべればちゃんと習得してますよね!?」
黒宮さんの鋭い視線を受けてびくっとなってしまう。
「僕とみーゆの魔力とかは大丈夫?」
榊さんに根本的なことを聞かれたがそれは抜かりない。
「それはちゃんと確認したので問題ありません」
「そっかー……なら僕も使ってみよ。僕のスキルも教えてもらってもいい?」
「はい。『バフ魔法』は任意の対象に変換した自身の魔力を送り任意の能力を底上げする。『デバフ魔法』は任意の対象に変換した自身の魔力を送り任意の能力を下げる。『回復魔法』は任意の対象の怪我を治す。『防御魔法』は魔力の壁を作りだすことができる。というものですね」
「へぇ……バフとデバフってどんな能力でも下げれるの?」
「大体は下げれますよ。スキルを使うなら俺に使ってもらって大丈夫です」
「ん、それなら遠慮なくやるねー」
榊さんが俺に手のひらを向けて何か口にしたと思った途端に俺の体は少し重くなった。
「どう?」
「……あの、どうしてデバフ魔法をかけたんですか? バフ魔法では?」
「んー……分かりやすいから? どうだった?」
「それはそうですけど……まあこれくらいなら十分だと思います」
これは榊さんなりのお茶目なのだろうか。でも榊さんの初めてが俺ということを考えれば悪い気はしない。
「えぇ!? ど、どうしてユーくんはできたの!?」
「はぁ? おい陰キャ!」
「はい!」
「さっさと原因を調べろ……!」
え、えぇ……スキルボールを売ったのはあなたたちが初めてなんだからそんなことを言われても……でも原因が分からないと殺されそうな勢いだ。
……どうしろと!?
「前にお姉から聞いたことがあるんだけど」
俺が窮地に立たされている時、女神は突然降臨した。
「スキルを使う時は想像力が必要なんだって。だから想像力がなければスキルを上手く使えないし使えたとしても宝の持ち腐れになる。二人にはスキルを使うという想像力が足りてないんじゃないかな?」
「そ、そう言われてみれば……!」
そ、そうか! 俺はいつでも妄想をしていたから想像力がすごく鍛えられていたんだ! 妄想は全く無駄じゃなかったんだな……!
「天星は想像力豊か?」
「すぐに使えたってことはそうなんでしょうね……そういう榊さんもそういうことですか?」
「意外でしょ。でも僕自身それを意外とは思わないね」
も、もしや俺と同類なのか榊さんは……! いやそれは榊さんに失礼だ。俺の妄想は一歩間違えれば中二病だからな。
「想像力……使えって念じるだけじゃなくてそれをどういう結果になるかまで考える必要があるってこと?」
「そんな難しく考える必要はないと思いますよ、月下さん」
月下さんは意外と感覚派ではないのか。こういうことには大雑把にやりそうな感じなのに。
……こうして会話しているだけで知らない一面をいくつも知れるとは。
「あっ、出た」
月下さんがああだこうだしている間に黒宮さんが火を出すことに成功した。
「うーん……うーん……!」
それを見て焦ったのか月下さんは明らかに力んでいるのが分かった。
「私とユーくんは先に行っとくから」
「じゃ、お先」
「えっ」
こういう時は待っておくものではないのかと思う中で黒宮さんと榊さんは先に行った。
「……あの二人だけで先に行って大丈夫ですかね?」
「だい、じょうぶっ! 二階層までなら、行ってるから!」
「それなら大丈夫そうですね……月下さんはどうですか?」
「どうやんの!? 分かんない!」
あぁ、これは沼っているわけだ。
……イメージを持ちやすくする方法か。いや、拳を硬くする方法なら分かりやすい例があるかもしれない。
「月下さん。俺の手を今硬くしたので触ればイメージしやすいかもしれません」
「硬くって、天星くんも硬化を?」
「まあそんなところです」
「そっか。それならお言葉に甘えて」
正確には硬化も含めたスキルがユニークスキルに昇華しているだけだが。
手のひらを月下さんに向けている俺の手を月下さんは遠慮なく触る。
……今朝と言い、またトップカーストのギャルに手を触られている……! これで抜きたい気持ちが今も溢れている。
「ホントだ……! 硬い……!」
おっふっ……うっ……その言い方はくるものがありますねぇ……!
「こんなにも硬くて……男の人の手って弟のしか触ってないけど……こんなにおっきいんだ……」
「すぅ……な、なんとかなりそうですか?」
これ以上は俺の理性がヤバそうだから念入りに触っている月下さんに聞く。
「何となく分かった気がする!」
そう言った月下さんが握り拳に意識を集中させれば、ちゃんとイメージ通りに硬化ができていた。
「や、やった! できた! できた! 見た見た!?」
「み、見てました!」
喜びのあまり俺との距離をゼロにしてくるがすごく困る。嬉しいのだがね!
「よしっ! これでようやく進める! 早くいこ!」
「はい……」
ふぅ……何もしていないのにドッと疲れたな……。




