03:トップカーストの女子と。
昨日は家に帰ったら月下さんと交換した連絡先を見てニマニマしつつ滾ってきたから抜いた。
やっぱりワンチャンがありそうな場面だったから捗ってしまった。最後に否定されてしまったけどね。
登校して誰とも話さずに自席に着き、ワイヤレスイヤホンを装着してからスマホで虹の王冠の動画を見るのが俺の日課だ。
やっぱりいつ見てもこの胸は絶景だ。このリビドーが俺の授業への意欲を高めてくれる。これにより俺は勉強ができる方になっている。
親にダンジョンに行く条件として成績が下がらないことを言われたからな。
てかそれならご褒美でお金もくれよとは思うんだが思うだけだ。あまり自分の意見を主張するのは好きではない。
もしかしたらこの冒険者ギルドに入れるかもしれない。入ったら超次元鬼ごっこや超次元FPSで無双できると妄想するのが最近のマイブーム。
ダンジョンに入る前はダンジョンで強いスキルを手に入れてモテモテになったり今探しているエロ三種の神器を手に入れてエロいことをする、なんて妄想をしていたなぁ。
どれも叶った試しがないからどうせマイブームの妄想は妄想で終わるのだろうな。
俺の人生はスキルボールを自在に手に入れることに全振りしている悲しき怪物なのかもしれない。
チラリと教室の中を見ればちょうど月下さんが登校してきたところだった。そして月下さんは仲のいい二人の元へと向かった。
昨日連絡を交換してから連絡はない。俺も特に思いついたわけではないからメッセージは送らない。そもそもエッチとお金以外なら困っていることなんて一つもないんだから月下さんからしてもらうことなんて何もない。
ハァ……おパンツみたい。
と邪推な思いをしている時に肩をちょんちょんとやられたものだからビクッ!!! となってしまった。
そしてそれをした主を恐る恐る見れば、月下さんがそこにいた。
……俺だよな。肩をちょんちょんされたし俺の方を見ているし。
動画を停止してイヤホンを外す。
「ビックリした! おんなじクラスじゃん!」
「あー、うん、そうですね……」
ビックリしたのは俺だ。ハァ、話しかけられることは問題ないんだがこうして注目を浴びるのはイヤだ。だから俺は根っからの陰キャなのだろう。
「まさかネットで知り合った人が同い年でしかも同じクラスなんて思わなかった!」
「ははっ、そうですね……」
「おんなじクラスになってもう三ヶ月も経つのにお互いに分からないことなんてあるんだ!」
「ははっ、そうですね……」
「冒険者になる人って案外いなかったんだよねー。帰りに一緒に行けるじゃん!」
「あー、まあ、はい……」
すごい……! 永遠に喋り続ける勢いだ……!
あれ……? もしかして月下さんとお近づきになれるチャンスなんじゃないか……? ダンジョンに一緒に行けるということはそれだけチャンスがあるということだ。しかもダンジョンでは俺の独壇場であることは間違いない……!
いや……強いスキルを持っていても俺はダンジョン二年目。技術があるかと問われればまあまだないだろうなぁくらいだ。独壇場だと驕らない方がいい。
「みーこ、彼が困ってるって」
月下さんが止まるまで待とうと思っているところで止めてくれる人が現れた。
ボーイッシュでマイペースな感じの黒髪をボブカットにしている女の子、榊悠だった。
「あっ、ごめんね? ……そう言えばまだキミの名前を聞いてなかった。教えて?」
そう言えば昨日は月下さんの名前を教えてもらっていただけで結局こちらの名前を教えてなかった。
「天星です」
「天星くんね。これからよろしくね!」
「あー……はい、よろしくです」
この陽キャオーラに耐え切れそうにない。俺まで陽キャになってくれたらいいのになぁなんて。消滅するだけだろに。
「天星が昨日の人?」
「そー! 同じクラスでビックリした!」
「へぇ……それはすごく興味があるね」
お、女の子に興味があるって言われたぁ! でも俺じゃなくて俺のスキルボールに興味があるんだよね。何だか卑猥な言葉に思えて来た。俺の、スキルボール。
「みーこ、ユーくん。その陰キャに何があんの?」
二人が来れば残りの一人が来てしまう。
黒髪をツインテールにして地雷系メイクをしているダウナー系なギャルな女の子、黒宮美優だった。
や、やばい……トップカーストの女の子たちに囲まれている!? 夢か? どんな状況だよこれは!?
「ほら、昨日言ってたあれ」
「あー……そういうこと」
月下さんが黒宮さんに説明して黒宮さんも俺に視線を向ける。
ふぅ……すごく、居心地が悪い……トップカースト三人に視線を向けられ、しかもその光景をクラスメイト達が見てくるからな。
「どんな強そうな人かと思ったけど陰キャのくせにやるじゃん」
「人は見かけによらないものだよ」
「それは思った! 冒険者ってみんなオーラがあるものだと思ってたから会った時影武者かと思ったー!」
えっ……この人たち俺のことめっちゃ乏してません……? しかも俺のことを見下しながら、みんなの前で。
うーん……そういう性癖がないかと問われれば……これくらいなら平気か。罵倒は少し嫌だけど。
「それよりさ、まだ持ってるっしょ?」
黒宮さんが聞く持ってるものというのはおそらくスキルボールのことだろう。
「……あれは貴重ですよ」
「そんなのは分かってるし。私たちがやっても出ないんだから」
あっ、この三人は一緒に冒険者をしているのか。仲良しだ。
「でもまだ売ってるのは分かってる」
あー、確かにまだいっぱい売ってるや。いっぱい買ってほしいし。
「まー……そうですね」
「ふぅん……そっかぁ」
あくどい笑みを浮かべる黒宮さんは俺の耳元にプルンとしている唇を近づけて来た。うわぁ、すごくいいにおいがするぅ……。
「スキルボールをいっぱい持ってるって知られたら大変だねー」
「まあ……はい……」
ドキドキして黒宮さんの言葉を理解するのに数秒時間がかかった。
でも……あれ? もしかして俺カツアゲされそうになってないか?
「みーゆ! そういうのは良くないって!」
俺の他に聞こえていた月下さんが黒宮さんを非難する。
「えっ? みーゆなんて言った? ヤバいこと?」
榊さんよ……その話をここで続けられると色々とヤバいことになるんですよねー。ど、どうすればいいんだ……!?
「ちょっとこっち!」
月下さんに手を引かれて俺は教室から出る。それに続いて榊さんと黒宮さん。
月下さんに手を引かれていることにこれ以上にない興奮を覚えつつ四人で屋上にたどり着いた。
……お、女の子と手を繋いじゃった……! もう一生手を洗わないでおこうかな。心なしかいい匂いがしそう。
「みーゆ! どういうつもり!?」
「どういうつもりってなにが?」
「天星くんを脅すようなことをして何考えてんの!?」
月下さんはそういうことを許せないタイプなのか。
「ねー、みーゆは何言った?」
「……スキルボールをいっぱい持っているって知られたら大変だねーって言われました」
榊さんが近くに来たことにドキリとしながらも答える。
「あー、そっかー……それはみーこ許さないね」
「そうなんですね」
「あの見た目で意外だよね。みーこは優しいから」
昨日のことといい、俺は月下さんのことを外見だけでしか判断していないようだ。……でもそれはお互いさまじゃね?
「いっぱい余ってるなら貰ってもいいじゃん」
「それは天星くんが決めることでしょ。それを脅すような真似をしてやるって頭おかしいんじゃない!?」
「酷い謂れよう……でもみーこは私のパパ活止めてなかったじゃん。それなのにそこの陰キャの時だけどうして声を荒げてるの?」
「みーゆがやってることはお互いに同意したことで、罪になってもそれは自己責任。でも天星くんのは一方的な犯罪だって分かってる……?」
「脅される弱い方が悪いって」
「そんなわけ……!」
あーあー、ヒートアップしちゃってるよ。これどうしたらいいんだ? ちなみに俺は止めることなんてできないぞ。そんなことができていたら今頃モテ男だ。
「はいはい、二人とも落ち着いて」
おうじー! さすがはユーくんだ! この二人を止めることができるとはやりよる!
「みーこは少し頭を冷やしなよ」
「……うん」
榊さんの言葉にその場から離れる月下さん。
「それでみーゆ。軽いノリでやったんでしょ? さすがにこの話題は早めに終わらせないと」
「そうだけどさー。いつもはノッてくるからやったんだけど」
「まあ今回のみーこは少し早かったかな。少しだけ思うところがあるのかも」
何だか落ち着きそうで良かった。でも結局黒宮さんもスキルボールが欲しいということなのか? 買ってくれるのなら大歓迎だ。タダは月下さんみたいな理由がないと無理。
「ごめん……熱くなり過ぎた」
「私も適当なこと言い過ぎた。ごめん」
戻って来た月下さんと黒宮さんが互いに謝って落ち着いた。
一時はどうなるかと思ったが何とかなって良かった。さすがは榊さん。
「それで、陰キャはまだスキルボールを売ってるの?」
「売ってますよ」
おっ、商売の話か。いいね。
「いくら?」
いくら……値段は知っているはずなのにどうして値段を聞いてくるんだ。分からん。
「三百万円です」
「面と向かって言えば安くしてくれると思ったけど、そこはちゃんとしてるんだ」
「そこで安くしたら月下さんの値段が何だってなりますよ」
「それもそうか。……買う。何がある?」
「SNSを見てもらった方が早いですけど、逆に何が欲しいんですか?」
さすがにいっぱいスキルボールを出せるとは言え、何でも出せるわけではない。エロ三種の神器だって出せないし。
「魔法。魔法がほしい」
「魔法ですか。何でも出せますよ」
たぶん魔法だけはすべて出ているんじゃないかってくらい出ている。だから魔法のスキルが昇華したユニークスキルは強い。
それに月下さんならともかく、黒宮さんなら魔力も心配はなさそうだ。榊さんも魔力量はそれなりに多い。
「なら……火を出したい」
「火魔法ですね」
「空を飛びたい」
「風……重力魔法?」
「バリアを出したい」
「防御魔法ですね」
「それくらい。今持ってるの?」
まあ……別にアイテムボックスがバレても問題ないか。
「はい、持ってますよ」
閉じていた手のひらを開けば三つのスキルボールがあった。
「えっ!? ど、どうやったの!?」
これに一番食いついたのは月下さんだった。
「マジックですね」
「す、すごい……! 天星くんはマジシャンだった!?」
「いやいや、何かのスキルだよね?」
冷静な榊さんのツッコミが襲い掛かる。
「そうです。でも魔法もスキルもマジックも変わりませんよ。それよりも黒宮さん、九百万円は持っているんですか?」
「一律三百万円なんだ……九百万円は持ってないけど、分割払いにできるんっしょ?」
「できますよ」
「分割払い一択。払えなかったら……私の体で払うよ」
その大きな胸を見せつけるかのようにしつつ、乳首が見えるか見えないかまで服をずらす黒宮さん。
……九百万円分を体で払う……? ど、どんなものが待っているんだ……!?
「あはっ、体で払った方がいいって顔してるー」
ニヤニヤとしている黒宮さんに悪い気はしないしむしろ興奮するものだ。そしてそうしてもらいたいところです!
でもそれをすれば月下さんにも同じようなことを思っていたことになる。
「いや……お金でお願いします」
「まあ少しの貯金はあるからそれで月々払っていくし」
ハァ……チャンスを逃してしまった。黒宮さんは三つのスキルボールを手にしてすぐに習得した。
「ユーくんはどうする? 買わなくてもいいけど……」
月下さんはただ一人買っていない榊さんに聞く。
「うーん……僕も欲しくはあるけど……そんなお金ないし」
「でも分割で払えばいいんだからダンジョンで稼げる! 一緒にダンジョンに行けばさらにお得!」
「分かった分かった。僕も買う」
月下さんの熱量に負け買うことを決意した榊さん。
おいおい、どうしてこんなに連日売れるんだ? 月一千万円超えとか社長かよ。まだお金は貰ってないけど。
「榊さんはどんなスキルが欲しいんですか?」
俺の問いに考える榊さん。
「みーこが近接、みーゆが遠距離だから……僕は支援がいいかな」
「支援という形はいっぱいありますけどバフ魔法、デバフ魔法、回復魔法、防御魔法が主なスキルボールですね。どうしますか?」
「一律三百万円だよねぇ……期限ってある?」
「今のところは考えてないです」
さすがに十年とかなら無理だけどまあ払う意思があるのなら融通は利かせる。
「なら、四つ買う。いざとなればお姉に貸してもらお」
「あー、かおりさんなら貸してくれそうだけど無茶ぶりを受けるっしょ!」
「些細なことだね」
榊さんも俺からスキルボールを買った。
昨日と今日合わせてスキルボールを八つも売ったぞ! 二つはサービスだけどそれは月下さんが認めていない。
何よりこんなに近くでトップカーストの女子たちと一緒の空気を吸えたんだ。気づかれないように深呼吸をしつつ、帰ったら思いっきりやろう。
「あっ、今日の放課後に一緒にダンジョンに行かない?」
「えっ、はい。いいですよ」
あっ、なにも考えずに返事をしてしまった。