10:サボり
「実感ないなぁ……」
今日もまた虹の王冠の動画を見ているが俺がこの中に入るのかと思うと実感が全く出てこなかった。
それにできるのかとも思っている。
俺が超次元スポーツをしたり、試合をしたり……うーん、無理。やっぱり妄想と現実は違うから上手く行くわけがないんだ。
やっぱり俺は普通の生活が一番似合っている。平凡というのがたぶん好きだから妄想みたいな展開になっても嫌だと思ってしまうんだ。
「でも受けたんだよなぁ……ハァ」
流されて後悔してしまったことはあるのにそれでまた流されてしまった。
俺が妄想していたのは虹の王冠のメンバーになってチヤホヤとされるという展開だ。でもなぁ……無理だろ。そんなの俺が耐え切れないし妄想なんだからそんなこと起きるわけがない。妄想だからいいんだ。
でも実際には虹の王冠にスカウトされて受けてしまったんだよなぁ……ハァ。どうしたものか。受けたから断ることもできない。
つうか俺素人だぞ。そうだ、素人だから少し時間をくださいと言いつつ逃げていようか。逃げる術は持っているからな。
……逃げてもいいのかと思ってしまう。ここで逃げなければ変われるんではないか思った。人はそう簡単に変わることがないけれど変わろうとしなければ変われないだろうな。
「ハァ……」
☆
「ふわぁ……」
昨日の夜は色々と考えてしまってあまり寝れなかった。虹の王冠の動画を見たら思い出してしまうから別のもので抜いた。
「おはよう。眠そうだね、天星」
「あー、はい。おはようございます」
元をたどればこいつのせいでスカウトされたりとかになっているんだよな。まあ俺が断らないのが悪いんだけどね。
「もしかして昨日のことで?」
「そう、ですね」
「突然あの場に誘導しちゃってごめんねー。お姉が聞かないものだからさ」
「大丈夫ですよ」
大丈夫じゃないけど大丈夫だと言うしかない。
どういう意図でかおりさんに話していたのかは知らないが悪気はなさそうだし。悪気があったとしてもどういう悪気があるのかが分からない。
そう言えば昨日の会話で榊さんが入るみたいな話はなかったな。
「榊さんはユニークスキルをゲットしたら虹の王冠に入るんですか?」
「入ると言うか……もう入っているんだ……」
榊さんは遠い目をしながらそう話した。
「入ってたんですか?」
「虹の王冠として活動したことはないよ? でもちゃんとメンバーの中には入ってる。虹の王冠のメンバー一覧に書かれているんだ……」
え? そうなの? 全く知らなかった……まあそこまで詳しく見ているわけではないからメンバーが何人いるとか予定がどうとかは知らない。俺はただ動画を見ているROM専だからな。コメントもしないし。
「それなら二人みたいにユニークスキルをゲットしたい! という気持ちがないんですね」
「いや……実は焦ってる」
遠い目をしながらも顔を青くしている榊さん。
「お姉に言われているんだ……高校卒業までにユニークスキルをゲットしないと一ヶ月に一回はバンジージャンプさせるって……」
「えっ……それだけ?」
「そ、それだけ!? バンジージャンプだぞ!? もし繋がっているヒモが切れたら死ぬんだぞ!? ただでさえ高いところが苦手なのに……!」
いつものすかした顔が乱れるくらいにバンジージャンプ苦手なんだ……俺はやったことないけど興味はある。
「でも一ヶ月に一回でもすれば克服できませんか?」
「克服!? バカか! そんなにもやっている間に僕のバンジーのヒモが切れて死んでいるに違いない!」
「いや、ちぎれないですよ」
「この世に絶対はないんだからそんなことはないだろ!」
「そ、そうですね……すみません」
えぇ……そこまで嫌いか? まあそこまで嫌いならユニークスキルを手に入れたいと思うのだろう。その必死さは全く分からないけど。
「でも二人と比べたらまだ半年以上あるじゃないですか。焦らなくてもいいのでは?」
「そんな楽観的な思考でいるときっとその時間はあっという間に過ぎていく。夏休みの宿題みたいにね」
「あー、そうですね」
かなり楽観視していないことは分かった。ただ一つ疑問があった。
「榊さんは他にスキルを持っているんですか?」
「あの四つだけだよ」
「……それなら、ユニークスキルはスキルを昇華させるものですよね? 俺から買わないとそもそも無理だったんじゃないですか?」
そもそもユニークスキルのくくりって何だ? スキルですら全部解明されているわけでもないのに。
「ユニークスキルについての僕たちが知っている条件と天星が知っている条件が違うんだよ。天星はスキルからユニークスキルにするというものだったね」
「はい」
「だが僕たちはユニークスキルは勝手に習得できるものだと思っていたんだ。スキルはスキルボールから獲得できる凡庸スキル。ユニークスキルはその個人でしか得られない固有スキル。その二つのスキルは関係がないと思っていたしただダンジョンを安全に行くために僕たちは買っただけだった。でも天星からスキルからでもユニークスキルができるということを知って、そこからの方が手探りでやるよりもできる可能性があると思ったから天星のやり方でユニークスキルを得ようとしているわけだ」
「へー、そうだったんですね」
そんなルールも存在していたのか。冒険者になって一年しか経っていないんだから知らないことがあっても当たり前か。
「俺も関連スキルを持っていなくてもユニークスキルを発現できるかもしれないってことですか」
もしかしたら……念じていればエロ三種の神器が手に入るかもしれないってことだろ!? それは……ロマンがあるな……!
「嫌味か? ユニークスキルを二つ以上持っていてこれ以上何を欲しがるんだよ……!」
「あっ、いや別にそういうわけでは……」
持つ者と持たざる者での認識の違いがこういう小さな火種になるんだなぁと理解した。
俺がいつもイケメンやらヤリチンやらを敵視していることと同じということか。なら榊さんも持たざる者の気持ちがよく分かったということだ。
とりあえずはダンジョンに行ったら月下さんのおっぱいを見れるように凝視しておこう。いや……! だがおパンツ様に集中しないといけない! くっ! 非常に難しい選択を迫られている……!
「もう……そう言えばみみが遅いね」
「あの、昨日から思っていたんですけどその『みみ』って何ですか?」
「みーことみーゆを同時に呼ぶ時に使う言葉だ。二文字で二人表せれるんだからいいよね。天星も使っていいよ」
「あっ、はい」
永遠に使うことはないだろうなぁ……。
「でもそうですね、いつもなら月下さんが先に来るはずなのに榊さんが先にいますね」
「みーこは家庭の事情で誰よりも規則正しい生活をしているはずだけど……」
「な、何か巻き込まれているんですかね?」
「さぁ。どうだろー」
榊さんはスマホを見ると「えっ」と声を漏らした。
「どうしました?」
「……これ」
榊さんにスマホの画面を見せられ多少目移りしたがトーク画面のメッセージを見る。
『今日は学校休んでダンジョン行ってくる!』
と書かれていた。
「マジですか」
「そう思うよね?」
「……月下さんはこういうことをしないと思ってましたが」
「そうだよ。あの子ちょー真面目。学校もお金がかかってるから勉強頑張って一年生と二年生は皆勤賞。でもたまにこういうバカなことをするから反応に困る」
俺が月下さんを知らなければ「あぁ、しそー」という一言で終わっていただろう。でも今は違う。
「……ユニークスキルのために無茶しませんかね?」
「学校休んでいる分もあるから無茶するよねー……どうしよ」
月下さんに何かあれば困る! 女性が減るってことだろ!? しかも俺の知り合いで……ワンチャンあるかもしれないのに……!
「行ってきます!」
俺は席を立ちカバンを持つ。
「え、が、学校は!?」
「休みます!」
「あー……僕も行く」
「い、いいんですか?」
俺が行けば十分だが榊さんが一緒というのは心強い。
「たぶん!」
「……行きましょう!」
俺と榊さんは二人して教室から飛び出した。




