97.マリアの学び
side: ルンドバード軍第6師団第58歩兵分隊 ハンク
僕の周りにたくさんの死体が転がっている。全部、味方であるルンドバード軍の兵士だ。昨日、一緒にご飯を食べたみんなだ。僕はその中に紛れて倒れている。撃たれた肩が凄く痛い。
でも、今動いたら間違いなく殺される。だって、すぐそこに隻眼の死神がいる。銃を撃って倒す?でもでも、隻眼の死神は1人じゃない。直ぐに僕は殺されてしまうだろう。
こうして、死んだフリをするのが1番生き残れるはず。この世界は生き残ったもん勝ちだ。
決して運動が得意な訳じゃない僕だけど、頭には自信がある。隙をみて隻眼の死神を撃ち殺せれば、僕は英雄だ。それが無理でもここはこのまま生き残るだけでいい。
「リンゼさん達もそろそろ行きますよー!」
「あ、あぁ」
武器の確認をしていた奴らがそろそろ動こうとしている。あの後ろにいる女性3人は隻眼の死神達に比べて息が上がっている。おそらく新兵だろう。まぁ、ビジュアルはいいので僕の捕虜に加えてやろう。もう少しの辛抱だ……
「さて、ローズ!ここで問題です!」
「ふー、ふー、えッ!?」
1番息切れを起こしていた子に話しかけている。
「私達は今、安全ではありません。なぜでしょう?」
何を言ってるんだ?ここは敵地、俺達ルンドバードに囲まれてるんだぞ。安全な訳あるか!
「えっと、敵に囲まれつつあるから!?」
そうだろう?
「ブブー、不正解!」
は?
「正解は死んだフリした敵がいるからです」
「えっ!?」えっ!?
バンッ……
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side:マリア
そう言って、リリーナさんはたくさん転がっている死体の1つの眉間を撃ち抜く。すると少し上がりかけた手が落ち、手に持っていた銃が転がる。
「死んだフリ……」
ローズがびっくりして呟いている。確かに特務機関がここで弾薬の確認と補充をし始めて、私達は何も気にせず呼吸を整えていた。第4師団の中でも鍛えている方だと自負していた私の自信が崩れ落ちていく。彼女達は戦闘をこなしながら進んでいるのに、私達はついて行くだけで息を切らしているのだ。
しかも、周囲に気を配っていなかった。普段ならありえない行為だ。そんなにもいっぱいいっぱいになっていたなんて……
こんな事では部下にも、リンゼ隊長にも顔向けできない。ここは敵陣のど真ん中、あまり時間をかけていると包囲されてしまう。そんな焦りもあったかも……気を引き締めなきゃ!
「あと、敵に囲まれつつあるってのも、違うね。もう囲まれてるよ?」
「はっ!?」「なっ!?」
思わず声が出る。それはリンゼ隊長も同じだったようだ。
「もう囲われた?な、何を悠長にしているんだ!?急いで突破しなければ!」
流石のリンゼ隊長も焦って話す。全滅も有り得る状況だ。焦って当然だ。
「ん?そちらがいいのなら行きますよ?」
「すまん、リリーナ。リンゼ、今止まってるのは君達の為だ」
アランさんが困ったように言う。
「リンゼ師団長、まだプライドが残っているようですね。現実を理解しなさい。あなたがついでくると言ったのです。少佐とは言え、今はリリーが指揮官ですよ」
クレアさんの口調こそ丁寧であるが、そこには確かに圧があった。レッド部隊のクレアと言えば、有名だ。レッド部隊自体が有名なのもあるが、家柄も関係なく叩き上げの実力で結果を残したクレアさんは私達、女性兵士で憧れない人はいない。
アルステリア軍でもトップクラスの彼女はリンゼ隊長の憧れの人でもある。そんな彼女に窘めなれリンゼ隊長は何も言えない。
私は知っている。リンゼ隊長と共に訓練していたんだ。毎日頑張っている。確かに彼等に比べればリンゼ隊長だって息切れはもうない。
おそらく足を引っ張っているのは私とローズ。すみません隊長。
「すみません……」
リンゼ隊長も少し冷静になる。
「あぁ、言葉が足りなかったわね。以前あなたは私が目標だと言っていたわね?」
「は、はい。覚えて……」
5年前、クレアさんが行方不明になる前の会話だ。クレアさんと会っていることを覚えておられるようだ。
「その私がリリーに従っているのよ?あなたはまだリリーを知った気になっているだけ。大丈夫、間違いなく、あなたは優秀よ。
……ただ、あの子が異常なだけ。気するだけ無駄よ」
クレアさんが励まし?をしてくれたと思ったら、ドンッ!背後が爆発する。
「クレアさんそれ褒めてるんですよね?っと、流石にそろそろ動きたいんですが、いいですかね?敵が集まって来ました」
当の本人は何処吹く風……、というより必要な対処をしてくれているのだろう。その眼帯の下の目はどこまで見えているのだろうか?手榴弾をまた私達奥へ投げて、反対に進み出す。わざわざ無理言って着いてきたんだ。学ばなければ。隊長にも彼女達にも悪い。しっかりと一挙手一投足確認しなければ。
先程の休憩からどれくらいたっただろう。
はぁはぁ、さっきまでよりもペースが早い。前を行くローズは既に辛そうだ。だがここは敵陣のど真ん中、撃って、走って、止まって、撃って、また走って、また止まって、撃つ。
絶え間なく戦闘を続けている特務機関に、私達第4師団の3人はついて行くだけ。囲われて不利なのは私達8人なのだ思っていた。包囲しているはずのルンドバード軍が混乱している。
「リリー、後続も第4層まで進軍した!」
現在中央の全体指揮を担当しているフリードさんから連絡が入る。もう私達が何日も突破出来なかったところまで進んでいる。それもこれも敵陣地で、今、目の前で暴れている彼女が理由だ。
包囲されているのは私達だけじゃない。ルンドバード軍から見たら、最前線はアルステリア軍後続の特務機関&第4師団と戦闘しつつ、背後に私達いて挟まれている。
走り続けて分かった。リリーナさんはその敵の最前線の背後を襲撃しては、離脱。再びノード側の包囲網を崩して、また味方の前進を補助する。
本当にこの部隊だけで戦局を動かしていた。
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………分かっても、んなことできるかっ!!
塹壕はルンドバード軍はノードの街内側から第1層、2層、アルステリア軍は外から第1層、2層と呼んでいます。5年前までノードの街は塹壕がなかったのでこのようになっている。
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