93.特例
side:ローズ
え?
無職??
「私、卒業してないし。まだ正式に軍に入ってないんだよね……」
「あっ……」
そうか、時系列的にそうじゃないか。リリーナさんがあまりにも普通にフリードさん達に接しているからか、失念していた。彼女は数日前まで行方不明だったんだ。
「そうなんです。そこで私から提案があります!」
いつの間にか、参謀本部スティーブン・ウルフ准将がこちらを向き、全員の注目も集める形でリリーナさんの方にくる。
「このリリーナ・ランドルフを連名で特務機関へ推薦したいと考えています」
「……長官の計画か?」
「ふははッ」
何が起こっているんだろう?私にはとにかく凄いことが起きようとしていることしか分からない。
「今朝、皇帝陛下より新たな制度が施行されました。簡単に言うと異なる部署における准将階級以上、3名の推薦がある場合に限り、兵役不問で特務機関への入隊を認める。というものです。
ここにいるトニー師団長、リンゼ師団長、そして私、参謀本部の推薦により、リリーナ・ランドルフが特務機関へ入隊すれば制度上の問題は全て解決です」
特務機関はどんなに短くても、最低2年は通常のアルステリア軍への従軍が必要になる。そこで評価するのだから当たり前ではあるのだが……
だけど、慣例的に話題の兵士でも早くて3年が多い。実際、シアちゃんとか、話題になるほどの兵士でも3年間の従軍経験後に特務機関に入っている。
「イレギュラーを認めるための新制度か。皇帝陛下も踏み切ったことをしたように思えるが条件は厳しいものだ。後にも先にも出てこないだろう。俺も推薦するのを織り込み済みの様で気になるが、見てしまったものは認めざるを得まい」
「ですね。ふふっ、一般人が複数部署から推薦を受けるなど有り得ないでしょう」
堅物と言われるトニー師団長も同意の意思を示す。リンゼ隊長も呆れたように笑っている。
「リリーは特別だからな」
フリードさんは当たり前のように頷いていた。あっという間に特例で特務機関への入隊が確定した。
「え!?私、無職じゃなくなる??やったぜ。就活しなきゃいけないと思ったよ」
当の本人はこの凄さをいまいち分かってないんじゃないだろうか?
「じゃあ、書類関係はこの後やるとして、明日の話をしましょう」
「そうだな。依然、この戦況は厳しいものだ」
「はい、いくつか参謀本部としても策を練ってきたのですが、状況が変わりました。私としてはこちらの作戦を主軸に現状に合わせてアレンジしたいと考えています。
まず………………………」
作戦会議は1時間程で終わる。その後、の書類も既に作戦されていて、すぐに終わった。明日からリリーナさんは正式に、特務機関所属の兵士となる。階級は少佐。特務機関における最下級からスタートとなるのだ。それでも一気に大尉である私の上である。如何に特別なことかが分かる。
夜食の時間、交流のためと私とマリア副隊長、リンゼ隊長で特務機関のテントへと訪れる。私達は血だらけの服を着替えて来たので多分最後だろう。
未だ最前線であるここに豪勢な料理などない。しかし、皇帝陛下からの物資には食料も含まれている。戦地にしては豪勢にお肉を挟んだパンとスープが振る舞われている。そんな紙袋を片手に開けた天幕は特務機関の指揮官用のテントだ。
「すみません。遅くなりました」
リンゼ隊長を先頭に入っていくと、何やらリリーナさん達が集まっている。リリーナさん、アッシュ君、シアちゃんとロブ君にイーノス君が並んでいる。みんなノーステリア軍学校のメンバーだ。
「ん、ローズ!こっちこっち!」
リリーナさんが私を呼んでくれる。私は隊長達を見る。今夜は懇親目的なら反対はされないはずだ。
「ローズ、リリーナ・ランドルフと沢山話しておけ。今後、損はないだろう」
「はい」
マリアさんから小声で受けた指示は単純だが、その意味は大きい。これから確実に頭角を現す存在になる。
リリーナさんの右隣に座ったアッシュ君の隣が空いており、そこに誘導される。ちなみにリリーナさんの左隣はシアちゃんである。
「ローズ、空けといたよ!」
リリーナさんがサムズアップしてくるが、同年代で集まりたかったってことだろうか?正直、このテントはこの同年代メンバーの他に、フリードさん、クレアさん、シンディさん、スティーブンさん、トニーさんだ。みんな階級が高くて私には荷が重い。正直、こっちのテーブルの方が助かるので素直に座る。
「ありがとうございます」
「いいってことよ!」
特務機関入りが決まったからから、リリーナさんはテンションが高い。
「ほらほら、ローズも食べて、美味いよ!」
リリーナさんは既に3分の1ほどしか残っていないパンを頬張りながら、そう話す。
「リリちゃん、はしたないよぉ」
「ははッ、やっぱリリーナは変わってないね」
賑やかだ。ウエストテリアの同級生達にも久しぶりに会いたくなる。
「お、美味し!」
ここでは缶詰の保存の効くパンなども食べたが、それは少しモホっとしていて、水分を持っていかれる。でもこれはちゃんと街で買ったような柔らかいパンだ。少し塩味の濃い肉とシャキシャキのレタス。それらがマスタードと共に挟まれていた。
「でしょぉー!」
「俺、おかわり貰ってくる!」
「あ!私の分も!!」
「私のも!」
ロブ君がおかわりを取りに行く。リリーナさんはまだ食べ終えてないけど頼んでいた。シアちゃんももう食べ終えて追加している。
「流石、皇帝陛下分かってるわー。やっぱり食事って大事だよね」
「リリちゃんは料理にもこだわるからね」
「リリーナさんはずっとノウレアに孤立していたんですよね?食料も大変でした?」
「あ!!それ!!敬語なしって言ったじゃーん」
「そうは言っても、階級は上ですし……」
「……今は食事中だから、OKってことで!ね!食料でいえば、牛乳がなくてね……
おかげでおっきくなれなかったよ……」
そう言って悲しそうに自身の胸をみる。
「ふッ…」
「あー!!イーノス笑ったな!?」
「そ、そ、そんなことないよッ!?」
「シアに比べればないだけで、私だってあるんだからな!見るかぁ?ゴラァ!?可愛いって、なれゴラァあ!!」
「ちょっ!リリちゃん、ダメだから!!」
……あの怖かった隻眼の死神はどこへやら、リリーナはちょっと雑で、でも優しくて、ちょっぴり男の子っぽい性格で、仲良くなれた気がした。
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