88.北の戦場
北の戦場、リリーナとアランが南へ向かった後である。
「本気なの!?」
クレアが驚く。リリーナの作戦がフリードから特務機関へ伝えられたのだ。クレアだけでなく、参戦している特務機関兵全員が思った事だった。
「リリーの発案だ」
フリードが追加で情報を発する。
「リリー?」
「あぁ、リリーナって、ノウレアのリーダーだったって話の…」
「本気か?」
リリーナを知らない者たちは、理解出来ない。もしくは内心嘲笑するものまでいた。しかし、リリーナを知るもの達は違った。
「納得。フリードらしくないなと思った」
クレアが頷き、
「リリちゃんなら自分で突っ込むんだろうねー」
シアが予想する。
「ん?じゃあ、突っ込むの私か!?」
シンディは自分の役割に気付き、
「多分、リリーナは自分か先生を想定して言ってますね。他の人じゃ無理です」
「ここにカンナが入ればカンナだったかも知れませんが、今は先生ですね」
ロブとイーノスが肯定する。普通なら無理だと思われるような作戦内容だが彼女たちはすんなり受け入れた。
ナンシーが到着し、結局、シア達の予想通りの配置である。1つあるとすれば、もう1人、土魔術師のイアンも担当となった部分だ。
「作戦開始!!」
フリードによりメンバーに更に詳細な説明がなされ、ガーディアン撃破作戦開始の合図が出される。その他の特務機関兵はガーディアン以外の足止めとなっている。
ガーディアンは変わらず北門正面付近に陣取り手当り次第に乱射している。南の戦線にギャップがいるため、北は防衛に徹する作戦であった。ガーディアンまで約50mの位置の塹壕にシア達はいた。
まず土魔術師で塹壕を敵陣へ広げる。イアンは25歳、シアよりも1年早く特務機関へ入隊した先輩となる。
「じゃ、じゃじゃあ、行きます……」
自分以外が女性陣ばかりのため、いささか緊張しているイアンは、甘噛みしながらも手を壁面に当てる。それでもカッコイイ所を見せようと、全力で新たな塹壕を創り出す。イアンの先に新たに10mほど塹壕が出来上がる。これは土魔術師としては平均的な実力であった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「良くやった、次は私だね」
クレアが交代で先頭にでて魔力を練り上げる。練り上げた魔力がネックレスにぶら下がるランク4の透き通った青色のミスリルへと送られ、その色を琥珀色に変え輝いた。クレアが壁に手をついた瞬間、魔法となってこの世界に干渉する。土が左右に割れ、壁は圧縮されて崩壊しないように強化される。バレにくいように先程よりも深さもあった。その距離20m。完成度も距離もイアンと比べるのは可哀想な結果だ。しかし、これは致し方ない結果でもある。
クレアはアルステリア軍の中でも1、2を争う土魔術師なのだ。
イアンは平静を装っているが、ショックを受けていた。リリーナがいればイアンの機微に気付いていただろうが、残念ながらここにいる彼女達はイアンが張り切っていた事など気付いてもいない。
頑張れ、イアン……
ともかく、これでガーディアンまでは残り20m程の距離となった。次はシアとナンシーの番である。2人もその胸元に下がるミスリルへと魔力を送る。今度は透き通った青いミスリルが、白っぽく変化していき、真珠のように変わる。
「「せーのっ!」」
2人はタイミングを合わせ、氷の柱を創りだす。シンディが隠れられるように50cm四方の高さ180cm、そんな柱が50本、ガーディアンの所まで不規則に出現する。2人の額には汗が滲み、これが簡単なことでは無いことががわかる。それもそのはずである、一般的な氷魔術師が1人で一度に作成する氷の柱でいえば、10本くらいが限界である。
シア30本、ナンシーが20本創り出しているのだ。リリーナはゲームを超えたと喜ぶ所であるが、現実となったこの世界は当然ながら個人差がある。それがリリーナの影響を受け、異常値が出始めていた。
大量の柱が出来たことで、突貫するシンディが塹壕から駆け出した。残り20mと言ってもミニガン相手に真正面から突っ込むだけじゃ蜂の巣になって終わりである。
「なんだか知らねぇが、全部壊すだけだァ!」
ガーディアンは反射的にその柱に乱射する。ガーディアンの性格を簡単に言えば……馬鹿である。だがしかし、こと戦闘に関しては非凡なる才能の持ち主である。その目は凄い勢いで氷の柱を障害物として近付く者を確認していた。
「なんだてめえ!!」
もちろん、ガーディアンに近い柱程、先に破壊されている。近付くとガーディアンにはっきりと認識される。シンディからガーディアンまで残り5mであった。
〈【イベロスピナ】だと5m以下だと2発、3m以下で1発でガーディアンのシールドは割れます。敵に撃ち込む分でもうプラス1発必要ですが……〉
フリード経由で聞いた、リリーナの指示である。ネームドキャラのデータをリリーナが知らない訳がないのだ。
今回シンディの持つショットガン【イベロスピナ】はポンプアクション方式だ。1発撃つ毎に、スライドを前後させる必要がある。威力、射程距離、連射速度とバランスの取れた性能をしている。
(残り2m……)既に氷柱の補助はなく、自力で掻い潜らなければならない。
「ぉらあ!!」
ガーディアンの狙いが、完全にシンディに向いたその瞬間だった。シンディからポロリと落ちる空き缶サイズの物体。ガーディアンは持ち前の動体視力でそれを認識する。
パンッ!
途端に閃光が広がり、ガーディアンの目を潰す。弾けたのはフラッシュバン。氷柱地帯から飛び出した者を確認しようとする心理を利用した、この上ないタイミングであった。
それでもガーディアンは引き金を離さない。勘で撃ち込むし、自身のシールドにも自信がある。破られたことなどないのだから……
だが、シンディはもう、ガーディアンを飛び越えて背後に回っていた。天才と呼ばれた身体能力はその一瞬で、安全圏に移動していた。
ガーディアンとの距離は……もうない。
シールドに押し付けられた【イベロスピナ】の銃口が火を噴く。文字通りゼロ距離から撃たれたショットガンにより、シールドが砕け、この段階でもうガーディアンの肉体にも弾丸が届いた。
「ンがッ!?」
もはやガーディアンに余裕はなく、味方諸共背後にまでミニガンを振り回す。
だが、シンディを近付けた時点でガーディアンには勝ち目がなかった。ガーディアンの振り向きに合わせ背後をピッタリと追っており、ガーディアンが撃った場所には味方しかいない。
……シンディは忠実である。
素早くポンプアクションを行い、今度はガーディアンの肉体に銃口を付ける。……近ければ威力が増す。
次の瞬間にはガーディアンの胸部に風穴が開いたのだった。
【イベロスピナ】≒レミントンM870
見た目などはこちらのイメージで。但し、あくまでも性能はゲーム〖Hero of War 虹色の戦争〗を元となっており、実銃とは必ずしも同じではありません。
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