85.功績
足元から吸い込まれたリンゼ達第1分隊の5人は、浮遊感の後気付けば先程より少し後方の上空であった。
「クソッ!!」
「ッ!!!」
「きゃーー!!」「「ッうん」」
パラシュートなどあるはずもなく、何者も重力に抗うことは出来ない。5人は50m程の高さから否応なく落下する。5人は密集陣形だったため、お互いが手の届く範囲にいた。フラメンとカルメンは空中の一瞬で決断する。
言葉にしなくても双子である彼女達は同じ思考へと至った。
自分達を犠牲に少しでも勝率の高いリンゼとマリアだけでも助かるように、それぞれ彼女達の足を抱き抱えるように掴む。そして、まだ若いローズにも死んで欲しくない。そんな一心で足を掴み、2人はみんなの下側になる。
フラメンもカルメンも水属性魔術師である。全力で下方に水を生成、土を泥に、水をクッションにする。
……ほんの3秒程の出来事である。
不意をつかれた彼女達にはあまりにも少ない時間、出せた水も彼女達の本来が出せる限界量に遠く及ばない。それでは完全に勢いを殺すことは叶わず、その落下エネルギーは容赦なく彼女達を叩き付ける。
ボキッ、ぐちゃ……
「ぁああ゛あ゛!」
「ヴヴぅ……」
「「「……」」」
だが……だがしかし……
リンゼとマリアは足があらぬ方向に向いているが、命は取り留めていた。フラメンとカルメンの咄嗟の判断がなければ死んでいただろう。
「ッフラメン!カルメンッ!! 」
「ッ……」
「ローズ!無事か!?」
「……」
ローズも足がいかれていた。上半身は無事に見えるが目を覚まさない。
だが、残るフラメンとカルメンは……彼女達は3人を庇い、潰れ……見ただけで生存は絶望的であった。長く一緒に戦ってきた仲間が殺され、気持ちが昂る。どうしようもない、痛みは心にも突き刺さった。
心が怒りで足のことなど忘れるほどに。
「ギャップヴううー!!!」
叫ぶリンゼは立ち上がることが出来ない。そこに窓を開けてカーラが飛んできた。
「アハハハハッ!!凄いじゃん生きてるんだ!?その潰しちゃった子のお掛け?でもでも、そんな虫の息で生きてて何が出来るっていうのぉ??」
「殺すッ!!」
「アハハッ!こわーい、めっちゃ怒ってるー!」
バンッ!
その時、第2分隊長が背を向けているカーラへ1発、発砲する。また能力を使われる事を警戒しての、頭へ1発のみの射撃……
だがそれはカーラのシールドに弾かれてしまった。
「あん?人がせっかく楽しくお喋りしてたのに、邪魔してんじゃねぇーぞ。ザコが!!」
カーラは銃を第2分隊へ向ける。咄嗟にシールドを張った第2分隊だったが、カーラの発砲した弾はシールドの内部へと窓を通じて貫通、分隊長の頭を撃ち抜く。どサリと倒れ、動かない。
「さぁて、次は誰にしようかな!?死にたい人から殺してあげるよ?」
ニヤリと笑うカーラはとても楽しそうで、妖艶で、邪悪だった。
「はぁはぁ、ァアー!!!」
第2、第3分隊は堰を切ったようにカーラへ銃を撃つ。隊長のリンゼ達が為す術なくやられ、緊張感が限界を迎えていたのだ。分隊長の死による恐怖で自制心が崩壊したのだ。
「やめろォォオ!!!」
「アッハッハッハッハッハ!!」
リンゼが絶叫し、カーラが笑う。マリアとローズはあまりの光景に言葉を発することも出来なかった。
気付けば第2分隊も、第3分隊も、カーラに一方的に殺されていた。撃つ弾は全て自分達に返ってくる、敵は目の前にいるのに。手榴弾もフラッシュバンも飛ばされるか、返される。運良く窓を躱せた弾丸もシールドに阻まれ、改めて殺された。
「んー、やっぱりザコだったねぇ。ねぇ、あんたが隊長なんでしょ?どう?どうなの?自分の無能で部下がいっぱい死んだよ?」
「貴様ッ!んぐっ…」
リンゼが動こうとするが、怒りで忘れていたその折れた両足は簡単な状態ではない。どちらの足も肉は裂け、骨が砕け、飛び出している。とても立ち上がることなど出来る状態ではなかった。
「あー、あー、無理でしょ!?痛くて動けないでしょ!?やっぱり、無駄死にだったねぇー」
カーラはリンゼに近付いて、楽しそうに煽ってくる。
ダンダン!!
マリアがハンドガンを撃つ、だがその弾丸は返されてリンゼの足に当たる。
「がァ!?」「リンゼ隊長ッ!?」
「くくくッ、どこに撃ってるのぉー?君の大切な隊長が苦しんでるよぉ?」
「……ぐぅ、…………貴様、能力の発動に手を弾く必要ないな」
「それに一度に出した数は3セットまで、出せてももう1セット出せるかどうか。また、人間1人分以上の大きさを出すには、その数を減らさなければならない」
リンゼとマリアは痛みに苦しみながらも、怒りが真っ白になる所を噛み殺し、仲間が殺られる間も分析を続けていたのだ。
終始ニヤニヤしていた、カーラはスンと真顔になる。しかし、すぐに先程と同じように話し出した。
「あちゃー、何度か抜かしたの気付いちゃった?凄いじゃん!褒めてあげる。でもだから何?あんた達その状態で勝てるの?」
「……先程までも余裕の表情が崩れたんじゃないか?まぁ、確かに私達は無理かもな。でもこの会話は本部に流れている」
「はぁ!?通信機なんていじって」
その時、野太い声が聞こえる。
〈リンゼ師団長、副官マリア……そして、ローズ隊員。良くやった!〉
「ッ!?てめぇ!!」
血の海となっている2人と共に倒れていたローズが目を覚ましていたのだ。ローズが握りしめている通信機からスピーカーとしてトニー師団長の声が聞こえたのだった
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