84.ギャップ
アルステリア軍奪還作戦本部では前線が次々に突破され、攻守が逆転していた。そればかりか徐々に攻め込まれている。
【ギャップ】のいるであろう所に集中して戦力を回しても、包囲しきれない。ギャップの機動力に戦略が追いつかず、個の力…分隊の1つや2つではこちらが壊滅してしまう状況であった。
一気にやられている訳じゃない。ゆっくりだが確実に味方がやられていく。侵攻が遅いのはギャップの趣味によるものだが、そのお陰で何とか戦線を維持できていた。
「まずい……トニー師団長、私も出てきます」
第4師団長リンゼが、今回の総指揮感であるトニーに断りを入れる。
「分かった。ギャップ相手に無闇な発砲はするなよ。平静を保て!」
「はいッ!第1分隊、ついてこい!」
「「はッ」」
リンゼの周囲にいた第4師団第1分隊の4名が返事をする。副官のマリア、双子兵士のフラメンとカルメン、若手のローズである。
第4師団長のリンゼは雷魔法の適正を持つ。フリードと比べるとその力は劣る。しかし、それは決してリンゼが弱いのではなく、アルステリア軍最強の雷魔術師がフリードであるためだ。
リンゼとて師団長となるほどの実力者であり、多数の兵士の中でも上澄みの人間だ。その補佐として動く第1分隊の隊員達もスキルホルダーである。戦闘能力が重視される軍は、自ずとそうなりやすかった。
そんな第4師団の精鋭である彼女たちが前線へ到着する。
「1人に相手にこんなにも押し込まれるか」
本部でモニター確認しているよりも、実際の光景は過酷だ。既に当初の拮抗していた塹壕は遠く離れ、アルステリア軍の塹壕は1層分しか残されていない。第3師団長トニーの的確な指示のお掛けで未だ戦線を維持できているだけに過ぎなかった。しかし、それももう退路が残されておらず、この塹壕を取られた場合、戦線を維持できず大きく後退する。
最悪、再びウエストテリアまで押し込まれる可能性すらある。
「あそこだな。第2、3分隊は我々に合流、奴をやるぞ!周囲の部隊は無闇に撃つな!!密集陣形をしき、死角を無くせ!」
「「「はッ」」」
リンゼの分隊は同じ第4師団の第2、第3分隊と合流しギャップのいるところへと進む。時折聞こえる笑い声、そして悲鳴……それらがギャップが近いことを告げていた。
「ッ!?」
先頭を進む、リンゼ分隊の副官、マリアが何かに気付き、バッっとハンドサインで停止を合図、すかさず止まる。
その直後である。塹壕の端、そこから先は木々が生い茂っている境目、大きな岩なども多く、奇襲を警戒する部隊がいたはずの場所である。
そこに何かが形容し難い音を鳴らして落下した。
「……」
「…そんな……」
それは裸にされた人であった。おそらく、アルステリア軍人だが、顔から落ちているため誰かは分からない。人それぞれ反応は違う。しかし、嫌悪感だけは共通していた。
「……報告にあった落下死体。ギャップか」
「あはは!!ちょうどいいとこに落ちたねぇー」
「総員警戒!」
急に響いた笑い声に、リンゼは素早く指示を出す。姿は確認出来ない。
(やはり森の中にいるのか?)
「ぐぁっ!!」
銃声と共にリンゼの後ろから味方の声が聞こえる。
「クソッ!密集陣形!!」
リンゼ達アルステリア軍はギャップの能力を正確には把握出来ていない。何せ遭遇者の死亡率が高く、情報が少ないのだ。
何か空間が歪み気付いたらやられていた……等の証言。
その程度である。しかし、味方の被害地点から参謀本部はギャップの能力を空間に干渉する能力と仮定。遭遇時の対処法案を計画していた。
その1つが密集陣形である。分隊事に……今回は3分隊3箇所で各隊員が背中合わせに全方位警戒する。背後を取られないようにする為に有効な手段だった。
しかし、それを嘲笑うかのように、カーラは堂々と正面から姿を現した。
「ふーん、あんた達はちょっと違うってわけね」
「貴様!?ギャップだな!!」
「ごめいさ〜つ!!私が最強美女、ギャップちゃんだよ!良く知ってまし」
パチンッ!ダダダッ!!
リンゼが引き金を引くよりも一瞬早く、カーラが能力を発動させた。
「危ない危ない。まだ話してる途中なのに撃っちゃうの早いよぉ」
「ぐはっ……」
第3分隊の1人が倒れる。カーラによって窓が第3分隊に開いていたのだ。
「チッ、全員警戒、密集陣形は維持!!」
(あの窓、多分空間通しを繋げている。だから、こっちが撃った弾が、向こうに出てくる。そして自身も自在に移動出来るはず、背後への警戒も必要だ。
……通信兵を真っ先に潰した。想像以上に場馴れしている)
「アハハッ、なになに、どうしよう?って?消極的だねぇ!」バンッバンッ!
カーラ自身のハンドガン【ヴェロキー】を発砲する。
「おぉ!?やっぱり精鋭さんかな!?」
リンゼ達はシールドを張りその弾丸を弾いていた。しかし、ガードされたにも関わらず、カーラは余裕の表情である。
「……」
リンゼ達の表情は硬い。
(撃つ時は消した?消えたのか?同時使用は何個まで出せる?
くそ面倒な…無闇な発砲は出来ない……参謀本部の案を試してみるしかないか)
リンゼは無線機を2回トントンっと触る。それを合図にマリアがフラッシュバンをカーラへ投げつける。フラッシュバンはカーラの手間で爆ぜる。それに合わせてリンゼが無線機へつぶやいた。
「シールド」
ダダダッ!!
再び発砲音が響く。発砲したのは再びリンゼ、その他のもの達は今の一瞬の動きに合わせてシールドを張っていた。
「眩しいじゃんかー」
だが、それでもカーラには届かない。彼女の前には再び窓が出現していた。
「第2分隊フレッドのシールドが破損しました」
無線に報告が入る。今度はシールドがあるため、何とか被害は出なかったようだ。
(あいつ窓の出現までが早い。フラッシュバンの効果はいまいちか?
コイツが舐めている間に何とか情報を引き出したいが……)
「くふふッ、怖いの?足が後退してるよ?」
「ッ!?」
リンゼ達は銃を自由に撃つことも出来ず、効果的な手段も見つからない状態に置かれていた事で、知らず知らず、後ずさっていた。リンゼ自身も言われて気付くほどの無意識化、カーラの異様な雰囲気に飲まれていたのだ。
「じゃ、今度は私の番ね。じゃ、やっぱりまずはあんた達にしようか」
ヴェロキーの銃口で指さされたのはリンゼ達第1分隊である。パチンッと聞こえた時にはリンゼ達の足元に窓が出現、カーラの動きに警戒していたリンゼ達は自身の足元への反応が遅れ、足から地面に吸い込まれていった。
ハンドガン【ヴェロキー】≒M1911ガバメント
見た目などはこちらのイメージで。但し、あくまでも性能はゲーム〖Hero of War 虹色の戦争〗を元となっており、実銃とは必ずしも同じではありません。
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