82.ノード奪還作戦
ノードより少し離れた位置にアルステリア軍ノード奪還作戦本部が設置されていた。そこには複数のモニターや大きなホワイトボードがあり、ノード周辺の地図が掲げられている。
「全軍!特務機関が北から攻める!昨日までよりも手薄になるはずだ!今日が攻めどきだぞ!」
第3師団の師団長トニー・ミラーが無線機で気合いを入れている。身長は平均程度である。しかし、鍛え上げられた筋肉によるガタイの良さと額の傷が近寄り難いオーラを放っている。歳は50代後半にも関わらず、未だにその眼光は衰えていない。
隣にいる女性は第4師団長のリンゼ・スピード。髪は短く刈り上げられており、こちらも鍛え上げられた筋肉を身にまとっている。一介の男性隊員ではパワー負けしてしまうほどであるが、顔が整っているため兵士達に密かに人気がある。
そんな彼女は複数あるモニターの内、1つを見つめていた。
「増援は50名と聞いて落胆しましたが、流石は特務機関。1人1人の練度が違いますね」
リンゼが見るモニターには通信を繋げた特務機関の車両から送られている。そこには車両から撮られたものと、ヘルメットカメラであろう映像が流れている。土魔術により、塹壕が新たに開拓されていたり、氷の分厚い壁を作って進路を確保したり。爆発したりとやりたい放題していた。
「奴らは能力者ばかりだからな。精鋭部隊なら、このくらいやって貰わなければ困る。昔は本当に少数精鋭だったのだが、一時期、質が落ちていたからな」
通常部隊の特務機関に対する評価は大きく分けて2つ、憧憬を抱く者と敵視する者だ。第3師団長トニーはどちらかと言えば後者にあたり、その見る目は厳しい。
細かく言えば、トニーは敵視と言うよりは、自分も負けてなるものかと奮い立った人間だ。ただの妬み嫉みだけの人間が師団長になれるほどアルステリア軍は甘くはない。トニーのような兵士を分ければ3通りになるかもしれない。
「見るからに若い兵士も何人か。あの特徴…あの子達が狂気の世代ですね」
リンゼは憧れを抱いている者だ。
「噂になっていたな。軍学校の歴史を何個も塗り替え、どいつもこいつも魔力量が馬鹿みたいに多く、異様に強いもの達が揃っているとかゆう奴か?」
「そういえばローズ!お前は狂気の世代と同じじゃないか?軍校戦で知ってるだろう?どうだった!?」
軍校戦、正式名称は軍学校対抗戦。それはノーステリア軍学校とウエストテリア軍学校、首都アルステリアにあるセントラル軍学校、アルステリアにある軍学校3校で競い合う対抗戦である。軍学校対抗戦には学校を代表して8年生と9年生が出場することになる。
名前を呼ばれたのは近くの席にいた赤毛の女性兵士である。最近、第4師団長直属の分隊、第4師団第1分隊となった兵士だ。
「はッ!師団長の仰る通りです。軍校戦で戦いましたが……我々は圧倒的な差で負けました」
「このモニターに映っている者達か?」
ローズは失礼しますとモニターを確認する。モニターには氷壁で射線を遮り、敵塹壕に突っ込む部隊が映っている。敵の塹壕へ手榴弾を投げ込み、爆発した場所へなだれ込んだ。刀とハンドガンを持った女性兵士が切り込みながら敵を倒すと、反対側では先程の若い女兵士が氷の壁でしっかりと射線を切っていた。モニターに映るヘルメットカメラの付いた人物が銃に魔力を込めると、氷壁の隙間から発砲する。着弾点が爆発し通路の敵兵を倒していた。
「間違いありません!氷魔法を使用しているのはシア・フォーデン、爆発弾はロブ・フリップ、狂気の世代です!」
「刀を使っているのはシンディ・レインか!?生きていたか!?
ん?フォーデンと言ったか!?ザック・フォーデンの娘か。なるほどな。奴の娘ならば強くても納得がいく…」
「ザック少将…唯一の無能力特務機関兵ですね。私は戦場で見た事はないですが、お噂は聞き及んでおります。もう一人はフリップ、爆破系統の家系ですね。銃弾に込めるのは初めて見ましたが……」
ローズが肯定したが、師団長2人はモニターを食い入るように戦闘を見ていた。
「能力の使い方が上手い、しっかり力を使いこなしている。この若さでこれは確かに強いな」
「ローズは彼女たちのこと、どこまで知ってる?」
「はッ!軍校戦後の交流会で話したので、少しは分かるかと。彼女たちは魔力量を増やすために気絶寸前まで魔力を使っているそうです」
「は?奴ら知らんのか?死ぬぞ!?」
「私も全く同じことを思いました。しかし、彼女たちは目標とする人物がいるらしく、こうでもしないと置いていかれると言っていました」
「ふむ、あの魔力量は文字通死と隣り合わせの訓練成果か。だから狂気の世代ということか……」
「目標はザック少将?」
「いえ、シア・フォーデン曰く、行方不明の同級生が3名いるとか。その行方不明の同級生の1人、リリちゃん?とか言う人物らしいです!
軍校戦時、彼女たちは行方不明の3名を欠く9名でした。我々は12名で戦い……その圧倒的戦力に蹂躙されしました」
「確かにあのレベルであれば学生では太刀打ち出来んな」
「そうですね。基本がしっかりしてる上に、能力の発動も早く、規模も大きい。師団内にいたら間違いなく精鋭です」
「そのー……そうなのですが、彼女たちが口を揃えて言うんです。その行方不明の子はもっと強いと」
「こいつらが??」「!?」
2人ともモニターを見ながら、疑問符を浮かべながらモニターを確認する。モニターには今も敵を掃討する彼女たちが見える。これだけ動けているのだ。強いと言っても大差はないだろうと結論付ける。
「はい。その子1人に勝てないとか「むっ!?アイツは守護神!」
ローズが言い終わる前にモニターには大柄な男が現れる。トニーはそいつを知っていた。何度も辛酸を舐めされられた、ルンドバード軍のネームドである。ガーディアンは特務機関の相手をするために出てきたのだ。
「伝令!!こちらの正面に新手!!」
通信兵が慌てた様子で報告する。
「っ!?特徴は?何者か分かるか?」
「ネームド【ギャップ】と思われます!!」
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