79.問題
「なんで知ってるんです?」
モニターに映るリリーナがポカンとしている。
……そういえば初対面であった。幼少の頃からシルヴァンの娘として期待しており、その期待を斜め上方向に壊しながら進むリリーナの報告を聞くのが楽しみの1つだった。
そんなことをしていたために、本人とは初対面だと言うことを忘れていた。
「ゴホン……私は特務機関の長官の他にも軍学校の統括でもある。君がクウィントンで遅延戦闘に参加した経緯は把握しているんだ。よく頑張ってくれたな」
「そ、それで!ありがとうございます!」
何とか誤魔化せたようだ。リリーナは直接話すと少し緊張したようにキビキビと対応している。
「それだけじゃなく、特務機関シルヴァン、ザックの娘だと言う事も把握しているよ。話すのは始めてだが、緊張する必要はない。悪いようにはしないさ」
ここまで言うと、リリーナは少し安心したような、表情は柔らかくなった。何かされると思ったのだろうか?
「クレアも無事で良かった」
「全然触れてくれないから忘れらたのかと思いましたよ」
クレアは意地悪っぽく言う。私にこんな気さくな感じで言える者はそう多くない。クレアはその数少ない中の1人だ。
「クックックッ、すまんすまん。クレアはフリードからほぼ生存連絡きていたからな」
「え?」
「土壁の特徴だけで把握していたぞ?」
「そ、そうなんだ。ふーん」
クレアは気付いてもらえて満更でも無さそうだ。仲良さそうで何よりだ。
「夫婦漫才はさておき。状況を整理したい。アランから報告を!」
「はい、我々は第3、第4師団によるノード奪還作戦に乗じて、敵包囲網を突破し、今朝方ノウレアへ到着。ノードへの増援と思われるルンドバード軍と遭遇したため、即時交戦。ノウレアからの援護の元、白亜三式を使用し、これを撃退しています。ルンドバード軍はクウィントン方面へ撤退しました」
「ノードへの増援...か。今、ノードは拮抗状態だ、大事な勝利だったな。白亜三式はどうだった?」
「凄まじいです。着弾後の光景だけでも敵の士気をへし折る程でしょう。必要以上に爆発範囲が拡がらないのも使い易いかと。データは後ほどお送りします。
強いてデメリットをあげるとすれば、あまり移動には向いていないかと。移動中の遭遇だったため、第1射の準備に時間が掛かりましたね」
「概ね予想通りだが、実践データは貴重だからな。さて、それじゃフリードから報告してもらおうか?」
「はい。最後の通信からイエロー部隊は………」
フリードはリリーナと合流した経緯と昨日、今日の戦闘を説明する。途中、いくつか質問するがただの事実確認だ。ちょっと、聞き返さなきゃいけない項目が多い。
100人にも満たない人数で3000人を相手して何故勝てる?フリードやショーンは強い。ネームドじゃなければ相手にならないのは分かる。だがそれは個人の話しだ。その戦力差は個人でどうこうなるレベルじゃないだろ!?実力の把握は特務機関として大事な要素のため長官の私は全員把握している。彼等ならば尚更。
つまり、イレギュラーはそこのちっこい死神と言うことだ。
今は私は関係ないみたいなリラックスした顔でコーヒーを飲んでいるが、この場でリラックスしているのはお前だけだぞ。ん?お前もか、クレア!?
アランも私もフリードの報告を理解するのに手間取っているのに……
「なるほど。言いたいことはあるが、理解はした。じゃあ、まずは聞こうか。クレア、リリーナ。ノウレアの説明を頼めるか?」
2人は顔を見合わせ、リリーナがクレアにジェスチャーで任せている。説明を面倒くさがるのは父、シルヴァンと同じか。そこでクレアが話し出す。
「えっと、まずどこからがいいですかね。5年前ですか?」
「そうだな、詳細はある程度省いてもいい。後日ゆっくりと聞かせてもらうが、5年前のクウィントンからだな」
如何せん分からないことが多すぎる。情報は大事な要素である。じゃあ、と切り出して語ったクウィントンから今日までの出来事。
…………それを聞き終えた私は脳が理解を拒んでいた。ザックの死。ノウレアまでたどり着き、5年間で数え切れない程の襲撃を受け、何度も何度も返り討ちにしている。食料は人口が減ったことで何とか自給自足を成立させ、時には狩りに出ると。
まぁ、百歩譲ってそこまではいい。
問題は先日だ。フリード達が到着した時の戦闘だろう、敵の物量は完全にノウレアを滅ぼすつもりだったはずだ。これまでも十分な戦力差で攻めて、失敗した経験を含めたものなのだから……
「と、まぁこんな感じですね」
「そ、そうか……」
クレアが話終える。これは頭の痛い話だ。
リリーナは既にネームドレベル、いや、それ以上の戦力かもしれない。英雄と天才の娘はこうもイレギュラーなのか。しかし、軍学校所属とはいえ、軍人ですらない者が軍を従えていた。これは帝国法上は処罰の対象になりえてしまう
どうしたら1番収まりがいいか。まずはリリーナを特務機関に軍学校卒業扱いで入れるか。今回の成果をフリードとクレアに振って、誤魔化すか
……いや、難しいか。既に成果が大きい過ぎる。
「どうしたものか……」
「……長官、ノードで戦闘中ならこっちから攻めに行ってもいいでしょうか?」
リリーナの奴がこっちの気もしれないで、純粋な眼差しで、問いかけてきた。




