76.援軍
「あれがノウレアか」
「イーノス、俺にも見せて」
ロブに言われて僕は少しズレる。
未だ距離があるにも関わらず、車両から見えるその城壁は大きく、その街が古くから国境沿いの要として機能してきたこと体現していた。
僕が特務機関としての初めての任務は、孤立したノウレアへの援軍である。ノーステリアとイーストテリアの特務機関所属隊員104名での援軍。ノードへの戦力を考えるとノウレアへ派遣出来る限界だった。
先日から先行しているフリード少将達イエロー部隊との通信もできていないらしい。状況は良くないだろう。
みんな大丈夫だろうか。
今は朝ではあるが、ノウレアは静かだ。大急ぎで来たが間に合わなかったのか?敵軍も視界内には見当たらない。ノウレア周辺は塹壕や爆発跡で車両は侵入出来ないと聞いている。もうすぐ1度止まるだろう。
そんなら矢先、索敵班から緊急連絡が入る。
「2時の方向!敵軍発見!!」
そっちにいたのか!?
車両が緊急停止する。周囲の車も同じだ。俺たちは援軍に来たんだ。蹴散らすか?
「ロブ、機銃に付け」
「はいッ」
この班の長であるアランさんがロブへ指示を出す。ロブはすぐに車両備え付けの機関銃をいつでも撃てるように準備する。
静かだ。今は不穏な静けさに、落ち着かない。
「2時方向1つ丘の向こうに敵!距離約2km!」
敵はもうすぐそこだった。ノードの包囲を昨日超えて急いで来たために、索敵が不十分だった。
「ザザ………こちらノウレア、フリードだ聞こえるか?」
突然車両無線に通信が聞こえる。ノウレア?フリードさんッ??
「こちら特務機関アラン!フリードさん聞こえます!ご無事で!」
今回の作戦の指揮官であるアランさんが応対する。
「アランか!こっちは無事にノウレアだ。南門からそっちを確認している。
敵軍が東からお前達に迫っている。その後ろについているのは例の新兵器を持ってきたのか?」
「はい!長官が「これでぶっ潰せ!」とのことです!」
「長官も頭に来ていたようだな。よしッ、こちらで着弾観測を行う。発射準備だ!」
「助かります!お前ら聞こえたなぁ!?【白亜三式】発射準備ぃ!!」
「「はっ!!」」
僕は単純かもしれない。あの冷静沈着、完璧な采配でいくつもの戦果を挙げているフリードさんがノウレアから見守ってくれるってだけで先程の不安が消える。
「準備出来次第、目標をお前達から東方向2km先へ発射しろ!随時こっちから誤差を教える!」
「了解です!」
「高機動車両は丘上まで移動!機銃で敵の接近を迎撃せよ!!」
「了解っ!」
次々に動き始める。
僕らの車両は高機動車両だ。丘上まで一気に駆け上がる。丘上に着くと肉眼ではかなり遠く、はっきり見えないが土煙は確認出来る。僕達よりかなりの大軍のようだ。
「ロブ!爆破付与機銃準備!!」「はいッ!」
「目標丘、水平線ギリギリを想定!撃てぇ!!」
「くらえぇぇ!!」
ドドドドッ!
ロブが撃つ機銃にしては少し遅めの連射速度で撃たれた弾。それはロブの爆破魔術の付与によって着弾時に爆発する。装甲車両だろうと甚大な被害を与える。これこそがロブが特務機関所属足る理由だ。
機関銃にしては遠すぎる射程でありながら、確実に効果を生んでいるだろう。
その発射先を見ていると左から煙を引きながら敵軍へ吸い込まれた物があった。直後爆発する。ノウレアからランチャーが撃たれているらしい。それも片手じゃ足りない量の弾数が絶え間なく撃たれている。
きっとフリードさんが援護していくれている。凄い!!
__________
「残弾は気にするな!どんどん撃てぇ!!」
フリードさんがやっとまともな対応をしている後ろで私は叫ぶ。
南門付近の城壁上からは、援軍に来たアルステリア軍とルンドバード軍がしっかりと見えている。アルステリア軍とルンドバード軍の戦力差はやはり大きい。ざっくり3000対100人だ。単純戦闘では勝てる訳がない。
だが、アルステリア軍が持ってきたその白くしかし重厚で巨大な砲身は、双眼鏡を介さなくても分かる程の存在感を放っていた。
「アレってステージギミックじゃなかったんだ……」
今なお、爆音鳴り響く対地対空の汎用ランチャー【アルゼノ】の発射音のそばでは私の呟きも皆には聞こえない。
ルンドバード軍が背を向けるのなら、撃ってしまいなさい。という発想からガンガン撃っている。人が担いで使用できるとはいえ、重量があるせいで機動力に欠けるため使ってなかった。それが今回は大活躍である。
なお、弾はもちろん先生にお願いした。ノウレアにそんなに弾があるわけない。
「ふぅ…リリーナは、なかなか人使い荒いよな……」
うん、やっぱり、アルゼノの発射音で聞こえない。聞こえないったら聞こえない…
汗を垂らしながら作ってくれている先生はやはり有能です。
「先生、ファイトです!」
しかし、敵軍も多いなぁーと思っていると、フリードさんに【白亜三式】準備完了の連絡が入る。
「発射!!」
フリードさんの号令。一瞬の間が空き次の瞬間。大気が揺れる。南門にいる私達には確かに視覚として、【白亜三式】の周囲の空気が動いた。
何秒だろうか。時間にすればほんの数秒遅れてルンドバード軍の車列後方左よりに着弾し爆ぜる。その威力は装甲車両の分厚い鉄板さえ、紙屑の如く突き破り、焼却する。
拡がる爆炎はあまりの高温に直視することが出来ないほどの光を放ち、1発の弾頭が世界を真っ白に埋め尽くしたのだった。
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