74.姉妹
戻ってきたノウレア軍はみんな至る所に怪我の痕があった。
「怪我が…みんな大丈夫ですか!?」
「なぁに、このくらい大丈夫さ!」
「さっきまでイデェイデェって言ってたじゃねぇか」
そう、1発食らっただけじゃ死ななくても、痛みはある。大人なら応急処置して安静にしてれば回復する。それでも撃たれるのはめちゃくちゃ痛い。文字通り死ぬほど痛い。
「バカッ!それは言うんじゃねぇ!」
「お前にだけいいカッコさせるかよ!シアちゃん、俺なんて今日だけで10人も倒したんだぜ」
思ったよりも元気そうに、声をかけるとみんな話しかけてくる。
「コラコラ!うちのシアにいい顔しようとしてるなぁ!?」
「リリちゃん!」「げ!?リーダー!」
リリちゃんも戻ってきた!でもその姿は
「ちょッと!?大丈夫なの!?」
顔からなにから、全身が赤黒くなっていた。
「げッ!てなんだよー。ん?あー、大丈夫!全部返り血だから」
「何故あんなに突っ込んでるのに、無傷なんだ!?」
後ろからそう言っている先生も……返り血のような痕はあるけど、服に穴空いてないので無傷っぽい。この先生も大概おかしいな。
「先生だって食らってないじゃないですか」
「そりゃ、私はリリーの後ろだったからな!」
「いや、2人ともあれだけ暴れておかしいですって」
うん、私もそう思う。近距離で勝てるビジョンが全くないし。
「んな事言われても……、でも、今日は流石に疲れたよ!昨日も夜襲したし、明日は敵さんにも動きがあるだろうからね。早くシャワー浴びて寝たい」
「うん、戻ろー!」
「警備班を残して撤収、しっかり休息とるように!」
「「「了解!」」」
ノウレア防衛戦、3日目の朝。
その日は生憎の雨だった。それでも少ない300程度のノウレア軍は少ない兵だが警戒は怠らない。リリちゃんが起きていない間は特に増員しているみたい。
兵士以外は炊き出しや洗い物など全員で手分けして行っている。今ここで人が住んでいるのは中央区のみ、昔の人口に比べ3割以下まで減っている。
陸の孤島と化したノウレアでは外敵に対して、一致団結しなくては対抗できなかったのだ。
しかし、住民の顔に悲壮感はない。
「お!?あんた一昨日きたって、子だろ!?」
中央区の城壁上から敵軍の方を確認していると、50代くらい?の男性から声をかけられる。
「そうです。分かりますか?」
「あぁ、もうすっかりみんな顔見知りだかんな。見ない顔はすぐ分かっちまう。昨日もリーダーと話してたろ!知り合いなのかい?」
リーダー、つまり、リリちゃんの事だ。
「えぇ、姉妹です!」
「なにぃ!?姉妹!?い、言われると似て……る…??」
男性は驚くと同時に困惑している。
「あ、姉妹と言っても親は違います。ご両親が亡くなったので……」
「そうか。リーダーはシルヴァンさんの娘だもんな。母も亡くしていたか……」
シルヴァンさん、レッドイーグルは英雄として有名だ。既に亡くなっていることは大勢が認知している。しかし、母親のマリーさんの方は知られていない。そもそも、両親共に殺されたあの事件は極秘だ。私だって環境が少しでも違えば知らなかっただろう。
「しかし、リーダーに家族がいて良かったよ。明るく振舞ってるが、ここに来た当初は酷い顔してたんだ」
「……昨日、リリちゃんと少し話しました。ノウレアに来る前に私のパパ。リリちゃんには第2の父ですが、リリちゃんを庇って死んだそうです」
「それは……なんと言うか…………リーダーも、君も辛い思いをしたな……」
「でも、パパらしい最後だと思います」
私は胸元にあるリリちゃんから渡された、パパのドックタグを握る。それだけで見守ってくれている気がした。
でも、リリちゃんは父を2回も目の前で失ったということ。ノウレアに着いた時はまだ日も浅かったはず。きっと、そのせいでリリちゃんのなにかが壊れてしまったのかもしれない。だから、命のやり取りをしている戦場でも必死に笑っているのかな?
正確には分からない。
けど、リリちゃんをこの戦場から遠ざけたい気持ちは強くなった。
「あ、自己紹介がまだでしたね。私、シアって言います。シア・フォーデンです」
「む?シア・フォーデン!?君が?」
「そうですけど……」
「俺はフランク・ホワイトロー、メリアの父だ!」
「えぇー!?メリアさんの!?」
メリアさんは私の1つ上の氷魔術師の先輩だ。2つ上のナンシーさんと合わせて3人氷魔術師として仲良くさせて貰っている。最近は会えてなかったけど、連絡はよく取っている学生の頃から仲良くしている先輩だ。ノウレアにお父さんがいるとは聞いていたけど、この人だったとは。
「君の話は聞いたことがあるよ!氷魔術の天才的な後輩がいるって!」
ちょっと、メリアさん。そんな事言ってたの??
「俺はここで工作兵の纏め役をしてる。なにかあったら言ってれ。力になるぞ」
「ありがとうございます。工作兵ってことは外縁区のアレも……」
「あぁ、リーダーにアレコレ言われながら爆弾を設置したよ……やっといてなんだが、凄まじいな」
外縁区の崩落。綺麗に崩壊場所と残る部分が分かれていた。計算された崩壊。凄い罠だった。
「リーダーはアレをやった時に、「人がゴミのようだ」と言ったそうだ」
「えッ!?」
「リーダーには君が必要だ。リーダーは戦いの才能があり過ぎる……
導いてやってくれ。本当に道を外れそうになった時、リーダーには君しかいないと思う」
「任せてください」
私が思っている以上にリリちゃんは深刻なのかもしれない。
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