73.スナイパーシア
「観測班、スポットした場所に敵スナイパーがいる」
リリちゃんから無線が入る。私とフリードさんの隣にはスナイパー組のスポッターとしてウィル達がいる。スポッターとは簡単に言えばスナイパーの補佐をする人のことだ。風向きなどの情報や敵の索敵、緊急時の護衛などを行う。
「確認しました。シアさん。1時の方向、林の入り口付近です」
そんなスポッターのウィルが手元のデバイスを確認して場所を教えてくれる。デバイスには周辺のマップが映っており、リリちゃんがマーキングした場所に点がついている。
「了解」
私は返事をして、先程言われた確認する。……いた。林の入り口付近の草むら、周囲緑の擬態するためギリースーツを着た敵スナイパーとスポッターを見つける。まだこちらには気付いていない。
私の【ケントロ】はセミオートのスナイパーだ。つまり、連射が効く。
パスン!パスン!
「敵スナイパー、クリア」
スナイパーとスポッター、計2人のキルが完了する。私達の位置へはスナイパーでなければ、まともに攻撃することも出来ないだろう。私達スナイパーは基本的に敵スナイパーを警戒する必要がある。スコープによる光の反射など注意が必要だ。
でも、今回はリリちゃんから先出しで報告があるので、安心感が段違いだ。お陰で下の状況もよくわかる。
「クレアさん、そこの先に敵がいます」
「了解っと!」
「ワイリーさん、次の角、右から敵!援護します」
「っ!?了解、頼む!!」
リリちゃんの手が回りきらない部分を私達がカバーする。やっと、リリちゃんの役に立てているようで嬉しい。
頑張るぞ!!
「フ、ハハハハッ!凄い、これは凄い!シルヴァンさん以上だ。なんだそりゃ!何人キルするんだ!?ハハハハッ」
フリードさんの笑い声が聞こえる。フリードさんとはそれなりに離れているのにだ。
リリちゃんを見てからフリードさんのキャラが崩壊している。少し寡黙で真面目な印象が吹き飛んでしまった。なんか、パパの同僚で凄い人って思いはもうない。悪いけども、壊れちゃったフリードさんの分まで私がリリちゃんを助けるよ!
ワイリーさんの背後を取ろうと塹壕から顔を出した敵を撃ち抜く。
あッ、ワイリーさんが交戦している敵の背後に、リリちゃんが現れた。一気に接近していく。リリちゃんの後ろから現れた先生が発砲を開始、後方の敵を倒す。その時にはリリちゃんはもう、先生が倒した敵のすぐ後ろだ。ショットガンを撃ちながら、あっという間に敵の列後方から5人を倒す。次の敵がリリちゃんに銃を向けた頃には倒した敵を蹴り飛ばして、距離を縮めて更に撃ち進む。狭い塹壕の中でも敵の銃口の方向を的確に誘導、もしくは、敵の盾で交わして、瞬く間にそこにいた敵分隊を殲滅してしまった。
そんなリリちゃんはハハハッっと楽しそうに笑っている。
でも、昨日も少し感じた違和感。
クウィントンの時は、笑えていなかったリリちゃんが、演習の時のように笑っている。
演習の時と今、どちらも同じように本当に楽しそう。けど、何故だろう。上手く言えないけど、なにか違うような……
あの楽しそうな笑顔は、演習時の心から楽しんでいた笑顔とは違うような、そんな気がした。
私にはそれがリリちゃんの中の何かが欠けてしまったように思えた。
クウィントンで?いや、ノウレアで?この5年で?確実にリリちゃんは変わった。さっきまで普通だったのに、戦闘モード?の時はなにかが欠落したような……ほんの小さな違和感。
よく分からないけど、この5年で色々あったんだと思う。
リリちゃん。これからは私も力になるから。昔のただ遊んでいる様な…天真爛漫な笑顔でいて欲しい。戻ったら絶対、また演習やろうね。
そのために!まずはこのノウレアを解放しないといけない。
私は次の敵を撃つ。弾は先生が沢山置いていってくれた。その後も数回、敵スナイパーを知らせてくれて倒すと、そこから敵スナイパーはもう居ないようだった。敵の指揮官も倒していたので、敵は逃げることすらなかなか出来ないまま、終始こちらが敵を圧倒し続けて今日の戦闘は終了した。
日が沈みかけた頃、戦闘を終える。深追いはいらないとの指示なので、みんなノウレアに帰還してくる。南門を上がってくるノウレア軍は皆明るい表情だった。
「ワイリーさん!みんな無事ですか!?」
「うん、全体みても死者はいないよ」
「良かっ……」
私は良かったと言いかけて、みんなの姿を見て思わず止まってしまった。
そう、ワイリーさんは今、死者はいないと言った。戻ってきたみんなの服には複数の銃弾を受けて空いた穴や血痕が残っている。
その姿は戦闘の壮絶さを物語っていた。
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