69.予想外
翌朝、会議の後直ぐに休憩を入れたが、実際休めた時間はそれほどでもないだろう。
それでも日が昇る頃には皆集まってきた。昨日の夜は子供の頃のようにシアがくっついて離れなかったが、一応疲れはない。
「リリーナ、シア、早いな!」
「あ、フリードさん、おはようございます!」
「フリードさん、おはようございます!」
フリードさんも起きてきたようだ。
「あぁ、おはよう。リリーナ、昨日はなんかすまんな」
「いいえ、大丈夫ですよ。フリードさんはあの時、助けてくれた時以来ですよね。あの時はありがとうございます」
フリードさんは私と母さんが攫われたときに、父さんやザックさん、クレアさんと一緒に助けてくれた人。ザックさんと同レベルのベテラン兵士で、現役で指揮官をやっている程の人だ。私は私達が生き延びるために援護に回る形でいい。
そもそも、学校を卒業すらしていない私はまともに階級がない。イレギュラーは終わったのだ。
「……シルヴァン隊長は間違いなく英雄だったよ」
当時を思い出しているのか、少しうつむき加減でフリードさんが答える。寡黙そうだが、優しい人のようだ。
「ありがとうございます」
「……リリーナ。俺はお前の指示で動いてみたい」
「え?」
あれ?フリードさん?
「あの後……
一晩考えたんだ。俺が指揮してもノウレアは5年持たない。そして、リリーナは正確には軍人ではない……だったらいっその事、リリーナを俺のアドバイザーとして、指示は俺が出したことにすれば特務機関であるみんなが動けるんだ」
何を言ってるんだ、この人は?
「え?は、はい。だから最初からフリードさんが指示を出すのでは?」
フリードさんは意を決したように私に目を合わせる。
「……俺はあの感覚が忘れられない。レッドアイにより敵を見通し、先読みして動くあの感覚。敵軍を手玉にとっている感覚だ。
あれはもう味わうことは無理なんだと思っていた。でも、まさかだ!シルヴァン隊長の時に体験したあの感覚が蘇ったんだ!!」
段々と声が大きくなるフリードにリリーナもシアも困惑していた。
え!?なになになに??
フリードさんってこんな感じの人だったの!?
(あれ?フリードさんって寡黙なタイプだと思ってたのに)
ゴンッ
私達にも聞こえる程の音を立てて、フリードさんの頭にゲンコツが落とされる。クレアさんだ。
「ごめん、リリー。実はね……フリードはシルヴァン隊長のファンなの」
「……」
………………え?…………は?
………………………………ふぁん?
ファンって言った??父さんの?
「びっくりするよね!でもこの人、ほんとなの。憧れの人っていうかのな」
「で、でも、父さんと同じ部隊ですよね?」
「えぇ、だから、シルヴァン隊長の、えーと、弟子?いや違う、舎弟かな!?そんな感じだったのよ」
「昨日はそんな感じなかった……ですよ?」
「多分ね、最初は憧れの人の娘=保護対象から、リリーナのレッドアイを聞いて、感情が振り切れちゃったみたい」
「みたいって……」
凄い見てる。フリードさん、めっちゃこっちみてる。少年みたいな顔してるじゃん。
「私、フリードさんはもっと落ち着いた人かと……」
「レッドアイが絡まなければね」
「あー、ハハハ、そうなんですね」
私は苦笑いするしができなかった。
「…一緒にノウレア来た時とのギャップか凄いです」
「シアちゃんもごめんねー。一応、害はないの。ほんとに憧れてるのよ」
クレアさんも大変そうだ。そんな切実に言われるとは。確かに必要以上に近付いてくるとかそうゆうのはないから、無害ではある。気になるけど。
「はい。じゃ、じゃあ、今まで通り私が指示だす感じですか?」
「うん、今まで通り!お願い出来る?」
「んー、」
そっか、あんまり変わらないのか。
じゃあ、私のやり方でやらせてもらうかな。
「私のやり方で良いってことですかね?」
「そ、そうだね。形式上は命令としては出せないけど、別にみんな反発なんてしないし、フリードの容認があるからいつも通りで大丈夫だよ」
「分かりました。なら大丈夫です!」
さっきから、レッドアイで見えているルンドバード軍。まだ動いてはいない。ここからどう来るか。指揮官は死んだ。昨日唯一逃げた奴が階級は上かな?
攻めてくるか。
または包囲の維持か。
はたまた、逃げるか。
「クレアさん、では今日は奴らの動きによって具体的な方針を変えますが、いづれの場合でも撃って出る必要があるかと。準備するようにしてください」
「やっぱり出るのね」
「はい、これはチャンスです。ルンドバードの勢いを削ぎますよ」
「おっけー!キースにも伝えておくわ」
「お願いします」
ルンドバードはなかなか動かない。否、ルンドバードは動けないでいた。リリーナは階級が次の者が引き継ぐと考えていたが、昨晩ノウレアにいた上層部はほとんど死亡した。そのため、指揮官不在による、指揮系統の乱れで収まらなかった。
指揮権を継ぐべき階級が2人になったことで、ルンドバード軍は大きく二分していたのだった。
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