68.指揮官は
「以上が、俺たちが来た経緯だ」
ノウレアの会議室。夜も遅いが今話して置かなければならないことがある。会議にはリリーナ、シンディ、クレア、ワイリー、キース、向かいの席にイエロー部隊の4人、そして、ブランドンだ。まずフリードは現在のアルステリア帝国の状況を説明した。
「さて、今度はそちらの番だ」
フリードに見つめられたリリーナは口を開き掛け、やめる。それを見てクレアが話し始める。
「じゃあ、私から。私達はクウィントンを脱出したあと、ノーステリアに行こうとしたけど、既にルンドバード包囲が敷かれていたの。だから、ノウレアまで移動してきた。そして、ここで今まで防衛してたって訳よ」
「まぁ、大筋はこちらが予想していた通りではあるんだが」
フリードは行ったんここで言葉を区切り、リリーナを見つめる。
「色々聞きたいことばかりだ……まずはっきりさせて欲しい。今、ノウレアのトップは誰なんだ?」
ノウレア組は無言で視線を交わす。
「まぁ、住民達の代表は前市長のブランドンさんね。5年前の侵攻で市長は亡くなったわ」
「既に老いぼれの身ですが、市民の代表を務めております。ブランドン・コービーです」
ブランドンが会釈し、イエロー部隊も答える。
「して、軍部は?」
フリードが本当に聞きたいことを改めて口にする。
「……階級で言えば准将の私ね」
クレアが5年前からの階級をなのる。
「次点でシンディ中佐、キース少佐って所ね。あとのノウレアの将官は亡くなってるわ」
「……」
フリードはまだ足りないだろうと目で訴えていた。
「ブフッ!そうよね。見てるんだもんね」
クレアは思わず笑がこぼれる。クレアだけじゃなく、ノウレア組は苦笑いだ。
「はっきり言うぞ!クレア!お前、リリーナに指揮官やらせてるだろ??」
「そうよ!!何が悪いのよ!」
「お前な!いくらなんでも、やらせ過ぎだろ!子供だぞ!?」
「私より優秀なんだからしょうがないじゃない!あんたも見た事あるでしょ!?」
「優秀なのは分かる!だが、優秀だとしても、だ!」
2人は徐々にヒートアップしてくる。それは段々と仕事の口調から夫婦の口調へと変化してく。
「じゃあ、あんたが5年も包囲されたノウレアを護りきれるの?無理でしょう!?私だって無理よ!」
「だ、だが、5年前はまだ学生だぞ!そんな子供に、指揮官の責務を、重圧を預けて、押し潰されたらどうする!?」
「それは私だって、申し訳ないわよ!でも、勝てなかったのよ!そうしないと!!
そうじゃなきゃ、とっくにみんな死んでいたわ!!」
そう言う、クレアの目は水気を帯びていた。フリードはそれに気付き、口を噤む。
孤立し、増援もない籠城戦。
補給もまともにないだろう。今だ学生服である赤黒い迷彩服を着ているリリーナがいい証拠だ。そんな戦闘を続けて来た彼女達に取れる選択肢は多くない。その選択肢の中から最善な物を選ぶしかなかったのだ。
「……すまない。言い過ぎた」
「…いいのよ」
フリードは我に返り、お互いトーンダウンする。
「フゥー、それでリリーナを指揮官としてやってきたわけだな。5年……リリーナ、頑張ったな」
フリードは優しくそう言う。フリードとてリリーナを案じての言葉だった。
「大丈夫ですよ。みんな私を信じてくれていましたし。私に出来ることはしたかったですから……」
「リリーナ、先程戻って来る時レッドアイを使ってる様子がなかったと思うのだが?」
リリーナはニヤリ笑う。
「レッドアイなら使ってますよ」
「ん?」
そして、おもむろにその小さな頭には大きい眼帯を取り外した。
「この通り、常に発動しているので、敵にバレないように眼帯をしています」
リリーナの隠していた左目、その目は紅く輝いていた。
紅く、赫く、輝いて、光を放つ。にも関わらず、透き通った瞳だった。
「……は?」「……え?」「わぁ、綺麗ねぇ」「ふふん」
フリードとショーンは呆然として止まる。ドロシーは単純に褒め、シアはリリーナが褒められているのが嬉しい人間である。
だが、フリードとショーンはそれで終われない。
「いや!?何を言っているッ!?レッドアイは日に数分使うのが限界じゃ!?」
「そうだぞ!?魔力が持たないだろ!?」
彼らはリリーナの父、シルヴァンを知っている。余計にレッドアイの常時発動などありえない。
「片目だけ発動して、魔力を節約してますよ」
「い、いや、いやいや、そんな……そんな事ができる……のか?」
「だ、だが、今も……ずっと発動…してるな……」
「ふふっ、まぁ、直ぐには受け入れられないでしょうね」
クレアは先程とはうって変わって楽しそうに笑っている。
「もう起きている間は常時発動出来るようになりましたね」
「凄いわね」
「凄いなんてもんじゃない!ありえない!はずなんだ!…はずなんだ……」
ショーンはドロシーへ興奮気味に話すが、目の前の事実を否定しきれない以上反論は意味をなさない。
「受け入れた方が楽よ」
一通り笑ったクレアはこの5年で色々あった事象を思い出し、全てを達観した表情でいうのだった。
「それで、今後の方針なんですが…」
リリーナが話を戻しにかかる。
「明日の敵軍の動き次第ですが、撃ってでましょう」
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