64.作戦発動
外縁区に到着したルンドバード兵は、指令部からの指示通りに、2分隊以上で固まる。
ロベルトの指揮する第7師団の分隊は6人チームだ。最低でも12人で隊列を組み、城壁付近から街の奥へと歩みを進める。
「……ハッハッ…ハッ…………」
遠くで笑い声が聞こえる。この硝煙にまみれた場所で。命を懸けた戦闘で。
聞こえてくる笑い声、それはあまりにも異質。第304、305歩兵隊の隊員達は思わず体を震わせる。
「っ!?総員警戒!!」
「!?あれって、先行した部隊でしょうか?」
「……そのようだ」
道の先に倒れた兵を発見したのだ。石畳に血が滲み広がっていた。誰かが唾を飲む音が響く。その目の前の死にそこからなかなか足が前に出ない。ここまで登って来る途中でも、味方の死体はたくさん確認したのに……
本能がやばいと告げていた。
「おい!?どうした!?」
後ろから同じ路地に増援が来る。そう、この戦場には味方が多数存在する。
立ち止まっていたことで、意図せず後続と合流した。彼等もいつまでもここに居続けることは出来ない。敵前逃亡扱いはルンドバードでは極刑である。退却命令のない、ましてや、今はまさに外縁区を制圧するように命令されている状況なのだ。
「行くしかない……」
「左右に別れよう」
進むことしか許されない隊員達は覚悟を決めて、進む。この路地へは24人のルンドバード、路地の左右に別れてゆっくり進む。
最大限警戒しながら進み、倒れている味方の場所までたどり着く。
「確認しろ」
部隊長の指示で若い新人隊員の1人が確認する。
「ぅ…、銃弾を受けて死んでいるようです」
死体は額に被弾しており、即死のようだった。今も離れた場所で発砲音がするが、ここは静かなもの。もう立ち去ったのか?そんな疑問が生じる。そんな最中に
カタンッ
と背後から音が響き全員が音がした方向にバッと銃を向ける。その一瞬だけ、死角ができる。24人の目が一瞬目をはなしたタイミングで、彼等は撃たれる。
「敵襲ー!!」
反応が良い兵士はシールドを張るが、多数は間に合わずに被弾する。
ルンドバード兵達が退避し、態勢が整う頃にはノウレア軍はもうそこにはいなかった。数分前まで24人いた仲間は8人にまで減っていた。
「た、隊長……」
先程の若い新人隊員だ。シールドは間に合わなかったが、まだ息がある。第304部隊長は彼を引き摺って下がる。
「大丈夫、止血すれば治る!大丈夫だ!!行ったん下がるぞ!」
「はいっ!」
怪我をした兵士を担ぎ、元気付けながら後退する。幸い追撃はこない。また味方の兵士がこの路地にやってくる。
「ほら!増援だ!戦力差は明らかだ!直ぐに奴らは追い込まれる!!」
「ですね!!」
痛みを堪え、気合いで返事をする若い新人隊員。
「止血はした、お前はしばらくここにいろ!」
新人隊員を外縁区の大外、城壁に背中を預け、寝かせる。
「隊長達は?」
「俺達は向こうの部隊に合流する」
城壁付近は第304歩兵隊達が登って来た時よりも、かなりの人数が集結しているところだった。戦闘部隊はほとんどが第1城壁の上に到着したのだ。
「隊列を組め!人数をかけて少しずつ進め!敵はゲリラ戦を仕掛けている!少数で行くとやられるぞ!」
南門担当の少佐が指示を叫んでいる。
先程よりも大人数で進むルンドバード軍の物量はノウレアにとって死を告げる行進である。
そこにヌルりと現れた男がいた。気負いもなくリラックスした様子の男は周囲をみてつまらなそうに話す。
「なんだぁ?せっかく俺が着いたのに、こんなにいるんじゃ楽しめないなぁ」
「ッ!?ライトニング様、ご到着なされたのですね!私が南門担当のエメットであります」
「おう!戦況は?」
「2分隊規模毎に各通路で偵察を行いましたが、個別に襲撃を受けており、まだ思うように進めておりません」
「ハハハ、敵も本気で抵抗してるんだ。そうだろうそうだろう。しかし、これだけの物量……
時間の問題だろう!」
「はっ!もはや以下に損害を少なくするかの話かと」
動き出した兵士は南門周辺だけで、1000人を超える。2人とも既に勝利を確信していた。
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リリーナはその様子を外縁区の内側から見ていた。
「リーダー、全員退避完了です!」
「全員、合図があるまでそこで待機」
「「はっ!」」
民家の一室、口元をニヤリと緩ませたリリーナの手にはスイッチが握られていた。安全装置を外していつでも押せるようにする。
後ろでその様子を見ているワイリーとウィルは手をキツく握っていた。この成否が重要だと言うことを理解していたからだ。
リリーナは躊躇いなくそのスイッチを押す。
突如としてゴゴゴゴという地の底から響く音が鳴り響く。凄まじい地響きと土煙が外縁区の東から南まで扇形に広がる。
それに合わせてリリーナの目に映る敵兵が落下して消えていく。
「ぅわぁぁあ!!」「ぎゃぁあぁあ!」
地鳴りとたくさんの悲鳴が木霊する。
外縁区に突如として扇形の大穴が発生した。大穴は民家諸共、ルンドバード軍を巻き込んで飲み込んだのだった。
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