63.ライトニング
「南門突破!第1城壁突破です!」
オペレーターから報告が入る。ルンドバード軍指揮官であるロベルトはようやく来た知らせに、口元を緩めた。
「よし!各部隊侵攻しろ!外縁区を制圧しろ!」
「はい!」
「ライトニング、出番だ」
ロベルトはソファにふんぞり返っていた男に声を掛ける。
「やっとか。やっぱ、俺がいないとダメだなぁー!こんな砦、直ぐに潰してやるよ」
金髪の左右を刈り上げて、中央は長く後ろで結んでいる。マンバンヘアと言うやつだ。その余裕の表情は長く戦場いても、常に強者として戦ってきた自身からくるものだ。
「味方に当てるなよ」
「俺の邪魔しなきゃなー」
ロベルトの忠告も適当に返事をして、さっさと歩いて出ていくライトニング。
現在、ノウレアを攻めている主攻はロベルトの第7師団だ。ネームドであるライトニングは増援として、ノウレアに来ている。やつはロベルトの軍を馬鹿にして楽しんでいた。
ニヤニヤしながら天幕からでていく後ろ姿に、ロベルトは青筋がピクピクしていた。
「クソがッ。ネームドだからと、調子にのりおって……」
「完全にこちらを舐めてますね」
ロベルトの副官もムッとして話す。
「あぁ、性格はくそだが、強さだけは使える。ムカつくがそこだけは我等も利用するさ」
「本当に使えるのでしょうか?」
「あぁ、俺は同じ戦場にいたことがある。雷鳴のような轟音が響いたと思えば、アイツの斜線上には何も残ってない。やつの雷魔法の前に壁は無意味だ」
副官はゴクリと唾を飲む。
「……ノウレアの陥落も時間の問題ですね」
「最も難関と思われる城壁は突破した。やつは平地の方が効果的だから、外縁区の制圧も時間の問題だろう」
ライトニングに思う所があるとはいえ、佳境は超えた。焦り始めていたロベルトの気持ちに余裕が出来、天幕をめくる。丘の向こうに僅かに見えるノウレアは土煙が上がっており、少しくぐもっていた。
「日が沈むまでに外縁区は制圧できそうだな……」
「少将!!大変です!!」
観測モニターを見ていたファティ通信兵が叫ぶ!
「どうした!?」
「外縁区の味方がどんどん消えて行きます!」
「は?」
司令室が騒然とする。ロベルトは急ぎ足でモニターに行き確認しに行った。モニターには天幕のすぐ側に停車しているレーダー車両からの情報がリアルタイムで表示されている。作戦行動が円滑になる情報、生存している味方の位置だ。ドッグタグと連動したこの装置は心音がある限り、味方の位置を発信している。
その信号が外縁区をある程度進むと消えていく。第1城壁を超えて、外縁区に侵入すると消えるのだ。侵入出来ている距離は場所によって違う。しかし、消えている。
「ちゃんとノウレアまで範囲にはいっているんだよな?」
「はい!間違いなく届いている距離です!」
「……じゃあ、なんだ。この勢いで、味方が死んでるとでも?」
「あ、ありえない」
副官が呟くように言葉にした感情。司令室の空気が固まる。先程までの、楽観した空気は吹き飛んでいた。
「現場の誰でもいい!応答させろ!」
どの交戦場所も同じ状況でロベルトはもう誰でも良かった。ファティ通信兵が無線通信を行う。
「外縁区に到達した部隊、どなたか応答求む!外縁区の部隊、応答求む!」
……嫌な沈黙が一瞬発生し、応答がある。
「こちら第304歩兵隊!外縁区到着、どうぞ!」
「304!?南門の付近だな!」
ロベルトは地図で作戦行動中の場所を確認する。
「外縁区城壁より100m先でレーダー反応消失多数あり!状況はどうなってますか!?」
「こちらからは敵兵を確認できない。道が入り組んでいて、20m先がやっとだ!」
「りょ、了解!気をつけて進んでください!」
ファティ通信兵はデジャブを感じる。
「こ、この感じ前にも……」
「知っているのか?」
「は、はい。5年前のクウィントンの時、一時期、味方の被害が拡大したタイミングが……」
ファティは思い出す。クウィントンで前任の指揮官コロブコナ少将……今は中将だが、その時もこんな風に対処に困ったタイミングがあったこと。
「コロブキナ中将の時か……その被害はネームドだったのか?」
そう言葉にしてもロベルトはしっくりこなかった。ネームドだとしても、こんなに分散して進んでいる分隊が次々にやられるのは経験がなかった。
「いえ、原因と思われる敵には逃げられています」
また、密集した1分隊と思われる味方を示した青点が6つ消える。街と言えど外縁区は広い。分隊で動くことにしていたが、このままではなにかに殺られる……
「外縁区の探索を密集陣形に変更!2分隊以上で行動させろ!」
「はい!」
ロベルトの握りしめた手は湿り、嫌な汗が流れる。
(なんだ、何が起きている?)
人は分からないものに潜在的な恐怖を感じる。軍人とて例外ではなかった。
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