62.進む戦況
「第3区間は撤退せよ」
「はッ!」
この5年間の間にノウレアの兵士たちは私の手足のように動けるまでに成長した。
当時、私達がノウレアに到着した時は既に陥落寸前。街に浸透され市民も犠牲になっている状況だった。
ノウレアはエーテルノヴァを撃ち込まれておらず、スキルは自由に使用できる状態だったが、戦力差が大きく、ノードが落とされ援軍が期待できない。
そんな状況で兵士たちの士気はどん底だった。
私達はレッドアイをフル活用して、市街地でゲリラ戦を行い、ノウレア軍を吸収して、ゲリラ戦を繰り返す。
なんとか敵軍を撤退させた時には私に従うようになっていた。
その後も防衛を繰り返し、訓練し、気付けば5年の月日が流れていた。
そんな折、今までで一番の戦力差で攻めてきている。第3区にはもう階段を掛けられた。もうすぐ外縁区に戦場が移るだろう。太陽は真上から少し傾き始めた頃。戦闘開始から5時間くらいか。
ここからが本番だ。
「第103分隊、ポイントB5まで後退、敵を引き込め!」
「はッ!」
「第104、第105分隊は引き込んだ敵を側面から挟撃!」
「「は!」」
「俺たちもそろそろか?」
私のそばに控えたワイリーが声を掛けてくる。
「うん、南門に手練がいるね。もうすぐ上がってくるからいくよ」
「おう!」
ワイリーが銃をカチャっとコッキングする。これで弾が装填され、いつでも撃てるようになるのだ。
この世界は戦闘機が存在しない。ヘリはあるが元がFPSゲームだからか、航空戦力の発展は鈍い。
対空兵器はしっかりしているし、レガシーウェポンがあるせいで、個人が対空を行えてしまうからかもしれない。
理由は分からない。とにかく、ゲームと同じでそうなっている。それが、その事が、私にとってはプラスに働く。ただのゲーマーが全力で力を発揮できるのだ。
……私は自重は辞めた。
ノウレアに着くまでに、ルンドバードに蹂躙された村を何回もみた。磔にされた村人、弄ばれて殺された女性達、ただ遊びのためにナイフの的にされた人……
言葉にするのも憚られる悲惨な状況だった。人はこんなにも残酷なことができるのかと、私の常識は崩れさった。
私は私の護りたい人達のために全力で戦う。もう敵が可哀想などという考えは消えた。捕虜にどうこうするつもりはない。そんなことはしないし、させない。
だが、立ち塞がる者は容赦なく殺す。
そこにはもう迷いはなくなった。
だから………、ルンドバード軍には消えてもらう。
_________________
side:ワイリー
雰囲気が変わった。
俺はリリーナが戦闘モードになったのを感じとる。走り出したリリーナに続いて走る。リリーナ、俺、その後ろからもう一人。ウィル、19歳。それがノウレア第101分隊だ。
普段は年相応のテンションなのに、戦闘モードのリリーナは強者の威圧感というのだろうか?俺にはこの小さな女の子が敵に回ることが恐ろしい。味方でつくづく良かったと、もう何度目かも分からないが安堵する。前を走る小さなはずの背中はとても頼もしく感じた。
外縁区の地図はもう頭に入っている。最初にリリーナに叩き込まれたからな。リリーナのハンドサインに合わせながら隊は進む。
「路地から出たら階段を登っている敵兵へ即発砲する。発砲準備!!」
「発砲準備!!」
俺達は城門とは全く別の場所、城壁の南東側へとでる。路地から出ると俺の目にもなにが起きているのか分かる。敵兵は土属性魔法により城壁に階段を作り上げていた。
階段の最下段には土魔導師が塹壕から魔法を行使している。そして、それを上方から守る盾を持った兵士がいる。
ここから直接、土魔導師を撃つのは難しい。
「撃て!!」
今にも完成する階段を登っていた、無防備な敵を撃つ。こっちはハナからノウレアを防衛するには人数が足りていないんだ。門以外の防衛が後手に回るのは分かっていた。
「おし!何とか落としましたね!」
ウィルが嬉しそうに笑う。
「フッ!今に間に合わなくなるよ。そこからが本番だぞ!」
「ま、マジっすか!?」
「次に行く!付いてこい!」
「「はッ!」」
こんなにも凄い戦力差なのに、不思議と負ける気がしなかった。しかし、戦局はリリーナの言うように着実に押し込まれている。
南門から更に西、土の階段が掛けられ、ルンドバード兵が外縁区に足を踏み入れる。そこからは早い。俺達のリーダーはノウレア軍に即撤退の指示を出したのだ。
程なくしてドンッ!!と空気を震わす衝撃が走る。ノウレアの南門に爆弾が仕掛けられ、破壊された。その分厚い門は自重に耐えきれなくなり、崩れ落ちる。
「開いたぞ!!」
「いけ!いけ!!」
ルンドバード軍が次々と南門から坂道を駆け上がっていく。
「シンディ、撤退してポイントR6へ移動!」
「了解です」
リリーナが小声で指示を出す。そのすぐ後に敵軍の足音が聞こえる。俺達のいる民家のすぐ後ろだ。リリーナはまだ動かないのか?俺はいつでも動けるように準備しておく。コイツの指示に付いて行くのは大変だからな。
リリーナがスっと手を上げる。ほら来た。民家から外に出る。敵兵の数、6。
「撃て!」
〖敵が複数で全員こちらに気付いていない場合、ワイリーは左の敵を撃つ、ウィルは右、中央を私がやる〗
事前にリリーナが言っていたことだ。
俺は引き金を引く。アサルトライフル【レックス】のマズルから5.56mm弾が発射される。
左の敵兵を倒す。完全に背後を取っているおかげで敵は反応が鈍い。次も易々と倒せる。その頃には全て片付いていた。
……コイツ、あの短時間で3人倒したのか!?2秒もなかったはずだ。
コノヤロー、差を見せつけやがって。……不思議と嫌な感覚はなかった。
少しでも面白いと思って頂けれれば、
ブックマークやいいね評価等して頂けると、モチベーションも上がって非常に嬉しいです!




