61.ノウレア攻防戦
朝、今日もノウレアの街に日が昇る。
天候は晴れ。薄い雲が約半分の空を覆っている。
「敵軍動きあり、今日来ます!」
「そうだよねぇ。それじゃ、いっちょやりますか!
ブランドンさん。行ってきます!」
リリーナにブランドンと呼ばれたご老人は、杖を着きながら立ち上がり、深々と礼をする。
「皆を宜しくお願いします!」
「はい!」
ニコニコと笑顔でブランドンと応対したリリーナは、振り返りながら意識を戦闘モードへと切り替える。
そのせいだろうか。先程まで少女のように可愛らしく笑っていた顔は、威圧感を持ち、強者の、部隊を率いる者として覚悟の決まった顔であった。
そんなリリーナの正面にはノウレアの兵士たち300人余りが集まっていた。
彼らは軍服で統一されているが、よく見ると破けたり、ほつれなどを直したようなツギハギ跡が残る軍服を身につけている。
綺麗な服には見えない。しかし、ずっと戦って来たことは窺える。そんな格好だった。
真面目な顔でこちらを向いたリリーナが木箱の上に乗る。注目を集めたタイミングを測って、そばに立つクレアが号令を下す。
「全員!!傾注!!」
クレアの声は響き渡り、ノウレア兵全員リリーナの声を聞き逃さんとしていた。リリーナが大きく息を吸って、話し始める。
「今日は!分水嶺である!!今日の結果如何では、これまでの努力が水の泡だ!
だが!お前達はいつも通り動くだけでいい。それだけで我等の勝利は揺るがない!!緊張している者がいたら、背を叩け!周りを見ろ!お前達には仲間がいる。私達がいる!守りたいものがある!
目の前のやるべき事に集中しろ!!あとは私が勝利をくれてやる。
勝つぞ!!」
「「「「「おぉぉぉおおおお!!!!」」」」」
空気が割れる程の声が響いた。彼等の気力は高まり、気合い充分である。この街を文字通り死守しなければ、家族も友人もみんな殺されてしまうのだから……
その雄叫びは包囲した敵軍にまで届いていた。
数時間後、ルンドバード軍は容赦なく、城門へと攻め立てていた。
既に門が壊れている東門にはクレアがいる。
東門を通るとすぐ坂道である。20mある城壁の上の高さまで続く坂が敵軍の歩みを鈍くする。
クレアの周りの兵士たちはそこに銃撃を行っていた。それでもシールドを張った敵兵が門を通ろうと突撃してくる。数発でシールドは破れ倒れる。しかし、次々と突撃してくる敵兵に機関銃の無いノウレアは攻め込まれる。
「前回見てないの?可哀想に…」
そう言って門に手をかざす。すると門の両脇から土壁が出現する。高さは2mくらいの垂直の壁、そして分厚い。奥行きが3mくらいあるだろう。
クレアがそのまま勢いよく、両手を合わせるとそれに合わせて、土壁は両脇から一気に中央に向かって閉まる。
門を越えようとその間にいた敵兵は否応なく押し潰された。
壁に戻っていく土壁には押しつぶされた敵兵が付着している。ハエたたきに潰されたハエのように……
骨が砕け、肉から飛び出し、確認するまでもなく死んでいた。
圧殺である。
最前列で見た敵兵はそれ以上前に進むことができない。恐怖で1歩も動けない。
しかし、それはその光景を見た最前列付近だけである。門の為、狭くなった入口には敵兵が殺到している。
まだ何が起きたのか分かっていない後方はどんどん進んでいた。
案の定、最前列は押し出され、再び閉じられる土壁……
もはや土よりも岩という方が正しい重厚な塊に推し潰れる。
「リリーナも凄いこと思い付くわね……。皆!ここで減らせるだけ減らすよ!」
「「「はい!!」」」
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東門での惨劇を遠くから見つめる集団がいた。
シア達、イエロー部隊である。イエロー部隊はノウレアが見える位置となる山の麓にいる。
ノウレアは城塞都市である。1番外側にある第1城壁が街をぐるりと囲んでいる。その城壁の高さに外縁区と呼ばれる街並みが広がっているのだ。
ノウレアは外縁区の内側、もう一段同じように城壁がある。これが第2城壁である。
第2城壁の上にもまたその高さで中央区があるという、2段で高さがある街だ。
山を切り開いて作られた街は、その2段の城壁によって非常に堅牢である。
敵軍が攻城戦をしている様子を後ろから観察していた。
「これならこの戦力差でも防衛できそうですね!」
双眼鏡を下ろしたシアはホッと胸を撫で下ろす。
「クレアあんなことできたか?あんなに生成してたら魔力が持たないんじゃ?」
「それもだし、ENグレネードを使われたら止まっちまうぞ?」
「あ!?そうでしたね……まずいじゃないですか!?」
「そうなんだよ。確かにノウレアは堅牢だが、それが通じたのは前時代の戦争だ。門くらい爆発物で吹き飛ぶし…ほら、土魔法で階段を作られ始めてるぞ」
「だんだん押され始めているわね」
「そろそろ動くぞ。もう敵軍の意識がノウレアについた。ノード奪還作戦の報もまだ届いてないだろう」
イエロー部隊は動き出す。
ルンドバード軍の兵糧に爆薬をセットするのだ。如何に戦闘中といえど、兵糧庫と思しき天幕周辺には敵兵がいる。昨夜と同じく、ドロシーがサイレントステップでできる限り距離を縮める。
違うのは一緒にショーンがいることだ。
死角からショーンが毒投げナイフを投げると、巡回中の敵兵は、痛みに声を上げることすら出来ずに崩れ落ちる。
その身体にドロシーが触れた瞬間に、倒れる音すら消してしまう。
ルンドバードは知らない間に次々と巡視が消されていた。
(すごい。確実な連携で危なげなく倒してる)
シアはその様子をスコープ越しに見ていた。シアとフリードは彼等が離脱する時の援護だ。スナイパーとしてはるか後方から様子を伺っていた。
ステルスキルを積み重ね、テント内を物色した2人は爆薬をセットして逃げ出す。その後ろからは少し黒煙が上がっていた。
「火事だー!!!」
敵兵が気付いたときには、もう少しで藪の中に逃げ込めるところであった。
「撃て!」
フリードから発砲命令が下る。
シアは2人に気付いた敵から狙う。今の風向きは西から東へ、風速0.2m。距離600m。
シアとフリード、特務機関でもトップクラスのスナイパーである2人が外す距離ではなかった。
スパンっとヘッドショットを決める。倒れた敵は二度と起き上がることは無い。それほど正確無比な射撃だった。
「シア、もうOKだ。場所を変える。全員、今朝の地点に集合だ」
「「「了解」」」
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ルンドバード軍司令室テント内にはテーブルが広げられ、ノウレア周辺の地図がのせられていた。
「ここが焼かれた!?」
「はい、発見した敵は2名ですが、スナイパーと思われる援護があったようです!」
「多くても1分隊程度だろう!4分隊を追跡にまわして、始末させろ!!そ他の物資の警備を強化も忘れるな!」
「は!」
報告に来ていた兵が下がっていく。
「クソッタレめ!!」
ルンドバード指揮官のロベルトはいつにも増してイライラしていた。
ノウレアの制圧、それが自信に課せられた命令だ。前任者はどうなったか知らない。ただ本国の参謀室はこのような事許す訳がない。
ロベルトはこの戦力を与えられ失敗する訳には行かない。だが、引き継ぎの際の情報が不明瞭なことが気に食わない。
「何が全てバレているかのようだった…だ。使えない作戦だったのだろう。
今回は土魔導師も多く派遣してもらった。複数箇所から城壁を越えられれば奴らはひとたまりもないだろう」
故にロベルトに油断はなかった。
これであれば作戦がバレたところで、この戦力差、どうすることも出来ないだろう。
念には念をいれて土魔導師の護衛はロベルトの信頼する部下に任せてある。スパイが紛れていたとしても問題ない。
戦力差を活かした多方面の城壁攻略作戦は確実にノウレアに牙を向いていた。
※ゲームであった〖Hero of War 虹色の戦争〗におけるシールドはゲームモードにより、アイテム取得やキャラ毎のシールド量、そもそもシールド無しなどのパターンがありますが、発動はオートです。
ここでお気付きの方もいるかもですが、この世界の発動は任意です。本人が発動しない限り発動しません。
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