60.前夜
テレーズは会議が終わり、配備などを一通り指示して、デスクに戻ると通信が入っていることに気付く。
「ふっ、プライベート通信なんて珍しいじゃないか?」
「確かにこの形は久しぶりだな。最近忙しいせいだろ!?」
モニター越しに親しい雰囲気で会話をする仲の2人は所謂、幼なじみというやつだった。
「そうだな。要件はさっきの会議の話だな?」
「そうそう、テレーズがそんなに推すなんて、珍しいんだから、興味あるんだよね」
「クックック。映像を送ってやろう。驚くといい……」
「おぉ!?それは楽しみだなぁ」
「本当にノウレアにいるかは、賭けだがな」
「でも、参謀本部の新人の言う通り、今しか出来ないことだし。仮にいなくても充分にメリットのある作戦だ。僕はいいと思うけど…」
ガチャ
「長官!イエロー部隊から新たな情報が入りました!あッ!?すみません、通話中でしたか!?」
入室してきたのは、アリス秘書官だった。
「いい、大丈夫。聞かれても問題ない相手だ!そのまま話せ!」
テレーズは通話を繋げながら報告をするように促す。少し、困惑したアリスだったが、長官がそう言うのならと報告を始めた。
「そ、それでは。先程イエロー部隊から通信がありました。
ドロシー・ハミルトン大佐による敵地侵入による情報収集の結果です。
ノウレアのリーダーは黒髪の女性、身長は小柄で150cm弱程、赤っぽい迷彩服を着ているとのことです!」
「よし、リリーナの特徴と一致するな!」
状況からいると思われるだけで、少し不安だったテレーズはその情報に安堵する。
「はい!それと左目に眼帯をつけているそうで、ルンドバード兵からは隻眼の死神や死神などと呼ばれているそうです」
「隻眼?戦闘で怪我でもしたか……」
「おそらくは……目撃者はことごとく殺されているそうで、ノウレアでの戦闘経験者からはかなり恐れられているようです。遠方からの目撃しかない状態のようです。近くには赤髪の女性もいたとのことなので、それがクレアさんかと。
また、敵兵にはネームド:【ライトニング】が参戦するそうです」
「ライトニングか……、先程出発したメンバーにも共有しておけよ」
「はいッ!それでは一旦失礼します」
アリスが長官室から外に出ると、通話越しに聞いていた人物が早速話し始めた。
「まずは生きているようで良かったね。しかし、死神か、敵に付けられる名前としては最高だね」
「この5年で相当暴れていたようだな」
「そうみたいだね。無事に合流出来たら是非とも会ってみたいね。
あ、そうそう、でも良かったの?ノウレアへの援軍はほとんど特務機関のメンバーしか出せないけど……」
「仕方がないだろう。なに、ノードを奪還するまでノウレアを防衛すればこちらの勝ちだ。ノード奪還作戦の人員を減らし過ぎる訳にも行かないだろう」
アルステリア軍の作戦はノードへ主力部隊を投入し、ノウレアへは少数の援軍を送り、時間を稼ぐというものであった。
ノウレアへの援軍は特務機関所属の隊員、約100名と第1兵団所属の隊員500名である。
ノウレアを囲む敵兵約10,000人を相手にするには、戦力差があった。
「はぁ、僕は平和に過ごしたいのに。ルンドバードもメラリアも……気が滅入るね」
「はん!お前は強気でいけ!強気で!
お前はそんなんだから舐められるんだぞ、ヴァンリ」
「ははッ。君は全く変わらないね。うん、頑張るよ!話せて良かった。またね、テレーズ」
「あぁ、頑張れよ、ヴァンリ」
そこで通話を切るテレーズ。
「優しいお前の代わりに私が露払いをしてやるから……」
ボソリと暗くなったモニターに呟いたテレーズは優しい顔をしていた。
ドアを1枚挟んだ廊下。そこには先程出ていったアリス秘書官と髭を撫でているジェフ秘書官が様子を伺っていた。
「ジェフさんジェフさん、長官はなんて!?」
キラキラした瞳でジェフに詰め寄るアリス。
「お前の代わりに私が露払いしてやると……」
ドアはしっかりと閉じられているが、目を閉じてすました顔をしているジェフには聞こえているようだった。
「キャー、それでそれで、お相手はなんと!?」
「………んん?聞き逃した?……いや、返答がない?」
「えー!!こんなロマンチックなこと言ってるのに、無視なんですか!?」
「まさか!?……どうやら通話を切ったようですね」
「ウソッ!?そんな!長官……なんて切ないことしてるんですか……」
顔を顰めたアリスはもはや泣きそう。いや、泣いていた。
「私も長年仕えていますが、恋愛は奥手で不器用なままですね。今や叶わぬ恋ですか……」
「長官の気持ちだけでも伝えても良いと思うんですけどね」
「伝わっていると思いますがね…」
「私は直接伝えて欲しいんですよ!見ていてこっちが辛いです」
「そうですねぇ。私はそんなテレーズ長官のサポートを全力でやるだけです」
「わ、私もそうです!じゃ、通信室に行ってきますね」
「はい、お気を付けて」
_____________
「リーダー、敵さん本気攻めてきますぜ」
グラスを片手に持った赤い短髪の男が、城壁近くにいる人物に歩み寄り、話しかける。
「そうだねー。今回は皆にも頑張って貰わないと行けないね。あとはナウ〇カ作戦次第かな……」
「大変そうだ。それにしても、な〇しか?作戦ってのは、ちょっと発音しにくいな」
「それはあの時のノリで決まったと言うかなんと言うか……ま、まぁ、そこはそういう策ってことで気にしないで!」
辺りはすっかり暗くなり、ほんのりと月明かりに照らされている。城壁の上からは、敵軍のキャンプによる明かりが点々と見えていた。
「こうして見ると、星空みたいに綺麗なのにね」
ここからの見る景色は夜空に広がる星々の輝きと、眼下に広がる明かりは確かに似ていた。
「この状況下で、そんな呑気なこと言えるのは、リリーくらいなものだ」
そう言いながら、リリーナに飲み物を渡す。以前より髪が長く伸び、後ろ低めに束ねた、シンディ・レインが2人に合流する。
「みんなも落ち着いてるじゃん?ワイリーだって、前ならオシッコチビってたのに」
クックックと楽しそうに、ワイリーの背中を叩く。
「しょ、しょうがねぇじゃねぇか!15で初陣だぞ!?って、クソッ!お前に言ってもな……
言っておくがお前がおかしいんだからな!」
「えー、こんなか弱いレディに向かって、失礼な」
「本当にか弱いレディはそんなこと言わないんだよ」
「ほほぅ、ワイリーはか弱いレディが好きなんだ」
「俺はやっぱり、惚れた女は守ってやりたいって思うよんだよなぁ」
「ハハーン!!ズバリ!同級生だったクラレ先輩だな」
「うッ…なっなんで!?…」
ワイリーは言葉を詰まらせながら答える。その顔はほんのり赤く、手に持つお酒の影響だけじゃないだろう。
「あ、図星だった」
「図星だな」
リリーナとシンディは何故かグラスを合わせて乾杯している。
「なになに?私も混ぜてよ」
クレアも話がひと段落したようで、こちらに近付いてくる。
「クレアさん聞いてください。ワイリーの好きな人について!」
「ちょっ!リリーナ!やめろォ!」
捕まえにかかるワイリーを、ヒラリと躱して、背後に回る。ワイリーを羽交い締めにし……身長差があるので、リリーナの足はワイリーの腰に回されて固定しているが……
ワイリーは手が出ない。
「何それ!気になるわね」
「なんと、同級生の人なんです。無事に再開したら、告白するんです!!」
「ちょ!?おい!?勝手に決めるな!フラグだろ!?人の死亡フラグを立てるんじゃない!!」
「クックック、残念ですね。惜しい人をなくしました……」
「くそっ!コイツ!!」
ワイリーが必死で引き剥がそうとするが、後ろから腕をリリーナにロックされてバタバタと動くしかできなかった。
「まぁまぁ、落ち着きなさい。リリーナもみんなの緊張をほぐそうとしているのですよ」
先程までクレアと話していた、ご老人もこちらに来てフォローしてくれる。
周囲を見渡すと、武装した兵達があちらこちらから、リリーナ達を見ていた。その表情は確かに少しばかり緊張しているようだった。
「あ……そうなんです。だから、大人しく犠牲になってください」
「絶対、今気付いただろ!?」
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