5.気付き
母さんが撃たれ、父さんも撃たれた……
その事実が頭に浸透した時、私はあまりの怒りに、感情の爆発に、声がうまく出ない。
「あ、ぁあ」
身体が一瞬で熱くなり、感情が昂り過ぎて涙がどっと出てくる。
反射的に父さんが見た左奥をみた。かなり遠いけど、人が1人いる。アイツだ!
エンド…
前世の知識と合致する。
奴のスペシャルスキルはアヴェンジャーという超高威力のスナイパーライフルである。
ゲームだとシールド無視で手足の…肘や膝より先以外は1キル確定という高威力設定のものだ。
「下がれ!!」
ザックさんが叫び、私を抱き上げたまま建物の影に引き返す。
ドン!!
大きな音をたてて直ぐそばの床タイルが弾け飛ぶ。近くの壁を貫通して着弾したようだ。
「もっとだ!物陰に!」
焦ったザックさんが更に建物に入る。
……それでも、それでも私は奴を見る。
……絶対に許さない。私が殺してやる。
奴は諦めたのか遠ざかっていく。絶対に逃がさないからな…
なんで2人が!?
くそ!くそ!!
エンディングシーンはこうじゃなかったはずだ!
玄関の方を見ると、車両のそばで倒れた母さんと父さんから大量の血が流れている。
「あ、あ゙あ゙ぅ」
声にならない。
悲しみ…怒り…憤り…
もう感情が溢れてぐちゃぐちゃだった。
なんでこんなことに。
私の見た光景はあくまでエンディングのムービーだったはずだ。
それまでプレイヤーが操作しているのはレッドイーグルである父さんだ。
父さんとしてミッションをクリアしていくんだ。父さんが母さんを救出して、奴を倒し…て……
あ、あれ!?
私がいなければ……
….....私が怪我をしなければ父さん達は直ぐにエンドを追うことができたんじゃ…?
それなら追いついて倒せていた?辻褄はあう…
私の…せい……?
「え、ぁ…」
そもそも私って存在はいたんだっけ……
一気に血の気が引いていく。
そんな……私………
私はここで意識を手放した。
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夜の帳がおり、既に皆が家庭に帰って思い思いに過ごすころ。
巨大な施設の一室、ここには未だ明かりが灯っている。
部屋の奥に鎮座する大きなデスクには胸まである艶のある金髪を無造作にかき上げ落胆する女性が座っていた。
手で払われた髪は重力に従い、その豊満な胸へと戻ってくる。
当の本人は悔しさを滲ませ、怒りで歯を食いしばっているが、その顔は整っていることがわかる。
「……それで別部隊と追跡を交代する隙を狙われた形か」
「はい、そうなります…」
副隊長であるザックは今日の明け方にあった出来事を細かく報告した所だった。
ここはアルステリア帝国の北部にある、国内でも最大規模の軍事施設、ノーステリア基地。レッド部隊であるザックの本拠地である。
この巨大な施設の中でも上位に位置するこの部屋の主、特務部隊長官であるテレーズ・アルノー長官はコーヒーを飲み、気持ちを落ち着かせているようだった。
「ふぅぅー、報告は分かった。体制の見直しが必要だな。
しかし、あのシルヴァンが……
いや、狙いはマリー博士…………
はぁ、感情論だけじゃなく、アルステリアとしてもかなりの痛手だぞ」
この世界の情勢は安定しているとは言えなかった。アルステリア帝国も西に隣接するメラリア共和国との関係は良くない。
いつ本格的な戦闘となるかわからない状態だった。
「ヴァンリ様は次世代の育成にも力を入れる方針で、軍学校の人員を増員するそうだ。
…さっきの話だが、シルヴァンの娘がレッドアイを継承しているのは確定か?」
「えぇ、隊長達が倒れた時、俺が抱えていたんで間違いないっす。
隊長と同じく紅く光ってました。屋内に入った後も壁を通して奴を見ているかのように、ジッと睨んでたんで。」
「そうか。なおのこと軍学校に推薦したい所だが...
こんなことがあった手前どう思っているかだな」
「今はまだ目が覚めてないのでそれは何とも…
あの、それも含めて今後の事なんすがね、隊長達って親族いないじゃないっすか。リリー、いや、リリーナ・ランドルフは俺が引き取りたいんす」
……戻ってくる時からずっと考えていた。隊長には入隊の頃から世話になっていた。命を救われた事だって1度や2度じゃない。
歳は対して1つしか変わらないが何年経っても一緒に仕事して、馬鹿やって楽しく過ごすもんだと思っていた。
あんな強かった隊長が死ぬなんて考えられなかった…
でも、死んじまった。
マリーさんまで…
俺のせいだ...
リリー、1人になっちまった。リリーが1番辛いだろう。
俺が傍にいなきゃなんねぇ。もうリリーの知ってる人なんて俺たち家族しかいねぇんだ。俺達と一緒に暮らそう。隊長達の分まで……
それしか返せるものがねぇ.....
なんでもリリーのためにできることをするしかねぇんだ。
「……分かった。シルヴァンの娘だ。こちらでも最大限配慮しよう。軍部としてだけじゃなく、私個人としても力になりたい。何かあったら言ってくれ」
「ありがとうございます。
…………………もしかして、長官って隊長のこと好きだったんすか?」
「はぁ、お前は何故そうなる!?お前は馬鹿じゃなかったはずだが、何故いつも急にアホになるのか…」
おかしい、本気でそう思ったんだけど違ったか。
隊長達が死んだ時に、俺だって冗談を言うつもりはなかったんだが。
「まぁ、とりあえずだ。レッド部隊は1週間休息だ。あとリリーナだな。治療院にお前の妻も入室許可だすから、フォローよろしく頼むぞ!」
「っ!分かりました!」
よし!、まずリサを呼んで、事情を説明しないと。
「あ、長官、うちの娘の入室許可もお願いしまっす」
「分かった分かった!同い年だったか、その方がいいだろう。出しておく」
「あざっす!」
急ごう!リリーが起きる前にいないと寂しいだろうしな。
「気が回るのか回らないのか未だによく分からんな」
ボソッと言った長官の声はよく聞こえなかった。
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