58.見えてきた状況
「なんだよ、これ」
ショーンは思わず口から言葉をこぼす。しかし、4人全員が同じ気持ちだった。
森を歩き突き進むこと、3日目の昼。予定通りシア達一行は北西の都市、ノウレアにたどり着いた。
5年前、エーテルノヴァにより通信障害が発生し、手前の都市、ノードが奪われたことで、状況が分からなくなっていたノウレア。
その都市が今、4人の眼前に広がっている。
しかし、この光景を理解するのに時間がかかってしまったのは、しょうがないことだった。
元々、北はルンドバード連邦国、西はメラリア共和国となっている。アルステリア帝国の最前線防衛拠点となるノウレアは強固な城壁に囲まれていた。
今はその城壁を囲うようにルンドバード軍の車両が隊列を組んでいた。
「こ、これ、攻城戦ですかね?」
「そうなだねぇ」
「……戦闘はまだ始まってないようだな。奴らも基準値を下回ったから、本格的に攻略しようってところか」
「この間の車両は裏通りを抑えるためだったようだな」
「こ、こんなの、ノウレアもいつまでも持たないですよ……」
「そうだな。だが、これでノウレアがまだ抵抗してることが確定だ。ショーン、通信準備だ」
「りょーかいっす!」
遠隔通信システムを準備して、ノーステリアへ通信する。薄れたエーテルのおかげで問題なく通信が繋がる。
「…ザザッ……承知しました。至急、会議を開きます。イエロー部隊は待機してください」
「了解した」
敵軍と距離を開けて監視する。予定では撤退だった。しかし……
「なんとか援護したいけどな」
「撤退して、また来るまでなんて……」
「今までは多分、本格的な進行なかったんだろうからね」
「……ひとまず、敵戦力の情報収集を行う。行くぞ」
「「「はいッ」」」
バレないように、敵軍の後方、十分に距離を開けて監視する。
敵軍はノウレアに続く東と南に伸びた街道に4000づつ、北と西にも2000。約1万の敵兵に包囲されている。装甲車両が多い。
そして、ノウレアの城壁は遠くから確認するよりも、かなりボロボロであった。砲弾を受け、そこら中に穴が空いている。
東の城門は既に無くなっている。本来そこにハマるべき門は砕かれ、横に倒されていたのだ。
穴の開けられた城壁は補修のあとも見受けられる。新たに土属性魔法で造られたと思われる壁も散見された。
その光景は息を呑むには十分だった。それを一目見ただけで、どれだけ襲撃と撃退が繰り返されたのか、想像に難しくない。
「ッ……」
「ッ!?これって……」
「あぁ、昨日今日の話じゃない。ずっと戦ってきた跡だね」
「1度戻るぞ。本部へ連絡する」
(フリード:5年間ずっと戦ってたのか?援軍もなく?四方を敵に囲われてるんだそ?)
最初に通信した場所まで戻ってくる。安全を確保した上でノーステリアに改めて連絡するのだ。4人ともこのまま退却するという選択をする気は既に無くなっていた。見て回る以前より、より強く。そう思っていたのだ。
「……本部、ノウレアは限界だ。一刻も早く援軍を送らなければならない!」
「……ショーン、ちょっと変わってくれ」
フリードはショーンから無線を借りる。当のフリードは力強く拳を握っていた。
「こちらイエロー部隊フリードだ。テレーズ長官に変わってくれないか」
「わ、分かりました!!…ザザッ………」
「変わったぞ!私だ。フリード…それほどか?」
「長官……
…彼らはこの5年間、ずっとこの地で戦っていた。俺達への、ノーステリアやウエストテリアへの攻勢が落ち着いていたのは彼等がまだ戦っていたからじゃないですか?」
「……」
ノウレアの敵軍を相手にするのには、本隊が行かねばならなかった。それはつまり敵軍の拠点、ノードのすぐ側を抜けて行かなければならいないということ。ノードも抑えなければ、まともに援軍も送れない立地だった。テレーズも援軍を即答することは難しい。
「今この瞬間、ノウレアは敵軍約1万に完全に包囲されている。今、助けないとノウレアにいる者たちが全滅する。
それと………ノウレアにクレアにいる」
「「え?」」「ッ!?」
「本当か!?」
「えぇ、ノウレアにあった土魔法の壁。アレは何度もみたクレアの土魔法です。アイツは射撃用に左右の角に窪みを作る」
「それだけでクレアさんだと分かるんですか?」
ショーンは疑問を抱く。当然だ。窪みであればそう難しいことじゃないはずなのだ。
「あぁ、なんせ、全ての壁に付いていた。アイツは壁の練習をし過ぎたせいで、窪みの無い壁より窪みをつけた壁の方が生成速度が早いんだ。だから常に窪みの付いた壁しか造らない」
ショーンも古くからの特務機関メンバーであるが、レッド部隊所属ではなかった。そこまでの癖は把握していなかったのだ。
「………分かった。軍の方はなんとかする。お前たちイエロー部隊に新たな任務を言い渡す。ノウレアの人々を守れ。現場判断での作戦許可する。新たな情報があれば逐次連絡しろ!
……死ぬことは許さん!いいな!!」
「「「はッ!」」」
___________
敵軍は数が多く足並みを揃えるために侵攻は明日からのようだった。日が沈んでゆき夜の帳が落ち始める。
「ドロシー頼んだぞ」
「得意分野よ」
明るいうちに確認していた他の場所よりも大きく、だが少し色褪せたテントを発見していた。
そこはルンドバード軍の医療拠点となっていた。大規模な戦闘は明日だがそれでも5年間も戦地となっており多くの人の出入りがあった。
ドロシーは音を消し、テントへ侵入、敵軍の服を奪い溶け込む。ドロシーが奪ったのは白衣。医療関係者に紛れ情報収集を行うのだ。
「あら、貴方足は大丈夫?」
ドロシーは脚を引きずって歩く兵士に話しかける。年の頃は20代くらいの若い兵士だ。
「あッ!?だ、だだダイジョウブです。」
その兵士は怯えた様子でヘコヘコと顔を下げて返事をする。
「良かったらお話を聞かせて貰える?私セラピーの免許もあるの。貴方が感じたこと私にも教えてくれるといくらか楽になれると思うわ」
「あッ!?…は、は、は、いッ……」
呂律が回っていない兵士は言われるがまま、ドロシーと会話する。
_______________
しばらくして、ドロシーが戻ってくる。
「ドロシーさん。無事で良かったです」
「あら。シアちゃんありがと」
「収穫はあったのか?」
「そうね、何から話そうかしら」
「まぁ、まずはゆっくり座って休憩するんだ。ほら水だ」
「ありがとう」
ショーンから水を受け取るドロシーは、よく見ると額に汗を滲ませ、疲労感がわかる。慣れているとはいえ、敵地での潜入はいつだって神経をすり減らしていた。
「フリードさん。らしくないですぜ。気持ちは分かりますが焦りが出てるっすよ。冷静に……」
ショーンに焦っていることを指摘される。フリードは目を見開くと、目を閉じて深呼吸を始めた。
ゆっくりと大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。数回繰り返すと顔を両手で叩く。
「すまんな。ちょっと熱くなっていた」
「しょうがないッス。クレアさんがいるかもしれないんすから」
「フリードさんとクレアさんはそのー…」
シアはおずおずと聞くが、興味には勝てなかったようだ。
「あぁ、クレアは俺の妻だ」
「そ、それはしょうがないですね!」
「シアちゃん随分嬉しそうね。そうゆう話が好きなの?」
「えぇ、まぁ。それにクウィントンからノウレアに来ている兵士がいるってことは、リリちゃんもいるかも知れませんから」
「みんな興味津々よね。それじゃあ、報告させてもらうわ。まず始めに、ノウレアのアルステリア軍の指揮官は隻眼の死神と呼ばれているそうです」
少しでも面白いと思って頂けれれば、
ブックマークやいいね評価等して頂けると、モチベーションも上がって非常に嬉しいです!




