56.初任務
「前方、1.5km先、敵車両発見。敵兵4人」
私達は任務のため、ノーステリアを出発した。ここはノーステリアと北西にあるノードの街の間にある、草原地帯。
現在、アルステリア帝国とルンドバード連邦国との最前線である。
私達はノードの街を迂回してその先にある、ノウレアの街を目指す。その他、周辺には複数の村はあるが、アルステリア側は避難し、ルンドバードに奪われた村落は壊滅しているのが発見されている。
街道には当然の事く敵兵が見回りを行っていた。
「やっぱりいましたね」
偵察に出ていた、ドロシーさんが戻ってきて報告する。ドロシーさんは比較的軽装であり、動きやすさを意識した装備をしている。
また、美人でスタイルも良く、長い髪は後ろで結ばれ首筋から背中の服の中へ入っていた。多分、戦闘中邪魔にならないようにだろう。
「このままいくか?」
ショーンさんがフリードさんに問う。ショーンさんはかなりナイフの付いたベストを着ており、少し禍々しい。
「少し突入地点をズラすが、プランAのままだ」
それを受け、隊長のフリードさんが答える。
今回のメンバーはこの3名に私を加えた4人で行われる。
バレないようにこの最前線を超えてノウレアに行くのだ。
両軍は草原地帯を挟んで睨み合っているが、少数なら迂回して森を抜けて移動できる。私達はその予定だが、それを警戒して敵の見回りもいるということだ。
斥候担当のドロシーさんを戦闘にフリードさん、私、ショーンさんの順で森を進む。
「ドロシー、ここでもう一度偵察を頼む」
「オッケーです」
一旦私達は窪みに隠れ、ドロシーさんが先行していく。私達と先程の敵兵との距離は700m程まで近付いていた。
まだバレていないが、ここからは更に慎重にならなければならないたろう。
「どうやら、変な気負いは無いようだな」
フリードさんが私に尋ねてくる。パパのことだろうか。特務機関での初任務だからだろうか。
いづれにしても、みんなと話せたから、気持ちの整理は出来ている。
「あ、はい。大丈夫です」
「森林内での射撃経験はあるか?」
「昨年までクウィントン方面の担当でしたので問題ありません」
「よし、状況によっては援護射撃してもらうからな」
「はい!」
フリードさんは長い間パパと肩を並べて戦闘していたと聞いている。無愛想だって話だったけど、口数が少ないだけで、気にかけてくれているようだ。
「シアちゃんはザックさんの娘なんだよな?もっと筋骨隆々な子を想像してたわ」
ショーンさんだけでなく、パパを知ってる人からはよく言われる感想だ。
「ははッ、よく言われるんですよね……」
「やっぱり?まぁ、なんだ。俺の娘も同世代だから、是非とも仲良くやってほしい」
「アグノラさんですね。もちろんです。軍学校時代からお話させて頂いてますから」
「お!?そうだったか!そりゃ良かった。あいつあんまり話してくれないんだよ」
「そりゃ、オヤジとは話したくないんじゃないか?」
「反抗期なんかなぁ……スキルについてとか、戦闘面話しかしてくれないんだ」
「そうなんですか?普段は優しくて、良くしてくれますよ」
「そうなのか?っと、今度ゆっくり聞かせてくれ」
「私抜きで盛り上がってたんですかぁ?」
ドロシーさんが偵察から戻ってきた。ドロシーさんの年齢が分からない。美人でもあり、可愛くもあり若く見える。
だけど、肩書は大佐である。今回の2人には敬語ではあるが、私が元いた部隊の先輩達から憧れのお姉さんとして、聞いたことがある。
「シアちゃんどうしたの?そんなに私を見て、あぁ!いいわよ。抱きしめてあげる。緊張してるわよね」
そう言って私はドロシーさんに抱きしめられる。
「あ、いや……だ、大丈夫です」
す、凄い。胸だ!ミシェルといい勝負している。
「ほら、新人が落ち着いたところで。ドロシー、どうだった?」
「そうですね。まず、敵はここから700m地点に4人。そこから300mくらい後方にもう4人を確認。後は確認できないですね」
「了解だ、もう少し進んで奥の4人から排除する」
「シア、合図したら向かって右の2人をやれ」
「はい」
奥の敵から700m地点。手前の敵とは500mの距離。
私とフリードさんは銃を構える。
構える銃はスナイパーライフル【ケントロ】。有効射程は他のスナイパーと比較的すると長い訳じゃない。でもこの銃はセミオート式。つまり、ボルトアクション式と違って、連射ができるんだ。
私は700m先の4人のうち、右から2番目、焚き火を見ている敵に照準を合わせる。
大きく息を吸って……息を止める。
「3、2、1、今!」
パスッとサイレンサーをつけて、消音された発砲音がなり、焚き火を見ていた男は頭に風穴を開ける。
間髪入れずに、1番右の森を見ていた兵士に発砲。同じくパスッとした乾いた音と共に、敵兵は倒れた。
「お見事」
「ありがとうございます」
フリードさんも左の敵兵2人を倒していた。私はスナイパーをメインにたくさん訓練してようやくだって言うのに、フリードさんはなんでも高レベルにこなす。
手前の敵兵4人を確認する。
「凄い…」
私が見た時には既にショーンさんが敵車両の前に立っており、敵兵は倒れていた。
敵兵は口から泡吹いている。
……毒。
一瞬にして音もなく倒したようだ。私が見た時から敵の立ち位置が変わっていない。
ショーン・ウォルマン大佐
別名は【絶命】
これがネームドの実力なんだ。
初めてネームドの強さを体感し、鳥肌が立つ。私も頑張らないと。
「シア、俺達も行くぞ」
「ッ!はい!」
先程と同じ隊列で森を進む。私達が倒した敵はいづれ見つかる。それまでに進んでおきたいところだ。
幸い先程の地点からはかなり距離が稼げた。私達は徒歩のため移動速度はあまり早くない。しかし、山中のためそれは敵も同じようなものだろう。
「よし、今日はここで一旦、大休憩を挟む」
「はい」
「りょーかい」
フリードさんが右腕つけた装置を確認している。時計は左腕につけており、アレは違うもの。
「ここもエーテルの濃度が基準値以下になっている。もう全域が基準値以下になってそうだな」
出撃前に渡されたエーテル測定器。基準値を下回っていれば能力が使用可能となる。これでノードの北側も基準値以下になっていることが確認出来た。
ノウレアの状況がわかり次第ノーステリアに連絡を取ることが可能だ。
「フゥ〜、まずは関門突破かしら?」
「そうだな。分かっていた難所は超えただろう」
「ここからは未知の地帯…か」
5年前、ノードの街を奪われてから、この地域は通信障害も相まって、状況が分かっていない。
だからこその今回の任務だが、私達は気を弛めることは出来なかった。
日が沈んだが、火は起こせない。窪みに4人座り、持ってきた携帯食料を食べる。
「たまに食べるだけなら、美味しいのだけれど……」
「昔は食べるのも嫌な味だったって聞く。これはマシなんだろうぜ!…と思ってる」
「1食なら美味しいですが、ずっとこれだと思うと確かに……」
この携帯食料、バータイプでチョコレート味である。クッキーのような感じだが、口の水分を持っていかれる。普通に美味しいが、これから毎食、いつまで食べることになるか分からない。
1週間分あるけど、どうなるかな。
「しッ!!」
フリードさんが合図する。
「「「ッ!?」」」
全員伏せて身を隠し様子を伺う。
暗くなった森の中、明かりが通る。それなりに遠いようだが、向こうに道があるのだろう。1台だけじゃない、複数の車両が通り過ぎていった。
「どうやら行ったようだが……」
フリードさんは地図を取り出し、広げる。
「俺たちは今この辺り。恐らく先程の車両はこの道路を通って北の方向に向かったんだろう」
「てぇと、この先は……ノウレア!?」
「でも、ルンドバードならノードから直接伸びてるこの道を行くはずよね?」
「俺たちはルンドバードを避けて迂回している。何故ルンドバードも迂回してノウレアに?」
「一体、何が起きているんでしょうか?」
※エーテル:魔力と通信に障害を及ぼす物質。見つかって日が浅く、詳細は研究中である。
スナイパーライフル【ケントロ】≒SVD_ドラグノフ
見た目などはこちらのイメージで。但し、あくまでも性能はゲーム〖Hero of War 虹色の戦争〗を元となっており、実銃とは必ずしも同じではありません。
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