54.あれから
ここから第2章が始まります。第1章は「成長」といったテーマでした。
さて、長い前置きはいらないと思うので、引き続きよろしくお願い致します。
クウィントンの悲劇から5年の月日が流れた。
私、シア・フリードもいつの間にか、18歳になった。
先日、特務機関よりスカウトを頂き、今日から特務機関が所属先となるわけだ。
現状、アルステリア帝国は北に位置するルンドバード連邦国と西に位置するメラリア共和国との2局面戦争を継続している。
メラリアに一番近い、アルステリアで最も西にある大きな街、レストデーンも、エーテルノヴァを使用されクウィントン同様奪われた。
結果、各方面軍に大打撃を受けたアルステリアは、そこを起点に進行を受け、今では北はノーステリア、西はウエストテリアが現在の防衛拠点である。
つまり、アルステリアは北西の外縁部の領土を根こそぎ奪われた形となっていた。
この5年、敵の侵攻を食い止めるのが精一杯で、奪還作戦すら行えておらず、体制を立て直すのに時間がかかっている。
あの日、戦局を決定付けた、エーテルノヴァはメラリアが攻め込んできたレストデーンでも使用された。そのまま、北西の都市襲撃では使用され続け、奪われた。わずか数ヶ月の出来事である。
しかし、それ以来使用されていない。
わかったのだ。魔力阻害効果がいつまで経っても戻らないことに。
敵国も占領後、こんな長い期間、魔力が使えない事態は想定していなかったようで、使用を控えていると思われる。また、クウィントンの脱出兵より、敵車両の情報が寄せられた。そこからさらに鹵獲出来たことで、研究が進み、奴らのアドバンテージが薄れたこともあるようだ。
ただ、以前能力の封じ込めには使えるため、ノーステリアやウエストテリアの戦闘では、小型のENグレネードが使われる。直径10mほどの効果範囲を持ち、効果時間は1日程度となっている。数は多くないが、注意が必要である。
アルステリアは多くの兵を失ったが、堅牢なノーステリア、ウエストテリアの防壁のお陰で侵攻を防いでいた。また、敵は占領区の地盤を整えることに時間を要しており、小競り合いは多数あるが、戦況は硬直しているのだった。
私はこの5年、ずっと心残りがある。
あの時、リリちゃんと一緒に残ることが出来なかったことだ。
実力が足りなかった。残っても足手まといだった。リリちゃんの求めるレベルに達していなかったのだ。
悔しくて、悲しくて、泣きながらクウィントンから脱出した。
あれからリリちゃんは帰ってこない……
パパも帰ってこない……
クウィントンの悲劇では、アルステリア軍は壊滅的な被害を受けた。戦闘部隊の生き残りは1割もいないそうだ。
あの時……
敵の戦闘ヘリを倒した時、リリちゃんは笑っていなかった。
あの、いつも楽しそうにしてたリリちゃんがだ。
きっと、あの状況を理解していたんだ。
私は全部終わってから、あの時が如何に切羽詰まった状況だったのかを理解した。
それを踏まえて、私がもっと強ければリリーちゃんの助けになれたはず。
あの日、リリちゃん達の遅延戦闘がなければ、私達は逃げられなかった。と検証結果が出たことを聞いている。
パパにもリリちゃんにも、私はいつも護られてばかり。
今度は、リリちゃんの横に立って、役に立ちたい。そう思って訓練してきた。
リリちゃんもパパも絶対生きてる。
……そう信じてる。
今日は配属初日ということで、特務機関、長官室に呼ばれている。
「さ、流石に、緊張するな」
「とりあえず、深呼吸だ。すーふぅ〜、すーふぅ〜」
隣にいるのはイーノスとロブ。緊張していた私もこの2人も一緒であることが心強い。
「特務機関…本当に俺達が…」
「僕はこの扉を見てやっと実感が湧いてきたよ」
「ほら、いくよ!」
後ろから2人の背中をドンと叩き先に進む。
きっと、リリちゃんならそうする。
入室した長官室は広い。
重厚なデスクが鎮座し、上には書類とPC。その手前には応接用のソファとテーブルがある。
その隣にも一回り小さいが、それでも大きいデスクが2つあるが、そちらも誰もいなかった。
「あれ?いない?」
「少し早いけど時間はあってる……ね」
戸惑っていると、ガチャ、とドアが開いて女性が出てくる。茶髪を左に結んでおり、書類を片手に抱えていた。以前、見た事がある。確か長官の秘書だったはず。
「あ、来たね!こっち、着いてきて」
秘書官の人に連れられ、左の扉に進む。こっちは会議室のようだった。
楕円型の円卓は10名程が座れるくらい。席には分かる範囲だと長官とフリードさん、それにラリー先生……いや、もう軍学校の先生ではないか。ラリー中佐が座っている。
知らない面々も階級章はもれなく高い。
奥の壁いっぱいの大きなモニターには【特務機関 任命式】の文字が表示されていた。
「し、失礼します!」
「「失礼します」」
私に続き、2人も入ってくる。
「お!きたな。ふふっ、緊張がありありと顔に出てるな」
「しょうがないですよ。みんな、久しぶりだね。長官は気さくな人だから大丈夫だよ。
まぁ、すぐには慣れないだろうけど」
「堅苦しいのは好かん。やってしまうぞ。ロブ・フリップ、こちらへ」
ロブが呼ばれ、長官の前にいく。秘書官から紙を受け取って、渡していた。
「ロブ・フリップ中尉!本日付で特務機関へ配属とする。また、ロブ・フリップ中尉を大尉へ昇級とする」
「ありがとうございます!」
長官から人事を受け取ったロブは嬉しそうだ。
特務機関は通常の部隊より権威が大きい。基本的に他部隊よりも階級が高く設定されている。
緊急時に他の部隊を率いることもあるのだ。
「同じく、イーノス・ストゥーキー大尉!貴官を特務機関へ配属、少佐昇級とする」
「はっ!ありがとうございます!」
次はいよいよ私の番。
「同じく、シア・フォーデン大尉!貴官を特務機関へ配属、少佐へ昇級とする」
「ありがとうございます」
これで念願だったパパと同じ所属だ。しかも、なにか新情報があれば入ってきやすくなったはず。
「シア、久しぶりだな」
「お久しぶりです、長官」
私が長官に会うのは5年ぶり、前回はクウィントンでの出来事を長官に直接聞かれたんだ。
「以前の部隊でも頑張っていたようだな」
「はい、早く戦力になりたくて」
「ふふっその意気だ。任命式は以上で終了だが、シアにも伝えたい情報がある。このまま会議に参加するように」
「はいッ!」
私達は円卓、ではなく、仮説の机をモニターと反対側に置かれた部分に座る。
「では、これは以前にも伝えた情報だが、近年エーテル粒子の濃度が薄くなっているが、長距離通信が回復しつつあり、ある程度連絡が可能になった。
また、同じく能力がわずかだが使えるとの報告も上がっている。奪還作戦も近いだろう」
「おぉ!ついに能力も!」「ようやくですか」
やっぱり特務機関はすごい。情報の最先端だ。そこまで来ているんだ。
「長距離通信が回復しつつあるお陰でこれまで謎だった部分が少し見えてきた。
敵国に奪われたと思われていた北西の都市、ノウレアが抵抗を続けていたのだ」
「は!?」
「本当ですか!?」
みんな驚いている。
それもそうだろう。【ノウレア】はアルステリア北西にある都市だ。アルステリアの領土を四角形とすれば、最も北西方向の角にある街である。
ノウレアの1つ内側の街、【ノード】は、クウィントンの悲劇から2ヶ月でバンドルード連邦国に奪われており、敵国の支配によって包囲されたノウレアは既に陥落したものと思われていたのだ。
「た、確かにノウレアは国境都市。軍備は充実している…のか?」
「いやいや、だとしても、補給も無しに5年も抵抗を?敵も時間が掛かると考えてまずノードを奪って包囲したのでしょう?」
「その通り。しかし、敵の通信を傍受したところ、未だにノウレアと交戦しているようなのだ」
「敵の通信ですか……罠って線はないんですか?」
「それが今回の議題だ。参謀本部からのお達しはこの情報の真偽を探ることだ」
「なるほど。じゃ、誰が行くかって話ですね」
「そゆこと!アリスよろしくぅ」
「はいッ。では私から。今回の任務は先程のお話の通り、ノウレアの状況調査、クラスA任務です。ノウレアに向かい、今も抵抗しているのか?敵の罠か、真偽を確認して連絡願います。
敵包囲網を抜ける必要があるため、少数編成となります。
フリード・マーカム少将
ショーン・ウォルマン准将
ドロシー・ハミルトン大佐
そして、シア・フォーデン少佐。
以上4名での作戦となります!」
私にお呼びがかかった。長官が呼び止めたのはこれか。承知しました、今後の作戦に関わる任務、全力でやらせてもらいます!
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