53.閑話:ザック・フォーデン②
この件が終わってもずっと………
そう、思っていたのに、隊長もマリーさんも死んでしまった。この件連絡した時、隊長は焦っていたが決して俺を責めなかった。
感情的に動いたことに関しては怒られたが、俺が隊長の家を白状したことについては全く言われなかった。
隊長も思う所があったのかもしれないが、俺は罪悪感でいっぱいだった。
そのまま結局、俺が原因で死んでしまったのだ。
リリーになんて言ったらいいのだろう………
俺はこれが罪滅ぼしだと信じながらリリーに出来ることはなんでも動いた。
隊長の親族は既におらず、マリーさんは孤児だった。さらにマリーさん自身が特殊警護対象だったため、あまり自由に他人と会う事も出来ない。
そんな状態なので、知り合いの居ないリリーをまず引き取ることにした。
娘が2人になったのだ。
リリーは俺のことをあくまでもザックさんと呼ぶ。しかし、今の状態も理解しているし、信頼はしてくれているようだった。
マリーさん由来だろう。頭のいいリリーはすぐに状況を理解して、軍学校に進む事を決めた。シアと比較すると大人び過ぎているくらいだ。
隊長譲りのレッドアイがあることでスムーズに入学出来た。
それならばと、2人のドックタグが処分される前に長官に話を通しておく。
落ち着いたら渡そう。表には出さないが気持ちの整理がある程度ついた卒業祝いがいいだろうか。
俺もオヤジのドックタグを貰ったのはその時だったからな。
その後、まさか、シアにも魔法適正があることが分かった。まじでびっくりして泣いて喜んだ。
そんなシアはリリーと同じく軍学校に行きたいと言う、きっとリリーを支えてくれるだろう。シアはリリーにベッタリで、とっくに姉のように思っているらしい。
まだそれほど会ってなかったはずだが、仲が良さそうで良かった。
軍学校に行ってからは、度々帰ってくる毎に娘達の成長が凄まじい。最初は隊長の親バカだと思ってたリリーはマジモンだった。そんなリリーが軍学校で教育を受けると、どんどん伸びてくる。リリー相手に手加減してる余裕はなくなってきた。
反射速度が早い。あの近接戦闘の天才と話題になった、シンディ・レインに教わっているらしい。
テレーズ長官、狙ってやっただろう。あの人が好きそうなことだ。
俺はパパの威厳を守るために、訓練量を増やすことにした。そう簡単に負けてられないのだ。
とある日、テレーズ長官へ定期報告の為に特務機関長官室に向かう。
「失礼しまっす!」
中に入ると、クレアとフリードもいる。
「あれ?今日は定期報告だと思ったんすけど?」
「あら、いいじゃない、私達がいたって」
「そりゃそうだが、俺の代わりに行ってくれって言っても、面倒くさがるじゃねぇか」
「そりゃそうでしょ!ザック隊長なのよ」
クレアもフリードも俺たちしかいないから、昔と同じように話す。俺が隊長になって、レッド部隊の隊員が増えてからは、規律のため隊長の俺に敬語を使う。
正直こいつらにはこの口調の方が楽だ。未だに違和感を感じちまうからな。
「今日は定期報告だけじゃなくてな。面白いもんが見れるぞ」
「面白いもん?」
「さっきから聞いてもこの調子なの」
「面白がってるのは長官だろうに……」
フリードの言う通りだ。このニヤニヤしてる長官はイタズラ大好きだからな。
「まぁまぁ、ほら、コーヒーだ」
テレーズ長官は俺たちの分までコーヒーを用意してくれる。ここに来るといつものこと。
最初は長官に入れさせるのは忍びなかったが、こだわりがあるらしく、自分でやりたがる。
確かに、美味いから密かに楽しみではある。絶対に言わないがな!
「どうもっす」
うん、美味い。何が違うのか分からんが……
「それじゃ教えてくれるんすよね?」
「ふふふっ、焦るな焦るな。とりあえず定期報告からだ」
クソッ、いつまでもニヤニヤしてる長官へ、定期報告を終え、ついに本題となる。
「それじゃ、集まって貰ったのは、特務機関候補の動画だ」
「お、新入隊員ですか!それは楽しみッスね」
「待って、いつもならこんなにもったいぶらないわよ!?」
「確かに!?」
「そうだな。いつもとは違う。今から見てもらうのは軍学校の学年対抗訓練の動画だ」
「軍学校ッ!?もう目を付けてるんですか?」
「そうゆうことだな」
「シンディ・レインの時も一旦、通常部隊を経由してから引き抜いたのに」
まさかな?まだ7年生だ。9年生に逸材がいるとかそんな感じだろう。喜ばしいことだ。
「ザックの娘…、シアだったよな?もいるんだろ?」
「あ、そうじゃん!シアちゃんとシルヴァン隊長の娘もいるじゃん!何年生になったの?」
「7年生だな」
なんだろう、長官のニヤニヤが嫌な笑みに見えてきた。
「そっか、じゃあ、動画に映ってるかもしれないじゃん。どれか教えてよね!」
「あ、あぁ……」
「じゃあ、再生するぞ。最初は8年生対7年生だ」
テレーズ長官はそう言って、長官室のデカいモニターに映した。
……………………
…………決着が着いた。7年生の勝ちで。
「……」
「……」
「……」
「それじゃ、次は7年生対9年生だな♪」
ウキウキしながら次を再生しようとする、テレーズ長官。
「いやいやいやいや!待って!!待って下さいよ!」
ちょっと止めざる負えなかった。
「これがリリーなんすか!?」
「そうだぞ。今、見ただろう?」
「……加工したわけじゃないっすもんね?」
「アリスに頼んで少しカットして見やすくしただけだ」
「長官の秘書も大変そう……」
「これは爆笑しながらやってくれたぞ」
「……、アレって「まぁ!質問は次の映像も見てからにしよう!」
俺の言葉を遮ってテレーズ長官は楽しそうに次を再生する。
7年生対9年生はもっと凄惨だった。
笑うリリー、9年生には泣いて子までいるじゃないか。
まさに、圧倒的な勝利だった。
「……」
「ザック……なんて教育してるのよ!?」
「お、俺じゃねぇ!シルヴァン隊長だ!」
思わず反論する。
「しかし、あれからはザックが面倒見てるんだろう?」
「ぐ…リリーは聞き分けのいい良い子なんだ。家じゃ近接組手をするくらいで……こんな……」
「めちゃくちゃ楽しそうに撃ってたな。ククッ」
フリードの言う通り、とても活き活きしていた。親としてはとても心配だ。
「まぁ、この時は9年生の一部から7年生にイチャモンがあったらしくてな。最後のは簡単に言えば友達の仇討ちのためにやったらしい」
「なんだ!良い子じゃない!?」
「担任のシンディによると、普段は普通の優等生らしい。ただ、演習の時間だけは毎回高笑いしながら売ってるそうだ。これが演習中の動画だな」
そうして見せられた演習中の映像。
「アッハッハッ!」
うん、間違いなくリリーだ。ニコニコしながら、撃っている。
「あッ……」
「毎回…これ……」
「ブフッ…クククッ!フッ……ゔんッ。…クククッ!ククッ」
フリードはもう笑いが堪えられていない。楽しそうだな、おい。こっちは複雑だよ!
「と、まぁシルヴァンの娘はこんな感じに仕上がっている。ふふっ。コイツは卒業次第、特務機関に入れる予定だ」
「そうですね。間違いなく天才です。笑っているのは置いておいて……
それまでの戦況の組み立て、特にあのレッドアイはなんなんですか!?」
「そうですよ!忘れそうでしたが、隊長だって日に2回、10分程度が限界でしたよ!」
「発動と強制停止を繰り返して、無理やり効果時間を伸ばしているようだ。ちなみにアリスに動画のレッドアイ使用時間を合算してもらったところ、1時間半くらい使用していた」
「そりゃスカウトする訳ですね」
「だろう?あと2年でどこまで成長することやら……」
「マリーさんは研究だけじゃなくて、子供までとんでもない子を産んだんですね」
「シアの方もいい腕をしている。ザック、引き続き頼むぞ!」
「はい……、特に何をした訳でもないんですがね……」
特にリリーは知らない間に勝手に強くなっていく。俺も、もっと訓練を増やすしかない。
パパとして2人を護れる存在じゃないと。すぐ越されるとただでさえ低い、娘たちの評価が地に落ちてしまう。
「フリード、この後、演習場に行かないか?」
「いいぞ。俺もやりたくなったところだ」
「え!私も行くわよ!」
俺たちはその日から訓練量を増やしたのだった。
次回第2章は8月29日から投稿予定です。
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