51.脱出
可能な限り接近して、タイミングを見計らう。
周囲は既に暗くなっており、見つかりたくないこちらとしては都合がいい。
しかし、先程戦闘しているせいか、敵兵に隙がない。
「あまり時間をかけたくないね」
「そうなんだよな」
捜索部隊も出ているはずで、見つかるのは時間の問題なんだ。
「……俺がフラグを投げる。その爆発を合図にその隙に全員、コンカッションを敵兵にありったけ投げろ。全力で突っ込む。いいか?」
「「「了解」」」
「ヨシ、じゃあ行くぞ」
手榴弾のピンを外しながら振りかぶり、ザックさんがまるで野球のように投げる。
さてはやり慣れてるな!?
タイミングを外さないようにこちらもコンカッショングレネードを準備。
南側で爆発が発生し、敵兵が驚いてそちらを見る。
どんだけ投げたんだか、あれは絶対地面着く前に爆発しただろ。
横目に見つつもやることはやる。コンカッションを車両近くの敵兵へ投げつけ、突っ込む。
全速力で走る。
まだバレてない。
まだ……
まだ…
ここ!
スピードを落として、車両左側の敵を撃つ。
焦っていても冷静に。冷静さを欠いた者ほど死ぬのはゲームも現実も同じだろう。
1人、2人、3人……
「ヨシ、走れ!走れ!走れ!」
ザックさんの号令でまた突っ込む。心配だった赤猿先輩も必死で走っている。
このままなら行ける!
車両にたどり着き、私は走って荷台に乗り込む。
「ヨシ、クレアだせ!!」
クレアさんが運転席に乗り込みエンジンをかける。ここだ。
「ひひっ!これで追って来れないだろ!!」
私は残りの手榴弾のピンを取って、残りの車両に放る。
「ふはッ!いいぞリリー!」
すると背後から光り輝くライトに照らされる。私達は思わず振り返る。
目玉のような2つの光が私達を照らす。いや、2つだけじゃない!後ろから何台もの敵車両が近付いていたのだ。
「増援!?」
「くそッ!来やがった!」
「敵車両!!」
「まっずい!!」
クレアさんがアクセル全開で発進する。
「リリー!」
それでも荷台にいる私達に銃弾が弾幕のように降り注ぐ。身を屈めてやり過ごすしかない。ザックさんが私を庇い覆いかぶさる。
絶え間ない銃弾。
「ひいぃっ!」
助手席の赤猿先輩は身を縮こまって震えていた。
「いッけぇー!!!」
クレアさんは必死でアクセルを踏み、全速力で逃げる。
すると私が放り投げた手榴弾が爆発、停めてあった車両と共に大爆発を引き起こす。
敵の増援車両はそこで止まったようだ。だが、それでもなお、私達が林に入るまでの間、銃弾を撃たれ続けた。
「今のうちにできるだけ進むよ!途中、ノーステリアに向か分かれ道もあったはず」
クレアさんが運転席から叫ぶ。私達もようやく身をを起こすことが出来る。
「了解です!」
「ッ?フォーデン少将!!」
「え!?ザックさん?」
ザックさんが起きない。そればかりか荷台には血溜まりが広がっていく。
「うぅ……」
「ザックさん!!」
動かないザックさんの身体を確認する。
私を庇ってくれた背中には無数の銃弾が撃ち込まれ、血で真っ赤に染まっていた。
「う、あ、あぁ!?し、止血!!止血しなきゃ!!」
「ま、まて車両には応急キットがあるはずだ!」
慌てる私と、治療道具を探す先生。
「え!?ザック??ザック!?大丈夫なの!?」
クレアさんも私の反応に異変を感じる。
「まずいまずいまずいまずい」
まずい、この傷は致命傷だ。とりあえず手で止血しようとして抑えようとするとザックさんに手を掴まれる。
「グゥ……ついにこの日が来ちまったか。バリアは得意だったんだけどな。流石にもう助からねぇよ……」
「そんな!?絶対助かる!絶対!」
弱々しいザックさんの感じが嫌で、聞きたくない。絶対助かるんだ!クソッ!涙で視界が霞む。
「リリー……すまなかったな。お前には辛い思いばかりさせる」
「そんなことない!父さん母さんが死んでも、なんとかやってこれたのはザックさんのおかげだよ!」
「それが……
俺が悪いんだ。俺が奴らに隊長の家の住所を教えたから、あんなことに…すまねぇ、ずっと言わなきゃと思ってたんだ」
「どうゆうこと?」
「あの時、お前さんが拉致られる前……
シアとリサも捕まっていて、隊長の家を聞かれたんだ。だから、奴らがリリーのところに行ったのは俺のせいなんだ……」
……知らなかった。そんな事があったなんて。
「でも、あの日、父さんは帰ってくる日じゃなかった。すぐに助けに来てくれたのはザックさんが知らせたんでしょ?」
「それは……そうだが。家を教えたのは、俺が……」
「シア達も捕まってたんだから、事情は分かるよ。そもそもアイツらは母さんを狙ってたんだから、巻き込まれたのはザックさんのほうだよ」
「ごめんな……」
ザックさんはずっと心に引っかかっていたのだろう。目からは涙が垂れていた。
「ぐふッ…」
ザックさんが口から血を吐き出す。
「ザックさん、無理しないで……止血さえすれば……」
先生が見つけてくれた応急キットは包帯など基本的なものしかない……
このままじゃ、あ!
「き、緊急回復薬は!?」
「もう使っちゃってないの!!」
叫ぶ私に運転席のクレアさんが叫んで答える。そうか、元々最前線に行ってたんだ。生き残りが2人な時点でギリギリの戦いだったはずなんだ。
「あ、あぁ、血が」
血が止まらない。必死に考えても改善する手が思い浮かばない。
「こ、これをリリーに…」
声が掠れてきたザックさんが首元から何か渡してくる。
これはドッグタグ……
戦死者識別などに使われるものだ。
しかし、ザックさんのドッグタグはまだザックさんの首元にある。これは違うチェーンだった。
渡された2枚のドッグタグ。
名前は………
シルヴァン・ランドルフ
「父さんの!?え?でも?」
通常回収されるのは1枚なはず……もう1枚を確認する。
マリー・ランドルフ
「母さん!?」
これは父さんと母さんのドッグタグだった。
「初陣の時に渡そうと……思っ…たんだ。……今回、学生も動員されると……聞いて……渡そうとして持ってきた………」
「うん、ありがとう!ザックさん、ありがとう」
声が震える。
「ザックさんのおかげで、寂しくなかった。私、ザックさんがいてくれて本当に良かったんだよ」
手を強く握りザックさんに伝える。伝えなきゃいけない。
「ふッ……良か…た………
シアに……愛してると……」
「うん、うん!絶対伝えるから!シアも絶対同じ気持ちだから」
もう、涙が止まらない。
ザックさんはずっと私達を見守っていてくれた。
「まだ。まだ早いよ……死なないで………もっと見守ってよ………」
ザックさんはもう、それからは動かなかった。
西門から出た私達は林の中の街道を通り、分かれ道で南に転進。ノーステリアを目指す。
「え!?そんな!?」
「もうここまで………」
私は荷台から顔を出して確認する。正面は林を抜けて、視界が広がったところだった。広がった視界の先、月明かりに照らされて、複数の敵車両が見えた。
既にノーステリアへの街道は封鎖され、敵軍の包囲網が敷かれていたのだ。
「もっと大回りする」
クレアさんはそういい、元きた道を戻る。私達の残りの残弾では戦闘するのも難しい。避けるしか無かった。
しかし、程なくして車両が止まってしまう。
「クレアさん、どうされました?」
「……燃料タンクに穴が空いてるみたい」
声をかけた先生に無情な現実が知らされる。門を出る時の乱射で既に漏れ出していたのか……
「車両を捨てて、西に行きましょう」
「……それしかないようね」
「ですね」
言葉少なく方針が決められる。
みんな疲弊していた。
よく見ると先生もクレアさんも腕を被弾している。無事なのは助手席側で銃弾をザックさんが引き受けてくれた私とそのさらに前方にいた赤猿先輩だけだったのだ。
「ザックさん、ごめんね。私頑張るから。シアの事任せて」
「ザック……あなたは不安がりますが、ちゃんと隊長出来てましたよ」
「共に戦えて、光栄でした」
「たっ、助けてくれて、ありがとうございました!」
乗ってきた車両に火をつける。
ザックさんは荷台に寝かせている。火葬とするのだ。
「行きましょう……」
「うん」「あぁ」
私達は林の中を西に突き進む。追ってが来ないうちに進まなければならない。危険を承知で火を付けた。ザックさんの遺体を愚弄されたくないから。ザックさんが身につけていたドッグタグとバンダナ、ネックレス型の魔石を回収した。
私の大切な人は、すぐに死んでしまう。
彼等が軍人だから。それもあるだろう。でも、クウィントンの街の人々は軍人じゃなくても死んでいる。だったら抵抗する力はいる。
私は多分軍人が向いている。
この世界は平和じゃない。
今回の戦争だって、ルンドバードが領土拡大を目論んで仕掛けた戦争だ。この世界は平気でこんなことが起こる。
私は戦争を憎む。平和が恋しい。
だけど、私の大切な人を守るには力がいる。じゃなきゃ、誰も守れない。
父さん、母さん、マッドやジュスト、クサマ少佐やルッツ大尉達……そして、ザックさん。
私はこのままじゃダメだ。私が私の我を通すには、もっと強くならなきゃいけない。
この世界でも、一番になるくらいに。
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