50.もう一人
え!?あれ?あそこに見えるのは軍学校の制服だ。
軍学校の制服は、男子学生は暗めの青っぽい迷彩で、女子学生は暗めの赤っぽい迷彩である。
倒れているのはここから見えるだけで5名、全て青迷彩の制服を着ている。
内1人、倒れている中では1番手前のこちらに顔が向いている。あれは……
「マッド?」
位置は遠い。だが、あれはマッド見える。意識は否定するが、視覚情報は7年間も同じクラスのマッドにしか見えなかった。そう考えると、奥に倒れているのはジュストじゃないだろうか。背中しか分からないのでなんとも言えない。でも、マッドとジュストは同じ班になっていたはず。
無意識に足を踏み出す。
そんなはずないって、みんな避難したはずだって、確かめたかった。
あそこにいるのは、マッドじゃないって。
「…リリー…リリーナ!」
ザックさんに抱き寄せられる。その巨体に包まれ、身動きが取れなくなって、ようやく周りの音が聞こえてきた。
「リリー、大丈夫か?しっかりしろ」
私はあまりの出来事に何も聞こえなくなっていたようだ。
「だ、大丈夫……」
「落ち着いたか?ショックだろうが、今は冷静になれ」
「うん、ごめん……」
「いや、いいんだ、当たり前の反応だ。俺も経験はあるからな…」
ザックさんに離れた身体をもう一度引き寄せられ抱き締められる。今度は優しく温かみを感じることが出来た。
「シンディ中佐も大丈夫?」
「は…い……、すみません、大丈夫です」
レイン先生も取り乱したようで、垂れた涙を袖で拭う。
「まずいわね、奴ら動き出したわ」
「聞かれたか?」
「いや、こっちじゃないようね。向こう?
あッ!?」
クレアさんは思わず目を見開く。
「いま、軍学校の制服だった!生き残りがいる!」
「え!?」
「ほんとですか!?助けないと!」
すぐに飛び出しそうになるレイン先生の腕をザックさんが掴む。
「待て、闇雲に行っても助けられない。全員で行くぞ」
「ッ!?ありがとうございます!」
「敵兵は俺達に背を向けている、可能な限り接近し処理するぞ」
「「了解!」」
真面目なザックさんは思った以上に頼りになる。これが前線で指揮していた本物の兵士。的確なルートで追跡していく。
「今だ!」
敵の真後ろに追いつき直線で発砲。一網打尽にする。
「よし、使える装備を回収しながら、学生を保護する」
「了解」
倒した敵兵から素早く回収する。この近くにいるはずだが…
「おい!俺は味方だ!!君はノーステリア軍学校の生徒だろ」
後ろからザックさんは馬鹿みたいに大きな声で叫ぶ。
「ちょ!?流石に声でかいって!」
「既に発砲でバレてる。素早く合流するのが先決だろう」
「確かにそうかも……」
「なら、私も。おーい!私だよ!リリーナだよ!」
どうせなら、この方が伝わるだろう。あの学生が私のこと知ってればいいんだけど。
「なら私も。私もいるぞ、7年生担任のレインだ!!」
レイン先生が言い終わるかどうかのタイミングで、ドンッとドアが開いたため、銃を構える。出てきたのは……
「赤猿先輩ッ!?」
赤猿先輩だった。ただ、青いはずの迷彩は血で変色し、顔は泥まみれで、涙の跡がくっきりとついて目が赤かった。
「り、りりリリーナ!!」
赤猿先輩はバタバタと抱き着こうとしてきたので、右手を掴み関節を決めて、ザックさんの方にに受け流す。
「おうおう、怖かったな。おしおし!」
ザックさんに抱き締められ、赤猿先輩は困惑しながらも、怖かったのだろう。抱擁されている。
ごめん、股のところに濡れた跡があったので思わずやってしまった。
でも、後悔はない。
「っ!後方、敵兵が追ってきます!!」
クレアさんが敵補足。敵兵は待ってくれない。
「お前1人か!?」
「は、はい!俺達の班は……もう、俺だけ……ぐす……」
泣きながら話す、断片的な情報。しかし、生き残りは1人である事が確定した。
「急いで移動する。このまま脱出するぞ!」
「「了解」」
「いたぞ!!」
敵兵の声がする。まずい、見つかったようだ。
「こっちだ!」
近くのドアから民家に逃げ込む。
「あっちだ!」
家の裏側、反対側へ向かって走る。
家を出るとちょうど敵がいて遭遇してしまった。至近距離での遭遇で、敵も驚いた様子だった。
「ふぬっ」
間髪入れずにザックさんのタックルで左の敵を吹き飛ばす。ザックさんのすぐ後ろにいた私も、すぐに飛び出して、右の敵を撃つ。
この裏路地は狭く、人1人程度の幅しかない。今ので倒せたのも1番手間の1人だった。
距離を開けないように、敵へ踏み出す。左はザックさんがやる。私が右を抑えなくては、背後を撃たれるてしまう。
2人目の敵は驚いたようだが、1人目の後ろからこちらに向けて銃を構えようとしていた。1人目が倒れる前に距離を詰めながら発砲する。
1人目の敵ごと発砲した弾丸は、至近距離で2人目の身体をなぞり顔を撃ち抜く。もう、あの敵はもう気にしなくていい。
連射された発砲音のあと、カチッ!っと弾切れの音が微かに聞こえる。命のかかった戦場で、正面からの戦闘に私は焦って撃ちすぎたようだ。
先程、マッドの死を見ていることで、私は少なからず固くなっていた。
だがもう一人後ろにいる。すぐに腰からハンドガン【オズ】を取り出す。1人目を踏み台にして、さらに壁を蹴って飛び上がり、3人目が構える銃口の先へ避ける。そのままオズのアタッチメントで取り付けたナイフを敵の眼球からの脳天へと突き刺しながら着地する。
右の敵はこれで右の敵はこれで終わりだ。
振り返るとザックさんの拳が相手の顔面にめり込むのが見えた。筋肉パンチはそれだけで相手を戦闘不能にしている。向こうは3人だが、ザックさんは筋肉で解決した様子。
あれはもう私とは種が違うんじゃないだろうか。
家の中にいた先生達に視線を移すと、クレアさんは赤猿先輩を保護、というかまともに動けてないので危険の少ないように保護。レイン先生は私たちとは反対の室内がわのドアの方に立っている。
そんな先生の前には2人の死体が転がっていた。レイン先生は左手にハンドガン【オヴィ】を装備、右手には日本刀を握っている。さすが私にこの変態カスタムを勧めるだけあって独特である。
だが、先生は近接戦闘の天才と呼ばれている実力者だ。室内、この部屋は12畳だろうか、その程度の距離で、勝てるはずもない。
蹂躙されたことだろう。
「クリア」
敵は片付けたようだ。しかし、まだまだ集まってくるだろう。
「このまま脱出する!」
「「了解」」
私達は西門の方へと移動する。敵兵が1個中隊ほどはいるだろうか。先程よりも増えている。
簡単には逃がしてくれないらしい。
「クレア、西門の外は比較的すぐに林だったよな」
「えぇ、でもそこまでは畑で、林まで距離があったはずですね」
「……この量、見つからずにそこまでいくのは難しいか」
確かにかなりの人数が動員されており、西門以外にも巡視が動いていて、私も見つからずに脱出は難しいと思う。
見つかった上で死角のある林まで走るのは撃ってくれと言っているようなものだろう。
「レイン中佐、合流した時のあの車両は敵車両を鹵獲したんだよな?」
「はい、元々敵軍の車両です」
「なら、あの車両を奪って林まで抜けるしかないか」
「私も賛成、むしろ、それが1番成功率が高いでしょうね」
「やりましょう!」
「よし、えっとー、アカザルくん。君は遅れないようにしっかりついて来るように。それと君が助手席に乗りなさい」
「あ、はい!」
既にギリギリの赤猿先輩には慌てないように、乗る場所も指定して集中させるのが1番ということか。慌てて他の隊員にぶつかる等のイレギュラーも起きにくくなる。やはり真面目なザックさんは見習うところも多い。
調子に乗るから絶対言わないけど。
「目標は1番左の高機動車両とする。クレアは運転を頼む」
「任せて」
「クレアとレインが右、俺とリリーが左の敵を担当する」
「「了解」」
私達は装備を確認する。アサルトライフル【レックス】の残弾はマガジン2つ分。手榴弾とコンカッションはある。結局さっきの敵からまともに回収出来ていない。残り少ないがこれで行くしかない。
ここを突破出来れば生き残るし、失敗なら全滅だ。
怖さはある。
命の取り合いになってから、ずっとしんどい。けど、やらなきゃ生き残れないなら、私はやるよ。
この世界に気付いてから、いつかこうなる気はしていた。
そのために努力してきたんだ。絶対できる。
私は自分を奮い立たせ作戦を決行する。
ハンドガン【オヴィ】≒HK45
見た目などはこちらのイメージで。但し、あくまでも性能はゲーム〖Hero of War 虹色の戦争〗を元となっており、実銃とは必ずしも同じではありません。
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