4.この世界
「と、父さん…」
父さんが実は【レッドイーグル】だったなんて、全くもって想定外だ。
レッドイーグルは使用できるネームドキャラの中では1番癖がなく、初心者でも使いやすい性能をしている。それにスペシャルと呼ばれる一定時間のみ使用出来るスキルが強力で、プロの大会でも必ず1人いるくらいの使用率が高いネームドキャラだった。
かくゆう私もよく使用していたキャラなのだ、よく知っている。
ただ、スカーフとサングラスで顔の露出がほぼないから父さんと繋がらなかった。
……言われるとたまに聞こえてたゲーム音声と同じ声かもしれない。
「2人とも無事で良かった!」
サングラスだけ戻した、父さんに抱きしめられる。
「これから脱出する!もう少し頑張れるか!?」
「うん、大丈夫!」
「えぇ」
立ち上がろうとして、痛みが走り、よろめく。
「うっ…」
反射的に痛みの先を見ると右足のふくらはぎから血が流れている。
父さんに気を取られ、忘れていた痛みがズキズキとぶり返してきた。
「撃たれたのか!?見せてみろ!」
父さんが私の傷を確認する。
「玉は貫通しているな、リリー、もう大丈夫だ。
クレア!リリーの止血を頼む!2発とも貫通を確認した」
「了解です」
よく見ると父さん以外に3人いる。同じ部隊なのだろう、似たような隊服だ。
内1人はわかった。
あのゴツイ顎はわかりやすい。ザックさんだ。
「リリーちゃん、今止血するからね。痛むと思うけどもう少し頑張ってね」
「…大丈夫」
精一杯の大丈夫だった。めっちゃ痛い。前世では骨折もした事ない私にとって、撃たれた痛みは今まで味わったことないくらい痛い。
でも、頭では必要なことだって知識はあるので、クレアさんが処置しやすいように痛みを必死で我慢する。
「はい、これで終わり。もう大丈夫だよ。」
クレアさんが優しく声をかけてくれた。赤っぽい髪を後ろで縛っており、それが肩に触れるか触れないかくらい。キツネ顔っぽい感じの美人さんだ。
「ありがとう…ございます…」
「頑張ったね」
クレアさんが手際よくやってくれたおかげで最小限の痛みになったはず。頭を撫でられて、痛がっていた事がバレているようで恥ずかしくなる。
目を逸らすと、ふとザックさんと目が合った。サムズアップしてくれたので、私も返す。
思わず笑みがこぼれる。
父さん達が助けに来てくれた安心感が込み上げてくる。父さんを見るとサングラスの中にあるはずの目が目が赤く輝いている。それはもうサングラス越しでもわかるほど鮮明に光っていた。そして視線は奥の壁を見つめていた。
「よし、奴を追う。俺、ザック、フリードが追跡。クレアは2人の護衛をしつつ、このビルを調べてくれ」
「「「了解」」」
周囲の警戒をし続けてくれていた、ザックさんと残りのフリードさんって人が、父さんと素早く走っていく。エンド達を追うのだろう。
周囲には4名の敵の死体が転がっているが、あとはエンドともう1人いたはずだ。
さっきのは父さんはゲームで言う、スペシャルスキルを発動したんだろう。
レッドイーグルのスペシャルスキルは〖レッドアイ〗だ。
フィールドの敵を全て赤くハイライトして確認することができる。壁の裏にいる敵など、どこに隠れているのか丸分かりするスキルだ。
ゲームでは30秒間全ての敵が確認できる。自分以外全員が敵でも、10対10のキル数勝負でも、バトルロイヤルでも、色んなゲームモードで活躍する。
ネームドキャラにもよるし、ゲームモードにもよるが、大体のキャラはスペシャルスキル発動は1マッチ中に1回くらいの制約がある。
ゲージを貯めなければならなかったり、時間経過で再使用できるパターンだ。
しかし、ゲームではなくこの世界が現実のものとなった時、その制約はどう変化しているのだろう。
私はスペシャルスキルを目の当たりして、少し興奮していた。
「あ、あいつらに奪われたパソコンがないわ!さっきはそこの机にあったの!!」
「っ!?それはまずいですね…
マリーさん、パソコンの特徴を教えて頂けますか」
「えっと、色はシルバーのノートパソコンで…、リリーの赤ちゃん時代の写真シールを貼ってます。」
「分かりました。…隊長!マリーさんのパソコンが奪われたようです!」
やっぱり、母さんのパソコンには重要なデータが入っているんだ。クレアさんが耳に手を当てて、多分父さんに通信している。
「はい、そうです……その写真が貼ってあるそうです。...お願いします。
マリーさん、もうすぐ別部隊も合流します。それまではすみませんがここで待機します。」
「はい、分かりました」
遠くで銃声と爆発音が聞こえる。
それから更に少し時間が経ち、車の音が聞こえてきた。増援が到着したようで、クレアさんが対応している。
「すまん、パソコンは破壊したが、エンドは取り逃した」
父さん達が帰ってきた。そう言っている父さんは疲弊しているように見える。やっぱり、レッドアイ使用の制限だろうか。
ん、フリードさんも肩から血を流している。やっぱりさっきの銃声とか爆発音は父さん達だったんだ。
「しゃーねーよ、奴はメラリア共和国の有名なネームドだ。一筋縄じゃいかないさ」
「人質救出、情報も食い止めたなら、最低限任務は完了ですね」
「まぁな、じゃ撤収するぞ。応急処置したとはいえ
リリーを早く医者に見せなければ」
「おし!じゃあ、リリー!歩けないだろ?俺が抱っこしてやる!!」
真面目モードだったザックさんがいつもの調子に戻って抱き上げられる。色々と衝撃的で痛みを忘れてたが、普通に痛い。
「ザックさん、ありがと!」
「ザックはガタイがいいから安定感があるだろ!?」
父さんも緊張感が溶けたように笑顔が見える。
「なんてったって、隊長もザックさんに抱っこされたことありますもんね。ふふっ」
クレアさんがボソッと言った発言が耳に飛び込んでくる。
「え?」
「おいおい、クレア!あの時はしょうがなかっただろう!?」
「ふふっ、そうですね。」
「隊長は意外と可愛い寝顔だったな!」
ニヤニヤしながらザックさんが父さんを弄る。
「あいたっ!!」
何があったか凄い気になる。ザックさんが頭を叩かれて笑っている。いつもこんな雰囲気なんだろうか。
いいな、戦友って感じ。
「ザックさん今度詳しく教えてくださいね」
母さんまで乗っかっている。
「マリー、やめてくれよー」
笑い合いながら、表に止まっている軍用車両に向かう。
…………ん?
母さんに手を貸している父さんの後ろ姿を見て、ふと思いだした。
私はこのシーンを知っている。
そうだ、ゲームだった頃のエンディングムービーだ!1度しかやっていないからかなり薄い記憶だけど、このシーンは見た事ある。
良かった。一件落着して世界の平和が保たれた…みたいな感じだったはず。
めでたしめでたしってやつだね。
バァン!!!!!
息を抜いた時だった。突然目の前のエンディングシーンが記憶と違う光景に塗りかわる。
母さんが血を噴き出しながら倒れる…
時間が止まる……
一瞬の空白のあと、父さんが抱きしめながら、シールドを展開。目を赤く輝かせながら、ビルを背に左側を振り向く。
バァン!!!
……振り向いたと思った父さんのシールドがガラスのように割れ、キラキラと魔力の粒子が舞う。
それは朝日に照らされてとても綺麗に輝いていた。
しかし、私は目の前の光景を理解したくなかった。
でも、見えてしまった。
……父さんの頭に銃弾が当たる所を。
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