48.撤退戦③
私達はリリーナの指示通りに西へ走っている。すると後ろでものすごい轟音が響いた。その地鳴りのような音に私は半身になり振り返る。
なんだ?湧き上がる土煙の中に爆発だろうか?炎も混じっているようだ。
「リリーナか?」
「中佐!?やっぱあの轟音はリリーナですかね?」
私が思わず口に出たつぶやきを、ルッツ大尉に拾われる。しかし、ルッツ大尉もそう思ったようだ。言い方は疑問形であるが、ほとんど確信している。
さっき何か仕掛けていたらしいし、こういう時のあいつの動きには無駄がない。レッドアイが使えない状態であることを全く感じさせない、いい指揮だ。
私の考えたことを、私が考えるより早い。
「まず、間違いないだろう。
が……
ふははッ!私達の持ってる少量の爆薬であんなことできるのか!?どうやるんだろうな!」
私達の爆薬はドアを吹き飛ばすことは出来ても、コンクリート製の建物を丸々吹き飛ばすなんて出来る量じゃないんだ。
「あ、あの、中佐?リリーナって本当に学生なんすか?い、いや、軍学校の制服着てはいるんすがね...」
走りながらではあるが、あまりにも気になったのだろう。
「ふふっ、ちゃんと生徒だぞ。新入生として入学してきた。が、確かに入学時から特務機関長官から目をつけられる存在だったな」
テレーズ長官としても最初はシルヴァンさんから話を聞いていたようだけど、ただの親バカだと思っていたらしい。とりあえずレッドアイを継承してるって部分で注目してたと言っていた。
結局、すぐにその異常さが出てきてさらに注目される訳だが……
「特務機関!?の長官!?」
ルッツ大尉だけでなく、アルファチーム全員がどよめく。
それもそのはず、特務機関は軍部でも特殊な立ち位置だ。
特別な作戦、あらゆるシチュエーションの中でも特に重要と思われる作戦は特務機関に回される。しかも、基本的に指揮系統は独立している。階級が上でも、特務機関の隊員に命令出来るのは特務機関の人間だけ。今回ザックさん達は正規軍との協力という形で合流していたのだ。
ヴァンリ皇帝直轄であり、軍部の限られた人間しかなることは出来ない特別な存在として認知されていた。
「そういえば、中佐も特務機関所属でしたね……」
「あぁ」
何やら畏敬の念がこもった眼差しになった隊員達に、若干居心地が悪くなる。
「何してるんです?」
リリーナが追い付いてきたようだ。これ幸いと私は移動速度を上げる。
「リリーナも来たな!急ごうか」
このまま西に進む。
「こちらブラボー、敵車両を発見!ちょうど3台あるぞ!」
先行しているクサマ少佐が目標としていた車両を発見したようだ。
「了解、敵兵はエンジンを撃たないように制圧してください!ここからは時間との勝負です!!」
「了解!」
こちらも敵車両が見えた。オフロード仕様の装甲車が1台と高機動車両が2台鎮座していた。高機動車も側面には装甲がついており、どちらの車両も機関銃が備え付けられている。
幸い、敵兵は数人だったようでブラボーとチャーリーでちょうど制圧した所だった。
「ブラボーチーム、負傷1名、命に問題はない!」
「了解、車両に乗り込んで、応急処置を!早急に離脱する!!」
「アルファチームが装甲車で先行してください」
確かに先頭も危険だが、今回は後ろから追われている。後ろが非常に危険だろう。クサマ少佐の奴リリーナを1番安全な位置に置きたいのだろう。リリーナはここで失ってはいけない存在だ。遅延戦闘が成された今、全力でリリーナを脱出させる。
だが、リリーナは……
「いえ、こちらが装甲車で殿を努めます!」
あくまでも効率を考える。自分が危険だろうとアイツには関係ない。
ゴンッと音がして衝撃が走る。
「え!?ちょ!!何してるんですか!?」
確認すると高機動車がこっちをぶつけながら、無理やり押してきた。普通に前に進めば簡単に交わせるように駐車されていたものを、無理やりハンドルをきって押してきてる。
「間違えました!時間がないんでこのまま進んでください!」
「え!?はぁ!?」
リリーナは味方からこんなことされるとは思っていなかったのだろう。想定外過ぎて少し怒ったようだ。でも、私は彼等の気持ちが分かる……
「時間がない!行くぞ!」
こうするしかない。私だけでは無い、アルファチームの軍人達は分かっている。
運転席に座ったルッツ大尉はリリーナの制止が緩んだ隙に発進させる。
「…ッ、はい!」
リリーナは賢い、少し憂いを帯びた表情は既に理解したのだろう。私達の気持ちを。
「リリーナ、真っ直ぐ西に行くぞ!」
「はい!西から出てノーステリアを目指します」
アクセル全開で進み始めた矢先、不吉な音が聞こえる。今、1番聞きたくなかった音。
拘束で風を切り、浮力を得ている音だ。
見たくはないが、振り返る。確かめるために。
しかし、結果はわかっていた。いや、分かっていると考えた予想はまだ優しかった。
敵の戦闘ヘリが3機。1機が先頭、次いで後ろに2機が並んでいる。
早過ぎる。
私達にこれだけの戦力を投入しているなんて、敵の指揮官は相当怒っているのか。私達を仕留める意志を感じる。
無常にも回転する銃口がやけに遅く感じた。満を持して発射されるその銃撃は恐ろしい程の威力を持っている。
1番後ろ、殿となったチャーリー部隊の乗った車両をなぞるように連射された弾丸は、目標物に深刻な被害を及ぼす。
チャーリー部隊の乗った車両は爆発し、走行していたい勢いそのままに、車両後方が上に持ち上がる。空中で燃えながら、縦に一回転半回って地面へ激突する。
「蛇行しながら急げ!!」
リリーナの叫び声で現実に戻される。しっかりしなければ!指揮官をリリーナに任せたからと言って私がボーっとしてどうするのだ。
「スミス!機関銃を頼む!」
私もやらねばならん。装甲車に備え付けられた機関銃を近いスミス中尉に任せ、他に何か対抗できる装備を探す。
両サイドに設置されたベンチシートの中、既に右側をリリーナが開けている。私も左側のシートを持ち上げると、中には工具類が入っていた。
隣を開ける。そこには黒いジェラルミンケースがあり、中を開けるとスティック型手榴弾が6個入っていた。残念ながら私達の装備である、パイナップル型とも呼ばれる丸いタイプの手榴弾と大差ないものだった。
「リリーナ!こっちは手榴弾だ!」
すぐにこちらにくるリリーナ。右には何も無かったようだ。
速度じゃ戦闘ヘリに敵わない。
スミス中尉が奮戦し、ルッツ大尉が必死に走行しているが、なにか、なにか手はないだろうか!?
「キタッ!」
なにか聞き間違いかと思い隣を見ると、口角がつり上がった悪い顔のリリーナが目に入る。
「ちょっと貰いますね」
いや、これは確かに効果があるかもしれないが、きちんと当てなくては難しいのではないだろうか?
リリーナは安全ピンを取り外して、投げようと振りかぶるとそこで少し固まった。
「ちょッ!?リリーッ」
実際には数秒であろう。しかし、あまりに投げないため、痺れを切らして声をかけようとすると、リリーナは放り投げた。
戦闘ヘリに投げられた手榴弾は放物線を描き、戦闘ヘリと同様の高さですぐ側で爆発する。
爆発タイミングをコントロールしたのだ。理屈は分かる。しかし、一歩間違えたら……
それにこのスティック型の手榴弾は敵の武装だ。私達の武装とは仕様が違うだろう。
それをこの土壇場でやるとは……
だが、得られた成果は大きかった。先頭のヘリは前方に爆破を浴びて墜落する。火の手が上がり、更なる爆発を起こして地面に転がった。
「ウォォォオーー!!!」
「すっげーぜ!!」
「リリーナ!!サイコーだぜーーー!!」
ブラボーチームも含めみんな騒ぎ出す。そりゃそうだ。この状況でヘリを倒したのはでかい。だがまだヘリは残っている。
ドンッ!!確認した矢先、またもヘリが爆発した。既にリリーナが手榴弾を投げていたのだ。リリーナの奴、一投目を投げた後、既に2個目を準備していたらしい。
だって、もう3投目を投げようとしているのだから。
またも、少し溜めて投げたスティック型手榴弾は3機目のヘリに向かっていく。しかし、3投目は戦闘ヘリが急旋回して爆破をかわされた。そもそも3機目は遠くて爆発が手前だったかもしれない。
確実に警戒されていた。
「ルッツさん蛇行は要らない!スミスさん!やって!!」
機銃を撃つスミス中尉が無理に旋回して、バランスを崩しているヘリに向け、連射する。狙い撃ちを避けるために蛇行していた揺れが収まる事でこちらの狙いが安定する。
おかげで3機目を落とすことに成功する。3機目は左に逸れていき住宅に突っ込んでいった。
「はっはー!!ざまーミロ!!」
「ぃよっしゃー!!」
「スミスさんナイスです!」
「スミス中尉、よくやった!」
「お任せ下さい!何度でもやってやりますよ!!」
戦闘ヘリを3機も倒したことで、盛り上がっていた私達は交差点、隣から来た戦闘ヘリに気付くのが遅れて、銃撃された。
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