47.撤退戦②
魔力がなくなった。
散々使ってきたから分かる。この感じは、もう1回でも使うと身体が重くなって、満足に動けなくなる。それくらいギリギリまで使った。
この身体はどれだけ走ったりしても、息切れはするが、すぐに回復する。
それがFPSゲーム仕様だ。現実になっても体力と回復力が異常ってことで片付けられる。
だけど、魔力だけは時間がかかる。
もうすぐそこで会敵する。
さっき見えた分を参考に戦闘するしかない。
「ここからはクリアリングをしっかりお願いします!」
「「了解」」
「いつもやってることに戻るだけだ!問題ない」
そうだ、レッドアイが使えない状態なんて散々やってきたじゃないか。なんとか知ってるマップの位置で会敵する所まで間に合った。
先程は、正面右手の通路に敵がいた。あの動きは確認しながら包囲網を狭めている。少し離れて他の部隊もおり、やり過ごすことは出来ないだろう。
強行突破する。
「ブラボーはこの建物へ侵入。チャーリーは左の通路から回り込まれないように抑えて。アルファ、ついてきて」
「「了解」」
再び3班に別れる。
アルファは私についてすぐ隣の建物へ侵入する。目的は2階の窓。
「伏せて!右下の路地に敵!」
私が指示をすればすぐに反応する。ベテラン達は動きに無駄がない。
私だけ顔を少しだして、路地を確認する。ブラボーが侵入した建物へ向かおうとする所だった。
「ブラボー、正面から敵、引き付けて撃て」
すぐに発砲音が響く。窓から確認すると敵が数人倒れており、建物の外、塀の裏に逃げていく。
しかし、そこは私達から丸見えである。残る敵は3人。
「中佐、ルッツ!一緒に!」
私も含め3人で発砲する。
「構え、撃て!」
敵は抵抗出来ずに倒れる。通信する素振りは見られなかった。まだはっきり見つかってはいないはずだが、発砲音は聞かれただろう。すぐ隣の通路にも敵部隊はいたはずだから。
「クリア、急いで移動する。ブラボーはそのまま西へ。チャーリーは左、アルファが右及び後方警戒をしながら進みます」
「「「了解」」」
「ブラボー、西に100mも行けば敵のトラックがあるはず。そこまで行きます!」
「ブラボー了解。先導します」
1部隊を突破して進む。このまますんなり行けばいいが、そうもいかないのだろう。
レッドアイが使えないのがこんなに不安になるとは思わなかった。命がかかった状態でいつ接敵するか分からない。
そりゃ、怖い……
でも、やらなきゃ殺られる。ゲームとは緊迫感が違う。
「リリーナ、前方に敵兵を発見した。こちらにはまだ気づいてないようだ。戦闘するか?」
さっきの敵だけじゃなかったか。さっきの銃声はバレているだろう。あまり時間をかけると敵がくる。
この正面だと……
「それは青い屋根の平屋ですか?」
「そ、そう、その平屋だ!敵兵10人以上いる」
言い当てられて、若干びっくりした声色でクサマ少佐が答える。
さっきのは先行偵察部隊だったようだ。この包囲網の本隊はこっちか……
まだ動いていないってことは連絡される前に倒したってことだ。
だけど、近くにいた隣の偵察部隊にはバレていると思った方がいい。
「ブラボーは合図をしたらフラグもありったけ使って攻撃!チャーリーはブラボーと合流し後方警戒!」
「「了解」」
私達の武器は倒した敵から回収した物ばかりで、補給の手立てはそれしかない。しかし、ここを急がないと私達が抜けてきた偵察部隊がこちらにくる。
アルファチームを連れて、敵が溜まっている青い屋根の平屋を見て、右に迂回する。この通路は向こうから死角になる。ゲームでやったことあるマップなら、全部把握している。
建物...
抜け道...
どこが壊せるか……
射線の通る場所…………
全て知ってる自信がある。
迂回してたどり着いたのは、崩れかけたコンクリート製の建物2階。屋根が半壊して、空が見えるその場所は敵からはかなり見にくい。
しかし、敵が多いな。民家の庭と屋内に20人以上いる。
あ、まずい!連絡がきたのか動き出そうとしている。
「こちらアルファ、配置に付いた!ブラボー始めてください」
「こちらブラボー、お任せを!」
ダダダダダダ!!ドンッ!!
ブラボーによる攻撃が始まる。なんとか敵がバラける前に奇襲が間に合ったようだ。
敵は正面に釘漬けになる。敵から見て左斜め上にいる私達は意識から完全に外れていた。
「全員、手前の通路から狙うように、奥は私が抑える。構え!」
アルファチームが廃墟より敵を撃ち落ろす形で構える。
「撃て!」
一斉に発砲する。この位置からは彼等に隠れる場所はほぼ無い。
私は民家のプロパンガスを狙い、撃ち抜く。これで奥の出入口は炎に包まれあの家からの外に繋がるのは手前のみ。
ガッとコンクリートが崩れる。私達に気付いて撃ち返してきたようだ。しかし、外にいた敵はもう倒れている。あとは建物の中だけ。
「ブラボー、チャーリー、敵はあと家の中だけだ。距離を詰めてフラグを使用して!」
「「了解」」
「ルッツ大尉、この部屋の対角の部屋の窓から索敵を!」
「おっけい!」
「先生達はここで奴らの気を引いて、ブラボー達が動きやすいように!」
「了解だ、リリーナは?」
「ちょっと出てきます」
私はそう言って1階に移動する。1階の階段下、扉を開けて確認するとコンクリートにヒビが入っていた。
「やっぱり……」
ゲーム時代、沢山撃って木を倒したり、爆発物で建物を壊すなど、その状態でマップに影響を与えることが出来た。
そんなリアルな表現が出来た事も人気の理由だったのだが、マップ内には制作サイドが用意したギミックが存在する。
それがここだ。私は腰から取り出してセットし、2階に戻る。
「戻ったか!?」
「お待たせしました!」
「何してたんだ?」
「取っておきを用意しておきました」
ん?とレイン先生は怪訝な表情だが、今に分かります。
「こちらブラボー、平屋を制圧した」
「了解、使える装備を回収して、すぐ離脱する」
「了解した」
スムーズに制圧出来たようだ。これで包囲網は突破出来ただろうか?
「リリーナ!やべぇ!ヘリが来てる!!装甲車も見えた!」
ドタドタと慌ててルッツ大尉が入ってくる。
「そこの通路沿いです?」
私はルッツ大尉に見てもらった窓の方を指差し確認する。
「そうだ!奥からきてる!!」
いよいよ場所がバレて、敵が集結し始めたようだ。
「全員、西へ!急げ!ブラボー、先導を!アルファチームが殿だ」
「「了解」」
急いで階段を降りる。私は階段下でアルファチームの仲間達を先に行かせる。
「先生、アルファチームの先導を!私は早速仕掛けを使います。先行してください!」
「ッ!?わかった!」
レイン先生はなんの事か分からないながらも、信じてくらたようだ。西へ移動し始める。
私も最後尾で一緒に進むが、廃墟から2つ隣の家の方にある、塀の影に身を寄せる。
この位置は塀の隙間から先程の廃墟が見える。尚且つ、センサーが届くギリギリの距離である。
すぐにヘリの音が大きくなり、青い屋根の平屋に倒れた敵兵を...
向こうからしたら味方が全滅したのを目にしただろう。
装甲車も平屋の前に辿り着いた。その道路からは私達のいる西へ装甲車は入って来れない。
やはり、車両から敵部隊がぞろぞろと降りて何やら叫んでいる。
クソッ!ヘリが先に動き始める。ベストなタイミングではないが、ヘリだけは野放しに出来ない。
私は手元のスイッチを押す。若干の抵抗の後、カチッという音と共に押し込まれたスイッチは、先程の廃墟にセットした爆薬に確かに伝わった。
ドォンと言う、音と共に形を保つための要であった支柱が破壊され、コンクリートの廃墟は平屋側に倒れて敵ヘリを巻き込み、全壊した。
轟音と土煙が広がり、爆発した炎が燃え上がる。歩兵や装甲車をどこまで巻き込めたか分からないが、追手の足止めにはなるだろう。
私もアルファチームへ合流するため、西に急がないと!
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