45.ルンドバードの判断
ルンドバード連邦軍指揮官、ジミー・コロブキナはアルステリア軍本隊を破り、クウィントンの街へと進軍を始めていた。
指揮官である彼等もその戦場を、自分の戦果を見て満足気になる。
「くくくッ、精強と言われたアルステリア軍も魔力がなければただの人だな」
「エーテルノヴァ!やはり素晴らしい!!」
ボーゼフもコロブキナに同意する。2人の乗る車両の周りにはアルステリア軍本隊の見るも無惨な光景が広がっていた。
戦闘ヘリによる機関銃斉射に為す術なく破壊された。人体をいとも容易く破壊するその機関銃によって、亡骸は至る所が欠損していた。全てが、周囲の木々ごと粉砕され、動けなかった車両はなんの抵抗も出来ず風穴が開けられている。
無論、アルステリア軍とて抵抗していた。対空ランチャーにて2機の戦闘ヘリを破壊していたのだ。しかし、間に合ったのが2機である。装備していた対空ランチャーはロックオンに数秒かかり、その後に発射するものである。
自軍のヘリが急に墜落し、車両も動かない混乱の最中に行われた機関銃の一斉射撃の中で、2機撃墜できただけでもアルステリア軍は奮闘した方だろう。
アルステリア軍には魔術適正を持った者もいた。血統スキルを持った者もいた。しかし、なにも発動することも出来なかった。真正面から歩兵vs戦闘ヘリでは結果は見えていた。
コロブキナから見れば戦闘ヘリを2機を失ったが、それだけでノーステリアの主力部隊を壊滅せしめたのだ。
これほどの戦果、対峙した戦力と比較すると大勝と言えた。
正確に言えば国境基地など、被害はあるが、この戦果に比べれば少ないことに変わりはなかった。
「もう少し楽しみたいところだが、戦局も決した。結果を待っているお方がいるので、私は帰って報告をさせて貰うよ」
「承知しました。予定通り車を用意させています。ボーゼフ殿、よろしく頼みます」
「えぇ、コロブキナ少将。いえ、次お会いする時は中将かも知れませんね。
ククッ、新兵器実験の成功と、クウィントンの占領。これだけの戦果だ、期待しても良いでしょうな」
「またお会いする時を楽しみにしております」
ニヤニヤと笑うコロブキナの車両から降りたボーゼフ
は、用意された車両でルンドバード本国へ帰っていく。
「参謀室相手はやりにくいが、まだボーゼフは気が合う。くっくっく……
さて、今度こそしっかりとクウィントンを私のものにしよう。急がねば私の奴隷達が逃げてしまう」
この時、すでに先行したヘリから、アルステリア軍がクウィントンを放棄した情報は耳に入っていたのだ。
想定より早い撤退に、むしろ褒めてやろうではないかと思っているくらいだった。
クウィントンの軍事支部を破壊して混乱に陥ったと考えていたからだ。
実際には早い段階でウルフ大佐より緊急避難の要請があり、直ぐにレイン中佐が撤退命令を出している。支部破壊の効果は抑えられていたのだ。
そこからクウィントンの街へは立地的にも北側からルンドバード軍は進行することになる。ルンドバード軍を遮るものは既になく、ぞくぞくと北門から侵入していた。
指揮官であるコロブキナは北門を入って直ぐに専用車両を停止した。この専用車両は内部に通信兵を4名置き通信設備を充実させている。ここから容易に指示を出すことができる。そんな車両には先程まで隅に控えていた補佐官がコロブキナの隣に座っている。
「クウィントンに到着ですね。制圧完了まではここに停車する形でよろしいですか?」
「あぁ、支部も破壊している。この車両の方が快適だろう。どうせ、奴らは放棄したようだしな」
侮蔑の表情をしたコロブキナは通信兵から新たな報告を受ける。
「司令!先行していた偵察ヘリが落とされたようです!」
「ほう?まだ抵抗する兵がいたか。時間稼ぎでもするつもりか?
まぁ、あまり市民逃がされても困る。我々本隊が到着した今、狩りの時間が残っているだけだろう」
既に勝敗は決しているのだ。あとは如何に市民を逃がさないか。それが気がかりだった。
「しかし、思ったより避難が進んでいる。
ヘリも車両を全て回して構わん!急ぎこの街を確保しろ!」
「はッ!」
一度占拠している奢りは確かにあった。しかし、コロブキナの予想通りに、本隊を破られたアルテリアは既に個別の抵抗しか出来ないほど弱っている。
あとは待っていれば簡単にクウィントン制圧完了となる。どうせ魔力が使えないのだ、アルテリアは戦闘ヘリに蹂躙されて終わるだろうと考えている。窮鼠が猫を噛んだくらいのものだろうと。
窮鼠に紛れた猛獣が解き放たれていることは、まだ分からなかった……
一息をつくため、コロブキナは葉巻に火をつける。もうもうとした煙を車内から出すため窓を開ける。ふと遠くを見ると黒煙が上がった。
「ん?残存兵どもが抵抗しているか…」
「司令!戦闘ヘリがまたやられたようです!」
「敵歩兵の対空ランチャーだろう。ちゃんと歩兵と息を合わせろ!連携くらい散々やってるだろ!」
「ッ?第55分隊、応答せよ!第55分隊応答せよ!
…………第55分隊との通信途絶しました」
「歩兵も一緒にやられた?敵は魔法も車両使えんのだぞ!?
55分隊は…この辺りか。ふむ、近くの部隊を全て向かわせろ!」
「はい!えー、付近にいる4部隊全て向かわせます!」
「それでいい。戦闘ヘリとの交信を細かく行うように言っておけ」
「はっ!」
「手練でしょうか?」
「おそらくな。レッド部隊で逃げられたのは2名だったな?」
「そうです。しかし、【狩人】の死亡は確認していますよ?」
「聞いた事がある。ネームドではないが、長年レッドイーグルの部隊だった奴らがいると。
そいつらとレッドイーグルを含めた、たった4人の部隊に手を焼いていたらしいのだ。逃げたのはおそらくそいつらだろう」
「そのような手練が……第55分隊はそいつらに?」
「移動が早すぎる気がするが、絶対ないとは言えないな」
そう言って、腕を組み考える。
「ファティ、手隙の部隊はいるか?」
「えっと、西側は抵抗がほとんど無くて順調なので、大丈夫じゃないかと!」
「ふむ、では西から南東方面に4部隊と戦闘ヘリを追加投入しろ」
「はいです!」
ファティと呼ばれたオペレーターは直ぐに連絡を入れる。
「過剰戦力かもしれんな」
ククッと笑いながら、グラスに酒注ぐ。コロブキナは待って入れば街が手に入る単純な話だと思いながら、喉を潤していた。
「し、司令!!またヘリが破壊されました!分隊とも連絡取れません!」
「は?」
「58分隊!応答してください!」
コロブキナも慌てて、オペレーターのそばに向かう。
モニターに表示されたマップには、戦闘ヘリに搭載されたレーダーから送られた味方の信号が青色で点滅している。しかし、東方面にはヘリのマークがいなくなっている。それに伴い青点もなかった。
「第60分隊!無事ですか!?」
「こちら第60分隊、早く増援をよこしてくれ!!」
「今、向かってます!耐えてください!」
「気付くと味方が死んでるんだ!クソっ!なんなんだ!」
連絡のついた第60分隊も追い詰められているようで、若干パニックになっている。
「この4番機周辺を拡大しろ!」
戦闘ヘリのレーダーは半径200m程は確認出来る。しかし、既に近くの戦闘ヘリはおらず、先程、西から向かわせた4番機が最も近かったのだ。
その4番機のレーダーがピコン、ピコンと円を描きながら先程、信号が途絶えた方へ向かう。
4番機がようやく近付くと、ピコンと青い点が光る。
「なんとか間に合ったようですね」
オペレーターがそう言い胸を撫で下ろす。しかし、次のスキャンに青い点は消えてしまい、再び映ることがなかった。
「……何が起きている!?」
「4番機に報告させろ!」
「4番機!なにか敵は見ましたか?」
モニターを凝視しながら考えていると、4番機の信号までもが消えてしまった。
「ッ!?」
「こ、ここでもう、ヘリが4機破壊されています」
「敵の数は!?」
「分かりません!」
「なにをしているんだ!!」
「す、すみません!!」
コロブキナは思わず怒鳴り散らす。
「情報はなにかないのか!?」
「小さい人影が見えたという話しかありません」
「それではなにも分からんではないか!」
目頭を抑えたコロブキナは思考する。ここは正体不明の敵を消しておくべきだ。それが精鋭だとしたなら尚更だ。
しかし、それには随時投入では被害が増えるだけ、それなりの戦力が必要だ。この未知の敵にどうしようもなく不安が掻き立てられていた。
「………いやな気配だ。他場所での交戦はあったか?」
「西側は依然ありません」
「南西側でも数件交戦しましたが、既に制圧完了しています」
「軍支部跡地で未だ抵抗がありますが、制圧しつつあります」
「軍支部はほぼ街の中央にあったな。
……仕方あるまい。軍支部にいる部隊以外の各部隊に通達しろ!部隊を2つに分けて半数を南西に向かわせろ!正体不明の部隊を潰せ!」
コロブキナの指示により包囲殲滅が指示されたのだった。
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