44.役目
シア達が離れていき、声が聞こえないだろう距離が広がる。
「行きましょう」
私はそう言い、レイン先生に向き直る。
「敵は多いか……」
レイン先生はアレだけで察したんだね。
「中佐、どういうことですか?学生を残すなんて!?」
先程、発言を制されていた兵士がいてもたってもいられず発言する。
「ぁあ、皆に紹介しておく、この子はリリーナ・ランドルフ。レッドイーグルの一人娘であり、レッドアイの継承者だ」
「レッドイーグルの!?」
みんな驚いている。父さんってちゃんと有名だったんだな。
「し、しかし、まだ子供ですよ!今は逃げて、生きてるべき人材です!」
この人は私の心配をしてくれてるんだね。でも……
「大丈夫だ。リリーナの実力は私以上だぞ」
「え??」
レイン先生、それは流石に買い被りすぎです。
「やればわかる。それにリリーナ、敵の規模は?」
「はい、見える範囲ですが、戦闘ヘリ6機、車両10以上、敵兵はもう数えるのも難しいレベルです」
私は改めてレッドアイを使って確認し、報告する。
「もはや敵本隊が来ているものと考えた方がいいな」
多分、そうだろう。遠くてもう、赤いシルエットが被り過ぎて何が何だか分からない。だが、それだけ多いのは間違いない。
「そんなに多いのですか……」
「おそらく、リリーナの能力がないと遅延戦闘もまともに出来ず突破されるだろう。我々が時間を稼がなければ誰もノーステリアにたどり着けない。ここが正念場だ」
「…承知しました。
すまんかったな、リリーナ・ランドルフ。余計なお世話だった」
そう言ってその兵士は頭を下げる。よく見ると少佐の階級章がついていた。
「いえいえいえいえ!ご心配頂きありがとうございます。問題ありませんから!」
この人いい人過ぎる!学生にそんなことされても焦るって!
「仲良くなった所で、リリーナ、こちらはクサマ少佐だ。射撃大会で1位になったこともあり、頼りになる方だ」
射撃大会!?見学したことがあるぞ!
アルステリア軍人の中でもトップ成績だったってことだ。
「それはすごい!よろしくお願いします!」
「あぁ、よろしく!」
クサマ少佐は30歳後半くらいだろうか、頬に傷があり、若干厳つさのあるベテラン兵士感が凄い。話すと優しい…
そんな感じの印象だ。
「リリーナ、今把握しているこちらの戦力はここにいる6名と、少し戻った先にいる12名の18名しかいない。予備の渡しておく。」
やはり、こちらの戦力はほとんど残っていない。貰った銃はアサルトライフルの【レックス】だ。さっきまで借りていた銃と同じだ。こっちはグリップが付いている分、反動を抑えやすくなっている。使いやすい汎用アタッチメントと言った所だ。
「制度上、正規軍への指示は私がするが……
リリーナ、お前が私に指揮をしてくれ。全ての責任は私が取る」
「「え??」」
「レイン中佐!?戦力になるのは分かりましたがそれは流石に………」
クサマ少佐の言う通りだ。どこの世界に学生に指揮を執らせる指揮官がいるのか。正気か?
レイン先生、頭でも打ったか?
「クサマ少佐、私はリリーナの担任なんだが、だからこそよく分かる。贔屓なしにリリーナの指揮能力はずば抜けている。テレーズ・アルノー長官のお墨付きだ。
正直、レッドアイよりも頼りにしたい部分なんだ」
お、長官に認知されてた!ふふっ、そうだろう。前世含めて何マッチも試合しているぞ。
「……私はリリーナを知りません。でも、中佐が優秀であることは分かります。……本気……なんですね?」
「ああ。私はこれが最善と判断する。さっきも言ったが、この判断の全責任は私にある」
レイン先生そんなに私の事をかってくれてたのか。前世のFPSチーム【月光】の頃からずっと指揮してたし、楽しかったからね。
月光は二連覇したんだから、自信はあるよ。でも、あくまでもあれはゲームなんです。
あ!あの演習はゲームみたいでめっちゃ楽しかった。いや、もっとだ。ゲームよりも楽しかった。願わくばずっと演習場で遊んでいたいと思う。
でも、今は違うよね……
失敗したら死ぬんでしょ?リスポーンなんてない。本当に死ぬ。
レイン先生やクサマ少佐達の命もかかっているのだ。責任は重大……
それにまた転生する保証なんてない。
きっかけは復讐したくて軍学校に入学したけど、護りたいものも出来た。私が役に立つならやりたい。
復讐を諦めた訳じゃないが、それだけじゃないってだけ。
なんかやりたい事が色々出来てしまった。
はぁ
責任は大きいし、死にたくもないけど、また演習場で遊ぶにはここを切り抜けないと未来はない。みんなを護るなら、今、ここでやるしかないんだよね。
やるよ、やってやるよ!!
「先生…、全力で行きます。いいですか?」
「あぁ、全力でやれ!今はお前が指揮官だ」
背中をバシッと叩かれる。少し緊張しているのを察したのだろうか。
フーッ!ヨシ!
「一旦、合流します。道すがら、こちらの装備と使用出来るスキルがあれば教えてください」
まずはこちらの戦力を把握しなくては話にならないので聞く。
「装備は全員標準装備は1式ある。ただ対空ランチャーは2丁、3発ずつの計6発のみ。スキル保持者は私だけだ」
標準装備はグレネード2個とコンカッションが2個、メインのアサルトライフル系の銃とサブにハンドガン。これが標準装備だ。
まだ交戦してないから今はいいけど、補給が怪しいから余力はあんまりない感じだね。
……
「え?先生って血統スキル持ってたんだ!?」
思わず口にでてしまった。
「あぁ、言ってなかったか?私は魔力を任意の弾薬に変換できる。弾の心配はしなくていいぞ」
おぉ、その節のモードではとてもお世話になる弾薬補給のスキルだったとは。でも……
「先生、試しにランチャーの弾を1つ作って貰えますか?」
「ん?わかった」
レイン先生が両手を出して魔力を込めた。……ようだ。
「あ、あれ?作れない」
「やっぱりですね」
「な!?知ってたのか?」
レイン先生が驚いている。知らなかったようだ。そうか、レイン先生の能力だと使おうと思わなきゃ気付かないか。
「魔力全般が無効化されていますが、自身の体内で完結するものなら使用できます。だから、私はスキルが使えますが、魔法関連は使えません。バリアもです」
「それが現象の答えなのか!?」
「起きている事象は少なくとも間違いないです」
目をパチクリとさせ驚いたレイン先生はクサマ少佐に向き直る。
「中佐、優秀なのは分かりましたから、ドヤ顔されても困ります。どちらかと言えば今のは悲報ですよ」
「ん、使い切ってから分かるよりはマシだろう」
「それはそうですね……」
レイン先生、の期待に応えないとね。合流した隊員達はいずれもベテラン兵士達。新兵と思えるような人はいない。これなら安定した成果が期待できる。
敵が動き始めている。
私は班を3つに分けて、打って出る。地図を見れたのは行幸だった。ここ、クウィントンの街の一部は私の知ってるマップだったのだ。
もちろん、ゲームだと行けない部分は知らないので、その外側は地図のお陰である程度補完する。
「チームブラボー、所定の位置に到着」
「了解、ブラボーはそこは待機」
「ブラボー了解」
「チャーリーも到着」
「了解、チャーリー、そこから北東方向の窓枠下に待機、射撃準備をしておいて下さい」
「チャーリー了解」
アルファチームは私が直接連れていく。レッドアイで敵位置を最終確認をして建物の2階へ。
敵は歩兵と装甲車、戦闘ヘリと多様だが、やはり脅威は戦闘ヘリ。まだ敵が多いため、一つ一つに時間はかけられない。
「ブラボーチーム、そろそろ先行した歩兵と接敵する。発砲後はポイント2へ退避!」
「ブラボー了解」
少しして、発砲音が聞こえる。接敵したようだ。これで敵が集まってくる。装甲車はこの路地には入れない。必ず歩兵が来るだろう。
「こちらブラボー、ポイント2へ退避中」
「アルファ了解」
「チャーリー了解」
そのブラボーチームを追う敵歩兵は絶対にここを通ることになるため、そこを叩く。私達の右手には壁がある。そのL字の壁の途切れた先は路地に面しており、路地を真っ直ぐ進んだ者には完全な死角部分にいる。つまり角待ちポジションだ。敵兵はブラボーチームを追って、想定通りに目の前の路地に見える。
まだだ。
敵歩兵は足音的に少し後ろにもう人いる。
「……今!!」
ダダダダダダ!!
…………全滅を確認。
「目標クリア。こちらはポイント3へ移動する。チャーリーはランチャー用意」
「チャーリー了解」
私とレイン先生を含めた6人が走り出す。ちなみにクサマ少佐はチームブラボーのリーダーとなっている。
私達がいる路地を抜けて行くと開けた通りにぶつかる。そこへ援護の為に、私達を逃がさないようにと、戦闘ヘリが回ってくるわけだ。
しかし、その位置は、あらかじめ配置されていたチャーリーの真正面であり、敵機は私達を撃つためにチャーリーには背を向けている。
ドン!!と音を立てながら爆発音が聞こえる。民家の1階に潜んでいた私は、あまりにも簡単にいくため思わず笑ってしまう。
「こちらチャーリー、ハハッ!戦闘ヘリを撃墜した」
ゲームの時との違いを考慮しつつ、作戦を組み立てなきゃいけない。
「了解、次の作戦に進む」
アサルトライフル【レックス】≒M16
見た目などはこちらのイメージで。但し、あくまでも性能はゲーム〖Hero of War 虹色の戦争〗を元となっており、実銃とは必ずしも同じではありません。
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