43.ナンシーの見たもの
リリーちゃんの指示に従い、来た道を戻っていく。
「こっちです」
南門付近から距離がとれた辺りで、リリーナが曲がり民家の庭に入る。ここは町の中心部から離れており、高い建物は減って同じような民家が多い。
リリーナにそんな建物の1つに誘導される。私達はハンドガンとさっきリリーナが借りたアサルトライフルが一丁しか装備がない。
普通、戦闘ヘリは対空ランチャーで撃ち落とすものだ。物陰からロックして発射する。開けた場所だと厳しいがこういった建物が点在して隠れる場所が多いなら有効だ。でもそれが今はない。
どうするつもりなんだ。
「カンナが誘導役。射線が通らないように、アクセルを使用して!残りここで待機、私から合図が来たら、全員でこの木をその道路側に倒して!」
リリーナから指示を受ける。カンナが誘導役なのは分かる。あのアクセルってスキルなら1番適役だろう。
問題は木を道路側に倒すってどうしよう。
「木を倒すって、どうやれば……」
私達は思わず聞いてしまう。しかし、顔を見ればアグノラも同じ意見のようだ。
「え?ナンシーさんやったことないですか?じゃ時間がないので、詳細はシアに聞いてください。カンナはついて来て!」
そういうと直ぐに、駆け出して行ってしまった。ヘリが近いから仕方がないのだろう。
「シアちゃん、どうするの?」
リリーちゃんの言う通り、シアちゃんに確認しよう。
「はい、簡単に言うと銃で撃って削り倒します。最後の倒す方向は蹴り飛ばす感じですね」
「ハンドガンでやれるの?」
「リリちゃんはこの木を全員でって言ってました、私達の兵装でもやれるということです」
「ほ、ほんとに大丈夫?」
アグノラも心配そうだ。
「私達も演習でやったことありますし、リリちゃん
は倒せる弾数まで正確に言い当てます。間違えたことなんてありませんよ」
「そ、そこまで分かるの?」
「はい、今回は道路側へ倒すので、この辺りを集中して狙ってください」
ま、まだ半信半疑になってしまう。いや、ちょっとはそんな期待もあって指揮権をリリーナに渡したんだけど、あまりに予想の斜め上過ぎてよく分からない。
とりあえず、言うこと聞くしかない。私達は横並びに並ぶ。道路からアグノラ、私、シアの順だ。シアが慣れているからと、最後の蹴り飛ばし役をお願いした。
私達はシアが先程言っていた道路側の幹を集中して狙う。
……少し待つとヘリの音が聞こえる。
「カンナそのまま、直進……そろそろアクセル行くよ!」
「おっけー」
無線からリリーナながカンナへの指示が飛んでいる。
「今!!」
ヴゥゥーーー!!!
リリーナの合図の後、ヘリの機関銃の音が聞こえる。大丈夫なのだろうか?不安が募る。
「木を倒して!!」
ッ!?合図だ!私達は一斉にハンドガンを撃ちまくる。
確かに1発では全然だったが、木の幹がどんどん削れていき、1箇所抉り取られたようになる。
「はっ!!」
シアちゃんが木に向かいハイキックを繰り出す。ドンッという鈍い音を立てる。
今度はメキッメキッと音を立てて、倒れ出す。狙い通りに道路へ倒れた。
……この子も大概ね。今のキック、かなりの威力だった。私じゃきっと受け止めきれないわ。
サークルでも氷魔術が凄いけど、体術も凄いのね。今の7年生はどうなってるの?
木は倒れたけど、ヘリに当てるんじゃないの?
ヘリの音はかなり近いけど、ここからは死角になっていて分からない。
ダダ!ガガガ!ドゴン!!
次の瞬間には爆発が起こる。
「敵機撃墜、みんな任務完了だよ」
リリーナから連絡が入る。やっぱり今の爆発はヘリの音だったようだ。
道路に出るとヘリが横倒しになり燃えていた。
敵兵は既に息絶えているようで炎のなかに動くものは無い。
「やったね」
カンナちゃんも合流する。
「カンナちゃん、怪我はない?」
「あ、大丈夫です!私結構速いんですよ」
「アクセルだね、映像で見たよ!凄いよね」
「あの頃よりさらに速くなってますから」
ニコニコしながら話ているが、この子達トンデモないのでは?
「さっ!みんな戻るよー」
その子達を率いる子が帰ってきた。
「ねぇ、ヘリどうやって落としたの?」
それは私も気になる。出来れば今後の参考にしたい。
「あぁ、普通にパイロットを撃っただけですよ。倒してもらった木で少し止まるのでその隙に」
なるほど……
……言ってることは分かるけど、やろうと思ってもなかなか出来ることじゃないんじゃ?
簡単そうに言ってるけど、難しいよね?
「お前達!無事だったか!」
聞き覚えのある声に振り向くと、レイン中佐と数名の兵士達が立っていた。
「「「レイン先生!」」」
7年生の3人が駆け寄る。あの無線だ……みんな、心配してたんだろう。
仲がいいんだな。私達は不本意な形になってしまったため、ああゆうの羨ましいよ。
「先生こそ無事だったんですね!良かった」
「あぁ、何とかな……」
そういう先生は、服に汚れが付いており、顔にも擦り傷が出来ている。
「支部が崩壊したが、何とか逃げ出せた。生き延びた皆と南下していたら爆発が見えたのでな。そしたらお前達がいたんだ」
「敵のヘリが追い付きそうだったのでしょうがなく…」
「ぶっ飛ばしてやりました!」
「いっちょ上がりです」
リリーナ以外はドヤ顔だ。リリーナは結構謙虚なんだな。
「武装があればもっと落とせるんですが……」
あっ…………違う。謙虚とかそういうんじゃない。戦闘ヘリ1機じゃ満足していないだけだ。あのくらいなら当たり前と思っているんだ。
「ッ!?レイン先生、追加で敵がきます!」
「え?」
「そんな!?」
みんな動揺する。気付くとリリーナの目が紅く輝いているので、発動してのことだろう。
「まだ遠く数が未知数ですが車両と思われます。ッ!?既に味方と交戦してます……」
「……支部に残ったもの達だろう」
レイン先生の顔が曇る。
「ラリー先生は?」
「ラリー先生は命は無事だが、腕を怪我してな。今、正規軍は遅延戦闘と市民の護衛に別れて作戦中だ。市民の護衛班の指揮を執っている」
あ……
「お前達は市民と合流しろ!私達が遅延戦闘してる間に早く避難するんだ!!
このことを本部に伝えるのがお前達の使命だ!次に繋げろ!!」
……それは死ぬ気ですか!?
そう声を出しそうになり堪える。レイン大佐の後ろに控える兵士と目が合う。いずれもベテランの兵士達で、若い兵士は1人もいない。その目はギンとして、復讐なのか、はたまた未来の為なのか……
少なくとも死を覚悟した目をしている。
とっくに分かってて軍を2つに分けてたんだ。
「分かりました」
「先生、まだ全然教わりきってないですからね」
「あぁ、そうだな」
カンナも分かっているんだ。
………暗い気持ちになる。でもちゃんと逃げないと、みんなの努力が無駄になる。それは避けないと。急いでみんなと合流しよう。南門へ駆け出そうとした時、思わず止まってしまう声が聞こえる。
「私も残ります」
振り返るとリリーナはレイン先生の前から動いていなかった。
「なに言ってる!?」
レイン先生も驚いている。
「分かっています!!…でも、私の能力があれば、生存率を上げ、遅延戦闘も可能です!」
「ッ!だが」
「私!は!!ミシェルにもうこれ以上家族を失って欲しくない。私と同じ思いはして欲しくないんです。私がやれば可能です!」
リリーナが真っ直ぐレイン先生を見据える。
「ッ!」
何か言おうとして後ろの…階級は少佐が1歩前に出たが、レイン中佐に手で制した。
「……分かった。リリーナも来てくれ」
「ありがとうございます」
「リリちゃんが残るなら、わ「ダメ!!」」
シアの言葉にリリーナが被せる。
「シア、あなたは避難しなさい」
「でも!」
「あなたがいても変わらない。足でまといだから、避難しなさい!」
なかなかに強烈だけど、学生が1人増えた所で変わらないし、ベテランに混じるのはいくら優秀な7年生でも無理がある。
リリーナも危険だと分かっている。だからこそ、シアを遠ざけてる。言っていることは厳しいが、目は優しかった。
シアの目から涙が垂れ、反論出来ない。
「………」
「大丈夫、シアはまだまだこれからなの。必ず戻るよ」
リリーナはシアを抱きしめる。
「……ゔん」
涙が止まらないシアはそれでも返事をする。
「さ!時間がない!早く行って!カンナ、シアを任せるね」
「うん。リリー、絶対帰ってこいよ。まだ一緒にやることたくさんあるんだからな!」
「分かってる。あ、これ返しておいて…」
「武器は…」
「あぁ、予備があるからリリーナの分は大丈夫だ」
「分かりました……」
カンナも目から溢れそうになり、声が震えていた。
私達は南に走る。振り返ることなく、涙を擦りながらそれでも前を向く。必ずこのことを伝えないいけない……
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