41.放棄
「なんだろ?」
カンナが空を見上げる。吊られて私も見上げると空が虹色に輝いていた。まるでオーロラのようなそれは、神秘的で幻想的な光景だ。
みんななんだろうと手を止めて空を見上げる。
しかし、私はそれを知っていた。
あるマップのギミックで存在するEN装置だ。誰かが起動すると起動者やその所属チームを除いたスペシャルスキルと、連続キルする事で戦闘ヘリを呼んだりする事ができるキルストリークが使用出来なくなる。
起動できなくてもなんとかなるけど、不利なのは間違いない。
ここはそのマップじゃないんだけど、どうゆう事だろう。
そもそも、これがEN装置だとしたら起動はどっちだ?
ルンドバードかアルステリア、後者ならいいんだけどね。私はレッドアイを発動する。
あ、うん、問題なく使えた。
アルステリアの兵器にこんなのあったんだなぁ。まだまだ知らない事があるようだ。
「なにが起きたんだ?」
「なんか綺麗だねぇ」
「わ、私はなんか怖いかも」
ナンシーさんの反応的にもやっぱりみんな知らないんだ。
多分、味方アルステリアだから大丈夫だと思うよと言いかけて、私が知ってるのはおかしいと思い踏みとどまる。
「リリちゃん、なんか変な顔になってるけど、どうしたの?」
「へあッ!?いやいやいやいや!なんでもないよ!」
シアが気付いてくるため、びっくりして変な声がでた。
「本当に?」
「ほんとだって!」
「あれ?動かねぇ!故障かぁ?」
シアに言い訳しているとそんな声が耳に入る。
「あれ!どうしたのかな!」
話題を逸らすためにも向こうに促す。
エンジンルームを開け始めた、トラック担当の兵士さんに声を掛ける。
「どうしたんですか?」
「いやー、エンジンがかからなくてね」
「おぉ、それは困りましたね」
「比較的新しい方の車両なんだけどねー」
「動かないんですか?
あッ!アグノラ!一旦、積み込むのやめて傍に置いておこ!」
車両を変えなきゃいけないなら、やり直さなきゃいけないからね。私もナンシーさんに賛成だ。
「え!?全部??」
無線で連絡している兵士さんの声が大きくなる。
「わ、分かりました」
トラック後方にいる私達の方にきた兵士さんは困り顔だ。
「君たち、何故か分からないが全ての車両が動かないらしい。一旦作業中止として、支部に集合だそうだ」
全部?あれ?でも、レッドアイは発動したよ?
「わかりました。みんな、一旦撤収するよ!」
ナンシーさんが受け答えしているが、私はそれどころじゃなかった。
「あれ?リリーちゃん?どうしたんだ!?」
ナンシーさんが私に気付いて声を掛けてくれる。
あっ!そうだ!
「ナンシーさん、氷は出せますか?」
「え?氷?まぁ、私、氷適正だからね」
「ッ!違います!今、出せますか!?」
私は焦った様子で言ってしまう。ナンシーさんは上級生なのに。
しかし、ナンシーさんは少し驚いた様子だったが、氷を出そうとしてくれた。
「あ、ごめんごめん。今ね!ほっ!…………あれ?」
軽く手の平を出して氷を出そうとしたんだろう。しかし、出ていなかった。
今度は両手で出そうとする。
「ん!!」
可愛らしい掛け声だけが響き、何も起きなかった。
「あれ??なんでッ!??」
ナンシーさんは驚き、焦り出す。
「え?なになに?どうしたの?」
それを聞きつけたアグノラさんも、やってきて、氷が出せないことを聞かされる。
「アグノラさん、毒は出せますか?」
「う、うん…やってみる…」
少し緊張した様子でアグノラさんがナイフを取り出して、毒を付与する。
「あ、あれ?私も付与出来ない!!」
「やっぱり……」
本来はナイフが紫っぽく変化して、The毒って感じの液が滴るらしい。
なんて分かりやすい毒。
「ねぇねぇ、リリー!私は変わらずアクセルできるよ!」
「カンナは使えるまま……?」
ゲームのEN装置はスペシャルスキルが全部使えなかった。キルストリークも同様だったけど、そこがゲームと現実との違いなのだろう。
クソー、こうゆう違いを把握しないと後手に回ってしまうな。
車両は動かない。氷は出ない。毒も出ない。私とカンナは使える。
うーん……
ウーーーーーー!ウーーーーーー!
急にサイレンが流れる。
「全員!敵機が接近中だ!!物陰に隠れろ!!」
ナンシーさんの無線にレイン中佐から端的に告げられる情報は切迫した状況を理解するには充分だった。
訓練された私達は素早く建物内に避難する。戸惑っている、トラック担当の兵士さんは手を引っ張り無理やり移動させる。
「な、何をッ?」
「し!!」
口に手を当てて、黙らせる。
私達の動きを見て、兵士さんも察したのかその後はじっとしている。
………………………5分くらいだろうか。もっと短いかもしれない。
兵士さんの緊迫した状況が少し緩みかけた時、音が聞こえる。
ヘリの音だ。
EN装置が起動していればヘリは起動した側の軍しか動けない。そして、アルステリアの車両は動かない。
レイン中佐の声から判断しても、間違いなく敵の戦闘ヘリだ。
ヴヴヴーーー!!!
機関銃の重低音が聞こえる。それだけでなく重低音に混じって、叫び声も聞こえた。
私達のいる路地ではないが、方向的には大通りの方だろう。何故、敵機が?といった疑問は一旦棚にしまい、今は息を潜めて隠れる。
少しするとヘリの音は遠ざかっていった。
「なんで、敵が?」
「本隊が国境基地に向かっているはずなのに?」
小声で相談する。
「やっぱりあの空は不吉なやつなんだ!?」
そんななか、兵士さんは興奮しているのか声が大きい。敵のヘリが通ったということは、敵兵がいてもおかしくない。
「声が大きいです、今は静かに!」
「だって!!」
兵士さんは冷静さを失いかけていた。このままではまずい……
私は背後から兵士さんの首に腕を通して、裸絞を行う。いわゆるチョークスリーパーだ。
「死にたくなければ従ってください」
耳元で冷静になって貰えるように話す。
最悪絞め落とすことも選択しなきゃいけないかな。
「ご、ごべんなはい」
両手を挙げ、くぐもっているが謝罪しただろう。ゆっくりと力を抜いていき、離す。
「状況が不明です、今は状況確認が最優先です」
「は、はい……」
落ち着いて貰えたようだ。
「さ、流石ね」ナンシーさんが褒めてくれる。
「本当に7年生なのが、今でも信じられないわ」
アグノラさんすいません。ほんとに経験は違うんです。
「こちらアルステリア支部のレイン中佐だ」
おっと、レイン中佐から通信だ。
「皆、安全を確保して落ち着いて聞いてくれ。国境基地制圧に向かった本隊は壊滅状態になっているようだ。さらには何らかの影響により、全ての車両が停止している状況だ。
クウィントンの防衛戦力は既に瓦解しているため、放棄する。全軍、遅滞戦闘を行いノーステリアまで撤退せよ!既に市民は各避難所からノーステリアに向け避難を開始している。可能な限り遅滞戦闘を行いながらノーステリアを目指せ!軍学校生徒も市民を護衛しながら今すぐ撤退しろ!……繰り返す、ノーステr」
ザザ……ザザー ノイズ音が流れる。無線が途切れてしまった。
無線が途切れた後、遠くで爆発音が聞こえる。これって支部が爆発されたってことじゃ……
「…………マズい」
ミランダさんがボソリと呟くが、みんな同じ気持ちだ。
「パパ…」
シアから言葉がもれる。そ、そうじゃん、ノーステリアの主力ってザックさんも含まれるじゃん。
「ザックさんならきっと生き残ってるよ。ずっと最前線で活躍してるんだから」
「そうだよね」
「そう、だから私達はレイン先生の言ってた通り、ノーステリアを目指すよ」
今の私達にできるのはそれしかない。レイン先生は市民の護衛しながら今すぐ撤退と言っていた。護衛はほとんど建前だろう。それはつまり私達も今すぐ撤退しろってことだ。
生きて脱出しろってこと。
車両が動かない以上、徒歩での脱出だ。厳しい撤退戦になるのは明らかだった。
EN装置、リリーナは気付いていませんが、エーテルノヴァと同様のもの。
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