39.クウィントン③
国境基地の向けて、丘を超えて移動する。クウィントンからは、この丘を超えるとこ国境基地が見えてくるような立地だ。丘は木々が生い茂っているが、普段からクウィントンからの搬入などがあるため、道路は整備されている。
丘の陰に本隊が待機して、少数で可能な限り近付く。そしてポールによる爆破を皮切りに、俺達の部隊が切り込むのだ。
そこで内部から対空兵器を崩せば本隊が突撃していく作戦だ。
今、木々の隙間から見える国境基地にいるのは、敵しかいない。今日で国境基地を奪還するのだ。
内部に入り込み対空兵器を何とかしなくては、味方の航空戦力はない。
対して敵の航空戦力は戦闘ヘリが10機いるのを確認している。歩兵には対空ロケットランチャーを持たせてあるし、レガシーウェポンも一機投入されている。
敵の航空戦力が想定よりもあったとしても制空権は渡さない。
幸い、クウィントン側は刈払われてないため、国境基地の300m地点くらいまで近付くことが出来る。
ここ数日はこの300mが突破できていない……が今日こそは。
「ポール、準備はいいか?」
隣にいるポールに声をかける。
「俺はいつでもいいぞ!ザック、まだ指揮に慣れてないんじゃねぇか?」
うるせぇよ!
相変わらず軽口を叩くポールはいつも通りだ。俺も力が入っていたかもしれないな。ちょうどいい緊張感で俺は無線機を手に取り、本部へ無線する。
「レッド部隊より本部へ、作戦配置に到着。準備完了だ。いつでもやれる」
昔からの部隊名レッド部隊。シルヴァン隊長が亡くなってからも、ずっと使い続けている。
「こちら本部、こちらも準備完了している。レッド部隊へ告ぐ。奴らに鉄槌を下してくれ!」
「了解だ!!」
無線をしまい、ポールに合図をだす。
「ポール、やっちまえ!」
「おう!」
ポールはロケットランチャー【ブラキオ】を構える。
【ブラキオ】は歩兵用のランチャーで比較的真っ直ぐに飛び爆発する。だが、通常これだけでは国境基地の防壁を崩すには足りない。
しかし、ポール・ラードナーの血統スキル【爆破】が加われば話は変わってくる。
血統スキル【爆破】は物に爆発力を付与する。
付与する爆発力は付与者の力量に左右される。ラードナー家はハッキリとした戦果を挙げやすいそのスキルも相まって古くからの名家である。分家も多く存在し、最も多く使用者がいる血統スキルとも言える。
当然、そこには優劣が存在するが、その中で【狩人】の異名を持つポールは最も優れている事にほかならない。
そんなポールが爆発力を高めたランチャーはどうなるか。
ボシューー!!!
という発射音とともに打ち出された弾頭は防壁側面にぶつかり、大爆発を引き起こす。以前も1度みたが凄まじい威力だ。
衝撃波で空気の揺らぎが分かるほどの爆発は、少し遅れてこちらにまで突風が押し寄せた。
先程まで頭を抑えていた手でホコリを払い、防壁を確認する。
そこはあったはずの防壁が円形にえぐれて崩れ、完全に崩壊していた。
「相変わらずのすげぇ威力だ!」
「お褒めに預かり、恐悦至極。
ハッハッハッ!
ルンドバードの野郎どもにおかわりだ!」
ポールはそう言いながら、次弾の準備行う。
「よし、次弾の発砲と同時に交戦に移行する」
血統スキル持ちは特殊だが、ネームドは中でも異常だ。あの威力はポールしか出せないし、ポールでも3発が限界だ。
しかし、爆破は目に見えて効果が分かるため、味方の士気もあがる。
ボシューーー!!!
2発目が先程の穴から基地内に撃ち込まれる。今度は基地内まで届くその爆破は奴らに多大な被害をもたらすだろう。そこをつく!!
「レッド部隊、突入開始!!」
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時は少し遡る。
ルンドバード連邦が制圧した国境基地内の司令室。本来はアルステリア軍が集う場所に、ルンドバード連邦軍の幹部が集結していた。
早朝、クウィントンにアルトリアの増援が到着したとの偵察から報告があったのだ。
「そろそろアレを使う時が近付いてきましたな」
今回のアルメリア侵攻の総指揮官であるジミー・コロブキナ少将は新兵器を使う時を心待ちにしていた。その彫りの深い顔は傍に控えていた、部下から見ても狂気的に見えた。
しかし、もう1人同意する人物がいる。
「ククッ、阿鼻叫喚でしょうなぁ。
この基地の時は手榴弾型のテストでしたが、あの大きさだけで素晴らしい戦果だった。本国の実験では手榴弾型と比較して効果の規模が段違いだったらしいですよ」
答えたのは連邦軍参謀室、室長補佐のニコラス・ボーゼフ。他の軍人と違い、軍服の上に腰までの白いコートを羽織っているその姿は、ひと目で上位者であることを現していた。
白いコートは大統領直轄である参謀室の証である。
独自命令権をもち、戦場では指揮官を飛び越えて兵に命令することも可能な参謀室所属の極小数だけが着ることを許されたそのコートを兵達は恐れ、敬う。
その命令は指揮官より優先され、実質的に指揮官より上位の存在となるのだ。
しかし、その独自命令権を普段から行使する訳ではない。
今もボーゼフはコロブキナに任せている。緊急時に使うからこその特権であり、普段から使用していれば軋轢を産むのは目に見えているからだ。
あくまでも指揮官はコロブキナ、ボーゼフは参謀という立場だ。
コロブキナとしては複雑な所だが、方針は一致しているし、この2人の趣味嗜好は同じであった。
「換装作業はどの程度終わった?」
「はっ!戦闘ヘリは全て完了していますが、車両は5割、対空兵器は1割程度です!」
「まぁ、概ね予定通りだが……車両を優先して急がせろ!!可能な限り使用できるようにしろ!」
「はっ!!」
「偵察兵より伝令!!アルステリア軍動きあり!」
「来たか!?」
「クウィントン側の丘に一個師団を確認!!さらに援軍あり、数少なくとも一個師団以上!」
伝令より報告を聞いたコロブキナはニヤリと笑う。
「新兵器の発射準備をしろ!目標は予定通りの座標に!」
「はっ!すぐに!」
ドゴンッ!!
身体に響く程の爆発音が聞こえ、司令室が揺れる。
「何事だ!?」
「各部隊!報告を!」
「コロブキナ殿、あれを!」
司令室で1番最初に気付いたのはボーゼフだった。コロブキナもボーゼフの指さした方を目で追う。
窓から見えるそこには堅牢な防壁に大きな穴が開けられ、基地の外が見える。
「な!?あの防壁に穴を!?」
「…………もしや【狩人】か!?」
「狩人!?あれが、メラリアでも猛威を奮ったという?」
「いや、狩人は普段は弓を使用しているらしくもっと威力は低い。
しかし、メラリアで1度大規模な爆発があり、違う武器を使用した記録がある。私も資料写真で確認したが、類似している。何よりアレだけの威力だ。そう移動できる兵器の威力じゃない。
何らかの制限があるにせよ、脅威になる」
ドゴンッ!!
再び衝撃が響く。先程の防壁が崩れた場所から、車両を数台巻き込んで倉庫が吹き飛んでいる。
「ふざけた威力だ……
一個人の出していい威力ではないな」
ボーゼフは資料以上の威力を目の当たりにして、驚愕していた。
「急いで迎撃しろ!自由にさせるな!!
おい!新兵器はまだか!?」
そのあまりの威力にコロブキナも焦る。
「準備出来ました!!いつでも行けます!!」
「よし、発射を許可する!2発とも撃て!!」
「はっ!
発射します!カウント、3、2、1、発射!!」
ボシュー!ボシュー!と白煙を巻きながら勢いよく放たれる。
バンドルードより持ち出したその兵器は、車両の後方に設置されたミサイル発射装置により、連続で2発発射された。弾頭は斜め上に高く上がっていく。山なりに上昇した弾頭は徐々に勢いが減速して、反転する。目標はクウィントン及びその手前の丘。
落下をはじめた弾頭は想定通り、目標の上空に到達すると、輝き始める。
輝きは一気に増していき弾頭内部から弾けるように爆ぜ、輝きが戦場に広がる。
その光景をほぼ全員が見上げていた。
戦場の空がオーロラのように輝いていた。
ランチャー≒RPG-7
見た目などはこちらのイメージで。但し、あくまでも性能はゲーム〖Hero of War 虹色の戦争〗を元となっており、実銃とは必ずしも同じではありません。
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