3.真実
「うっ……」
ゆっくりと目を開けるとまず鉄格子が目に入る。
そうだ……
私はトイレに行こうとして、それで……
「あぁ、リリー!」
「母さん!?」
後ろから抱きしめられる。それだけで不安になってた心が和らぐ。
どうやらここは檻の中のようだ。冷たいコンクリートの床の上、母の温もりが暖かい。
「母さん、私達は……攫われたの?」
「そうみたいね…」
おかげで一旦、落ち着くことができた私は、逆に母さんの焦りを感じとる。
冷静に努めているようだけど、私を抱きしめている腕は震えていた。母さん自身も不安で仕方がなかったのだろう。
それを見て私は急激に冷静になっていく。まずは私は自分の置かれた状況を観察する。
2畳ほどの部屋はコンクリートに囲われ、出入口側のみ鉄格子となっている。窓はなく、錆びたバケツが1つあり、それ以外は何も無い。
服は寝巻きそのままだが、魔石はおろか、何も持っていない。
何度か、鉄格子を触ってみるがとても壊せるとは思えないほど太く、劣化してる様子もなかった。
明らかに専用に作られた牢屋なのだろう。
鉄格子の外には階段が見える。窓がないことからも地下なのだろうか。
反対側にはまだ通路が伸びているがそれ以上は分からない。おそらく同じような作りで何個か牢があるのだろう。物音がしないため多分私達だけが囚われたんだと思う。
……どうやって脱出すればいいんだ。
父さんは仕事でいなかった。どのくらい眠らされてたのか分からないけど、父さんが気付くのは遅くなるんじゃ…
冷たい牢の中、どれくらいでたっだろうか、外が騒がしくなった。
それから直ぐに犯人と思しき男達が入ってくる。統一感まとまりのない服装だが、軍用服を身にまとっている。
使い込まれている感じが見受けられるアサルトライフルを持っており、その銃を突きつけられながら2つ上の階に移動する。隙をついて逃げたいが、まだ幼いこの体で武器を奪えそうもない。
そのまま、司令室のような場所に連れて行かれた。
その部屋にはいかにもな机に、重厚な椅子があり、窓もあるが、その景色は全く知らない場所だった。
「隊長、連れてきました」
「おう」
1番奥に座った指揮官と思われる男は手元のモニターを見ていたが、ゆっくりとこちらを振り向く。
私は男の顔を見た瞬間に身体が硬直する。
恐怖、ではない……
…どちらかと言えば高揚だった。
そこには私のやっていたゲーム、〖Hero of War 虹色の戦争〗の登場キャラである、エンドが座っていたのだ。
左頬に大きな傷があり、鋭い眼光で葉巻を吸っている。
明らかにパワータイプの筋肉質な肉体。歴戦の兵士という印象がピッタリの風貌。間違いなかった。
ゲームそっくりな見た目に感動した私だったが、直ぐにとんでもない事実に気付く。もしかして、ここはあのFPSゲームの世界なのかと……
あ…………………
…………い、いやいやいやいや、それはまずい。
銃撃戦がメインのゲームだぞ?
剣と魔法のファンタジーじゃない!
確かに文明がよくある中世みたいな感じじゃないなと思っていた。そういえば、ゲームもキャラによって特殊な能力が存在するんだが、あれも魔法扱いなのか!?
それなら、個人で使える魔法が違うことも、ゲームと辻褄があうかもしれない。
いや、そもそも、FPSなんて物騒なタイプのゲームじゃん。ゲームでやる分には面白いのであって、転生したいとは思ってないって!!
あっ!待ってくれ!
ストーリーモード全然覚えてないんだけど!?
ほとんどマルチモードばっかりやってたから、これからどうなるかマジで分かんないんですけど!?
急に命の危機を認識して、冷や汗が垂れてくる。
「さて、これからお前には色々と聞きたいことがある」
エンドが、怖い顔して話始める。
「これは言うまでもないことだが、お前が抵抗するとその娘が不幸なことになる。余計な手間を掛けるなよ。」
「そんな!娘は無関係なはずよ!言うことを聞くから娘は解放して!」
「お前が従順である限り、危害は加えないと約束しよう」
まずい、どう考えてもまずい。転生した世界が物騒過ぎて既にお先真っ暗だ。
「わ、分かったわ……」
「よし、めんどくさいのは好きじゃないんだ。単刀直入に言う。大人しくエーテルノヴァのパスワードと設計図を教えろ」
私に銃が突きつけられる。
エーテルノヴァなるもののパスワードを聞いている。母さんって普通の主婦とか、だと思ってたんだけど、なんか開発していたのか?
確かに家でも結構パソコンをいじったりしてはいたけど、あれって在宅ワーク的なやつで、開発してたの!?
結構自由にしてる感じだったから気付かなかった。
「教えたら解放してくれるの?」
「あぁ、いいだろう」
「………設計図は私のパソコンで確認できるわ。パソコンとエーテルノヴァのパスワードは娘が解放されて安全が確保されれば教えるわ」
「チッ……、教えなければ、娘が死ぬぞ?」
ただでさえ怖い顔をしたエンドが不機嫌そうに睨む。
「リリーを殺したら私は舌でも噛んで自殺するわ。何があっても話すことは無くなるわ!」
母さんが覚悟を決めた顔で言い放った。少しの間お互いが睨み合っている。先に首を振ったのはエンドだった。
「フン、結局面倒だな……おい、やれ」
エンドが俺の隣にいた男に目配せをした。
「うぐッ!?」
お腹に衝撃がくる。どうやら殴られたようだ。
「リリー!!」
「話せばもうやらないが?」
クソッ、こんな少女を思いっきり殴りやがって!
エーテルノヴァとか知らないけど、母さんが重要人物で、こいつらに話しちゃまずいものだってことは分かる。
「母さん、私は大丈夫だから、喋っちゃダメ!」
「ッ!?」
「な!?このガキ!?」
問題はこの状況をどうするかだ。
幸い、私は手足は縛られていない。
武器を奪う?いや、腕力が圧倒的に足りてない気がする。どうする?
「何だこのガキは?随分威勢がいいなぁ、おい!」
エンドが私に怒鳴りつけてくる。…が、私に注目したところで、カンッと何かが転がってきた。
周囲を観察していた私が1番最初に確認し反応する。
「母さん!伏せて!」
母さんに叫び、私は目を閉じて両耳を手で塞ぎ、蹲る。
次の瞬間、破裂音とカーッという光が部屋中に広がった。私が見たのはゲームでも使われる【フラッシュバン】というもの。効果範囲内の人物の視界や聴覚を奪うものである。
耳を抑えていても、分かるほど、直ぐに銃声が聞こえる。
ヴっ……足に痛みが生じる。しかし、鳴り響く銃声に動くことが出来ない。
何か叫び声も聞こえるが、そのまま伏せている私には聞き取れなかった。
銃声は数分もかかっていないはずなのに、やけに長く感じる。
私は伏せたままじっとしていた。騒音が響いていた時間は終わり、静寂に包まれる。
トントンッと背中を叩かれ、私はゆっくりと様子を伺い、ようやく体を起こした。
振り返るとそこにはゲームでも見たことのあるキャラがそこにいた。。
パッケージにもなっている程の主要キャラ、迷彩柄のヘルメットにサングラス、口元は黒に赤で牙のよつなマークが書かれたスカーフをしている。
「無事か!?良かった!」
そうそう、レッドイーグルと呼ばれるキャラだ!やっぱり、これはHoWの世界なんだと再び実感する。
「ん?あぁ、俺だよ」
レッドイーグルがスカーフを下げ、サングラスをズラした。
そこに現れた素顔は私がよく見た顔だった。前世のゲームではなく、転生してからの話。
「と、父さん...」
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