38.クウィントン②
クウィントン支部の一室では作戦会議が行われていた。
未だ国境基地で抵抗を続けるルンドバード連邦に対する会議である。イーストテリアからの援軍が到着したため、明日からは攻撃の手を強めることが出来る。
「奴ら、クウィントンは簡単に明け渡した癖に、国境基地は随分と抵抗が激しい」
「それは俺も気になってます。クウィントン撤退が早すぎる」
本作戦行動の指揮官アダムズ中将の話題にザック・フォーデンも同意する。
「今の抵抗はメラリアが参戦するまでの時間稼ぎなのだろうが……」
アルメリア帝国としては2カ国との同時戦争は避けたいが、いつメラリアが参戦してきても不思議ではない状況であった。
「そっすよね。遅延戦闘だけならクウィントンでも可能ですもんね……」
「お言葉ですが、クウィントンは城壁と呼べるほどの物がありません。遅延防衛だけに焦点を当てると国境基地の方が自国の被害は抑えられるでしょう。国境基地なら自国内から近く補給線も安定しています。
ルンドバード側としては第1陣の進行でクウィントンに既に打撃を与えていますので、メンツが守られています。
あくまでも主攻はこれからのメラリアであって、ルンドバードはクウィントンにこだわるつもりはなかったのではないでしょうか?」
参謀本部からきている比較的若い軍人、スティーブン・ウルフ大佐が進言する。
「なるほど…メンツか。メラリアへの外交的な部分でも使える。だから、一度はクウィントンまで押してきたと……
理にかなっているな。
流石は参謀本部お墨付きだな」
「過分な評価、恐縮です」
ウルフ大佐はアダムズ中将に一礼する。
「メラリアの方はウォズに任せて置けばいい。我々がやるべきは国境基地の奪還だ。
問題点は対空兵器が生きていることだな。超火力で砲撃して奪還してもその後に使えないのであれば拠点としての性能が著しく落ちかねん」
国境基地の奪還作戦が進まないのは本来はアルステリア側の防衛設備であった、対空兵器が敵の手に落ちていることが問題であった。
制空権が取れず、防壁が強固であるため、イーストテリアからの援軍を待っていたのだ。
「それなんですが、ルンドバードは何らかの切り札があると思われます。
強力なレガシーウェポンか、はたまた新兵器なのか……
でなければ、一夜で重要設備をそのままに国境基地を制圧するなど難しいと思います。
もしくはネームドが数十人で開戦と同時に奇襲すれば可能だったかも知れませんが……
基地の未だ生き残りは発見されていないのですよね?」
ウルフ大佐は一夜で国境基地がやられたことが気がかりだった。
長きに渡りメラリアが仮想敵国であったとはいえ、ルンドバードとの国境の基地だって装備はしっかりはなかったのだ。それなのにあれを一夜で攻略出来るものなのか疑問を持っていた。
「探して見ましたが、おりません」
近くの兵士が最新情報を答える。誰も国境基地の生き残りがいないのだ。
いかんせん、情報が足りなかった。
「ネームドは【ガーディアン】の存在を確認しただけだなぁ」
ザックも分かっている情報を整理する。
「奴らは準備万端だからこそ宣戦布告してきたのだろう。まだ何かある可能性があるが、何れにしろ国境基地の奪還は必須だ。
やはり、ポール、明日は頼むぞ!」
アダムズ中将は国境基地奪還作戦の要となる【狩人】ポール・ラードナーに向き直る。
「了解です。任せてください。クウィントン側の城壁は無くなってもいいのでしょう?」
それを受けてポールは自身ありげに頷く。
それもそうだ。自分のやることはアルステリア国土側、つまりクウィントン側の城壁を爆破の血統スキルで崩し、地上戦の足掛かりを付けること。
リリーナ達の入学式で見せたように、爆破は自分の最も得意とする分野だ。
「あぁ、この際、こちら側の城壁は諦めているさ」
「それならやり易いです。ザック!突入作戦の方は任せたぞ」
「おう!明日で奪還するぞ!」
ザックとポールは軽く拳を交わす。両者は各地で何度も戦場を共にした仲だ。死線をくぐり抜けた彼らはお互いの力量を認め合っていた。
「頼もしいな。2人とも、ルンドバードに分からせてやるぞ!クウィントン、並びに国境基地の今は亡きアルテリア国民の無念を晴らそうではないか。アルステリアに戦争を仕掛けた報いを与えるぞ!」
「「はッ!!」」
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私達がクウィントンに到着した翌日、ノーステリア軍は今日から本格進行を始めるそうだ。
私達はクウィントン内で複数に別れ復旧作業を行う。
戦闘中の国境基地はすぐそこにある。拠点であるクウィントンのインフラ設備は重要だった。
私達の担当は14区だった。
メンバーは来る時の車両と一緒だ。私、シア、カレン、ミシェル、ナンシーさん、アグノラさん、クラレさん、メリアさん、ミランダさんの9人。それとトラックの車両担当である輜重兵の兵士さんだ。
来る時にいたレイン中佐は全体の監督となるため、流石に一緒ではない。指揮官は9年生のナンシーさんで、ナンシー分隊という訳だ。
14区は国境基地側にあり、被害が多く手が回りきっていなかったようだ。クウィントンを奪還して4日目。まだ戦闘の爪痕は色濃く残る。
……遺体も大通り以外は残っている。
そこで私達は遺体の搬出が主な仕事。正規軍が既に安全確保を終えているが、私達も念の為ハンドガンは携帯している。私はそれだったらとハンドガン【オズ】の変態カスタムを装備している。
この装備に何も言ってこない所は、FPSしてやがるぜ…
しかし、ゲームとは違い、五感から入る情報は現実だ。
現在の戦場はここではないといえ、空気感がまるで違う。演習とは全く違う肌感感だった。
演習で見慣れたと思っていた死体……
でも、焼け焦げた臭いと黒く固まった血痕が現実だと突き付けてくる。誰かは分からない。しかし、クウィントンの市民であり、誰かの家族だったのだろう。丁重にそっと担架にのせて大通りに止めたのトラックに乗せる。
中には血痕が続き、途中で倒れた遺体もあった。背中に銃で撃たれた後がある。
衣服が剥ぎ取られ、強姦され殺された遺体もあった。ミシェルは気付いていなかったので言わなかったが、シスターも明らかに殴られた後があった。
おそらくは……そうだろう。気が重くなる……
アルステリアがクウィントンを奪還するまでの間、見つかった市民は酷い目にあったのだろう。すぐに正規軍と交戦になってそれどころではなかったはずだが、恐ろしい時間だったであろう事は、想像にかたくない。
ルンドバードの奴ら、好き勝手暴れ回ったようだ。
無論、直接知らない人違ではある。しかし、確実に、フツフツとルンドバードへの怒りは湧いていた。
「みんな、昼休憩にしよう」
ナンシーさんに言われ、気がつく。途中からみんな無言で仕事していた。
大通りに戻り、携帯食料を手にする。
みんな口数が少ない。そりゃそうなるだろうと思う。
シアは食欲がないのか、携帯食料の包みをとる様子もない。
「シア、すぐには難しいかもしれないけど、切り替えよう。私達が護れるように強くならなきゃいけない。二度とこんなことさせないように。
ザックさん達が奴らに報いを受けさせる為に戦ってる。今は無理にでも食べて」
シアの瞳は涙が溢れそうだった。色んな物を見たんだろう。
「シアちゃん、私はルンドバードを許さないよ」
「私も知ってるつもりだったんだけどね。くるものがあるよね。私はある程度心を切り離さないといけないなと思ったよ」
ミシェルは昨日でもう、心の整理は付けたようだし、カンナも上手く折り合いを付けているみたいだ。
「…うん、そうだよね」
「私達も初めてだし、気持ちは分かるよ」
ナンシーさんがシアを撫でる。
「私もカンナちゃんみたいなタイプかな。私、【絶命】が父さんなんだけど、父さんが言ってたんだ。戦場では心を殺せって。自分がもたなくなるって」
そうだよね。アグノラさん達もこんな事は初めてなんだ。軍学校は私達が兵士になった時に心の折り合いをつけれるように派遣したんだろうか?それとも人手が足りない?
それ全部かも知れないけど、確かに来なかったら楽観視してたと思う。私はクウィントンに来てから心底痛感していた。
ここで死んだらリスポーンしない。この世界はゲームではないのだ。
ハンドガン【オズ】≒グロック18C
見た目などはこちらのイメージで。但し、あくまでも性能はゲーム〖Hero of War 虹色の戦争〗を元となっており、実銃とは必ずしも同じではありません。
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