34.朝礼
学年対抗訓練というイベントも終わり、日常にもどる。
「おはよっすー」
「おはよー」
ハーヴィンとマッドが教室に入ってくる。
「おはー」
「おはようございます」
既に教室にいたカンナとミシェルが応えた。2人1部屋の寮のため、登校も同室2人は同じ時間になりがちだった。
「いやー、対抗戦も終わったな」
「昨日の9年生対8年生、隊の動き方とか練度高いなぁって思ったよ」
やはり、今の話題は一昨日、昨日と開催された学年対抗訓練の話だ。1日開けただけでは話題に事欠かない。
昨日は7年生は見学の為、モニタールームで観戦している。双方の状況がよく理解でき、どう動いているのか見るのも勉強だ。
マッドも自分達との部隊としての練度の差が見えていた。
「だねー、よく勝てたなぁって思ったよ。理由ははっきりしてるんだけどさ」
「ふふふ、そうですね。7年生が9年生に勝つのは開校以来初めてのことらしいです」
「そうなのか!すげぇじゃん」
「コラコラ、調子に乗ると痛い目見るぞー」
「うっ!?確かにな!卒業試験ってのがあるんだろ?それを合格しないと少佐になれないとかなんとか!」
ハーヴィンが最近仕入れた情報に触れる。
「みたいだねー。卒業試験って何やるんだろ!?」
「私、昨日先輩に聞きました!正規軍の新人さん達と演習するらしいです」
「ほっほう……
それはなんと、また、リリーが好きそうな内容だねー」
カンナが苦笑いしながら話す。みんな同じ気持ちだった。アイツなら嬉々としてやる!と。
「ですね。演習内容と日頃の査定によって階級がほぼ決まるそうです。卒業試験合格は少佐以上という事で、合格率は2割程度みたいです」
「うわぁ、合格って難しいな」
「そうですね。実質、軍学校合格卒業って、そのクラスから1人か2人ですね。それでも卒業試験の成績で決まる階級が少尉から中佐まで幅が広いので、少しでも階級を上げたかったら好成績を残すしかないみたいです」
「じゃあ、赤猿先輩も階級欲しさにやったんか」
「ぶふッ!それやめて!笑っちゃうから!」
「なんとなく言いたいことは分かっちゃう、ネーミングだったね」
「あの状況じゃ先輩も言い返せないし、言い切ってたからねー」
「おっはよー、あれ何笑ってんの?」
「おはよー」
リリーナとシアも教室に入ってきた所だった。
「はよー。いやリリーが変なあだ名つけるから!」
「あだ名??なんかつけたっけ?」
当の本人は全く自覚がない。それもそのはずだった。
「赤猿先輩とか呼んでたでしょ!?」
「え!?なんで知ってんの!?」
「え!?あんた本人を前に思いっきり呼んでたじゃん」
「えぇぇえ!?マジで!?全く覚えてないんだけど!」
本人は呼んだことを覚えていないのだから。完全に心の中の声は漏れていた。
「私、リリちゃんが呼んでから、赤猿先輩としか思えなくなってるよ」
「そうそう!確かに似てるもん」
「私は気まずかったですよ」
「うっそ!?やっちゃってるじゃん」
「リリちゃん分かっててやってるのかと思ってたよ」
「シアー?、私だってちゃんと先輩を立ててるよ」
リリーナが何を言ってるんだと、シアの肩をぽんぽんと叩く。
「そういえばさ、いつものようにすれ違う時、先輩を立てて敬礼するじゃん?」
この学校は軍学校だ。先輩とすれ違う時などは挨拶として、敬礼するのが通例となっている。上官に対する対応のようなものだ。
「いつもは別になんの反応もないのに、今日はなんか凄いしっかりと敬礼返されたんだよね」
「あぁー、気持ち分かるかも」
「うん、別にいいんじゃない?挨拶返してくれるのはいいことだよ」
一同、納得顔で頷いている。
「え?なに??」
リリーナだけがピンと来ていなかった。
「あ、やっぱり演習勝ったから、こう、向こうも私達を認めたみたいな!?」
上級生は大なり小なりリリーナに恐怖心を植え付けられているのだが、ただ全力でやっていただけのリリーナには理解出来ていない。
「ま、まぁ、平たく言えばそうゆうことかもしれないね」
「マッドぉー、含みがあるねぇー」
「いや、いや、多分だよ。多分だけどね。7年生を認めたじゃなくて、リリーナ個人を認めたというか……認識したというか……ヤバいやつだと思ったか……」
マッドも面と向かって言うのは憚られたようで、最後は小声だった。
「お、私有名になったの?
フッフッフッ、ついに先輩にも私という存在がバレたか!人気者は辛いねぇ」
リリーナはチャンネル登録者が増えたくらいの感覚でそういった。認知という部分ではそうかもしれないが。
「リリちゃんのことはサークルでもずっと言ってたんだけどね」
「シアよ、やはり百聞は一見にしかずなのだよ。分かる人には分かるのだ」
リリーナは勝ち誇ったようなドヤ顔をしている。
「なるほど……」
「上級生からしたら、シアに聞くよりも見た方が本当にそうだったんだろうねー。見たら信じる信じないじゃないだろうしね」
「くっくっく、私の時代かな」
気付くとチャイムがなり、朝礼が始まる。教室に入ってきたのは担任であるシンディ・レイン。
「今日からまた通常通りに戻るが、その前に諸君に挨拶したいという人が来ている。さ、入ってこい!」
ガラガラとドアを開けて入ってきたのは他でもない、赤猿先輩ことワイリーとゴリラ先輩ことドネル、そしてリリーナはあまり認識していなかったクラレという女子生徒。
揉めた時の主犯、モンティーヌにやらされていた3名だ。
7年生達はしんと静まりかえり、注目が集まる。
真ん中にたったワイリーが息を吸い、覚悟を決めて話し出した。
「今日は先週の演習場使用時間延長の件、正式に謝罪しに来させてもらった。7年生諸君には不快な思いさせてしまい、申し訳なかった。
……すみませんでした!」
「「すみませんでした」」
3人とも深々と頭を下げる。
上級生がわざわざ自分達の所にきて、しっかりと謝っている。ケジメを付けようとしている。その光景に誰も声が出せないでいた。
見かねたレイン先生が声をかける。
「彼らも反省している。もとより、モンティーヌ先生による部分が大きい問題だ。皆、許してやってくれないだろうか」
「僕はいいですよ。ここまでやって頂けましたし、もう怒りも何もありません」
1番初めに声を上げたのはイーノスだった。
それに続いて続々といいという声が上がる。
「いいそうだぞ、3人とも顔を上げろ。真っ当に頑張れよ」
「「「はい!」」」
「じゃあ、朝礼を始めるから、君たちも戻りなさい」
「はい、失礼します」
少しほっとした表情の3名は、チラチラとリリーナの様子を見る。
「ヒッ」
眉間に皺を寄せているリリーナに見られ、クラレが小さい悲鳴をあげながら退出していった。
「リリーナ、難しい顔してどうした?不満か?」
「あ、いえ、
あの女の先輩は記憶になかったので……」
「む?そ、そうか、一緒にドアを塞いでいたとのことだったんだがな……」
クラスメイトがみんなリリーナを見ている。
「あ、あれ?みんな覚えてた?」
「まぁ、メインは2人だったけど、あの人もいたぞ」
「そ、そっか。ガン飛ばしてたのがあの2人だったからそっちしか覚えてなかったよ」
「あぁ、ミシェルがガン飛ばされたってやつだよね」
「なんでミシェルを敵視したんだろ?」
「え?普通にリリーだと思ったんじゃない?」
「え??」
「私は本人から聞き取りをしているが、リリーナだと思ったらしいぞ。このクラスのリーダーは背の小さい女子生徒だと聞いていたそうだ」
レイン先生がカンナの予想を確定情報として補足する。
「私の代わりに睨まれたの?ごめん、ミシェル!私の知名度が低いばかりに!」
リリーナは自分のためだと知り、落ち込む。少し明後日の方向だが……
「いいんだよ。本番前にリリーちゃんを隠せた方が良かったし」
「そ、そうなの?」
「そうだな、そういった情報は大事だ。今回も警戒する人間がはっきりしてないことがプラスに繋がった面もあるだろう。
みんなの行動が全て勝利に繋がるものだったことだろう。今日まで事後処理に追われて言う機会がなかったが、改めて。
対抗戦の勝利、おめでとう!」
レイン先生が拍手し、みんなで喜びを分かち合う。
「ぃよっしゃー」
「頑張ったもんねー」
「これは軍学校始まって以来の快挙だぞ!長官も驚いておられた」
「僕らの評価も上がったんですかね!?」
「フッ、今後調子に乗らなければな!」
おぉー!!
みんな卒業試験の事が頭をよぎったようで、嬉しそうにしていた。
「長官に覚えられたかな!?」
イーノスもテンションが上がっている。
「私は話したことあるから、私は覚えられてるぞぉー」
カンナも楽しそうに話している。
「私も長官に覚えられちゃったかなー」
リリーナも言い始めるが、
「いや、お前を覚えてないわけないだろ」
「とっくに知られてたんじゃない?」
みんなのから反論を貰う。本当はレッドイーグルの娘ということで入学前から知っていたが、それは学生達に分かるものではない。リリーナも直接会ってはいないのだ。
しかし、そもそもあの戦果で知らなかったらそれは問題である。
「リリーが分からなきゃ、イーノスなんて映ってもいないね!」
カンナはもはやイーノスを弄り始めた。
「な!?それは困るよ!リリーナ!今度は君は拠点防衛に専念しよう!」
「それは、イーノスがやられたら、私にも出番が!?フッフッフ……後ろに気をつけることだな」
「お、おい!その含み笑いやめろ!?怖いから!!」
和やかな訓練の日常に戻ったのだった。
リリーナはとっくに忘れていた。
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